書評:『未来の年表 人口減少日本でこれから起きること』(河合雅司)

人口動態学(英語:population dynamics)という学問がある。
この本は、それである。

未来の人口推移というのは非常に精度が高く予測できるものらしい。ドラッカーなどは、「すでに起きた未来」とそれを呼ぶ。普通は、これを政策に活かすのだが、なぜか、日本人はそれをしてこなかった。集団的なインテリジェンスの欠如である。

日本の人口は減少する。もはや、減少している。この流れは止まらない。

というのは、すでに出産する年齢の女性の予備軍が少なくなっているからである。これから出生率が上がったところで、生産人口の絶対数が減っていくので、人口は増えない。一方、上の世代は、団塊の世代(ベビーブーマー)が75歳を超え、しばらくすると団塊ジュニアが高齢者になるので、高齢者はどんどんと増えていく。そして、寿命で死に出すので、死ぬ人の方は大量になっていくのであるが、生まれてくるのは先細る。増える数より減る数がより大きいのだから、人口は減る。人口減少は、すでに起きた未来である。

という、日本の少子高齢化・人口減少問題を、年代別に紐解き、その対策を提言しているのがこの本である。一読すると、目次が要旨のような本なのだが、例を引くと、以下である。

2021年 介護離職が大量に発生する
2023年 企業の人件費がピークを迎え、経営を苦しめる
2025年 ついに東京都も人口減少へ
2027年 輸血用血液が不足する
2039年 深刻な火葬場不足に陥る
2042年 高齢者人口が約4000万人とピークに
2045年 東京都民の3人に1人が高齢者に
2065年〜外国人が無人の国土を占拠する

読んでいて意外だったのは、地方より東京で問題が深刻であることだ。今の40代が高齢化するので、東京はひどいことになる。50代になりその親世代が介護が必要になると近くに呼び寄せるので、さらに酷くなる。輸血用の血液がなくなったり、介護施設が足りなくなるなど、医療介護への影響が大きい。

東京都は高齢者人口が増える。地方は、母数がすでに小さいので、高齢者人口は大して増えない。高齢者が生活に困るのは、都市部であるという。

高齢者の中でも、65歳ー75歳の高齢者は早期にピークアウトしてしまうことも意外だ。労働力として期待できる75歳までは早期にピークアウトして、むしろ減っていく。増えていくのは、ヨボヨボの爺さん、婆さんである。

満員電車を運行しようにも、駅員になる労働力はいないし、ヨボヨボの婆さんばかりが、ゆっくり電車に乗るので、分単位の運行もできなくなる。

人口不足を移民で賄おうとすると(特に単純労働力を移民に頼ろうとすると)、フランスや英国や米国のように、移民の政治的な力が強くなり、貧富の差が激しくなり、治安が悪化する。日本は、今日における日本人的なイメージではない人が政治的な権力を持ち、違う国土になるわけだ。

というのが、なりのシナリオ。

その対策もこの本ではしっかり書かれている。
意図的に縮む政策を10あげている。

まとめ直してしまうと、以下になる。

・75歳までは働く
・居住エリアを絞り、それ以外の地域は捨てる
・夜中は捨てる
・高付加価値産業以外は捨てる。匠産業はやる。
・都市部と田舎が連携して一体運営する
・第三子以降に1000万円給付


感想

高齢化と出生数の低下は深刻である。ここまで深刻な未来を作ってしまった失策に気づかなかったのはよくなかったと思う。人口を増やすことは、団塊ジュニアが死に絶えるまでは、できないだろうと思う。時すでに遅しである。

大事なのはその対策で、なるほどなと思った。

第三子に1000万円つけるのは当然である。議論の余地もない。

リソースが減るので、やることを「捨てる」が基本。
地域、夜中、低付加価値産業、当然捨てるべきだろう。

独創的で、コロンブスの卵だと思ったのは、都市と田舎の連係である。特定の都市と特定の田舎を組ませて、補完関係にして、財政も一体化する。病院や介護施設を都市に作る必要はないので、都市からアクセスしやすい田舎に作る。別荘やセカンドハウス的な発想で、第二の故郷を作っておく。空き家が溢れる時代であるから、これなら、できそうな対策である。

灼熱の東京の夏にいると、夏休みは、田舎にいるべきであると思う。田舎も暑いが、土のあるので、少なくともアスファルトの照り返しは少ない。子供が遊べるのも、田舎であろう。

ど田舎で川で遊ぶのも良いが、そこそこ暮らせる田舎がよくて、これがコンパクトシティになっていると便利だと思う。生活レベルをさほど落とすことなく、必要なものは入手でき、高い医療サービスを受けられる田舎の集落と東京を行き来する生活であれば、良いだろう。例えば、50歳60歳の第二の人生を東京から第二の故郷で暮らす。住みなれた土地を二つ持ち、財政的にも繋がりを持った自治体で一体整備することが良いと思う。

お互いの距離は、遠すぎず、50kmでも十分だと思うので、新幹線なり電車なりで、二つの地域の行き来がしやすいと理想的である。ふるさと納税を発展させ、財政移転をすることで、都市部の高齢化問題を解決できるんじゃないかと思う。

縮減の時代なので、密度が大事である。スポンジ状になってしまうと終わってしまうので、改めて意識したいのは、捨てるところと残すところをしっかり決めて、残すところは残すことである。集中と選択は時に失敗を生むのだが、縮減時(リストラ時)においては、戦略的に物事に取り組むのは重要である。

縮む人口という、限られた労働リソースを効率的に配分する必要性があるのだろう。

子供の世代のためにも、このテーマは、継続的に取り組んでいきたい。

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