書評:『昨日までの世界(下)』(ジャレド・ダイアモンド) その3:多言語主義

前から続く

お次は、多言語主義の話

伝統的社会に多い言語

言語というのは、国家によって少なくされている。現在、非常に多くの言語が残っているのは、伝統社会、つまりは、部族社会においての方が圧倒的に言語の数が多いという話。ちょっと離れた場所で、違う部族であれば、違う言語を話しているのが現状で、その言語の数は大変に多いそうだ。

言語が多いということは、マルチリンガルであるということにも繋がる。母親が、違う部族に嫁いだ場合、母の言語と、自分が生まれ育つ父の部族の言語を学ぶ。そして、それを完全に使い分けるんだそうだ。

マルチリンガルといっても、中途半端なそれではなく、Aという言語を話しているときはAという言語だけしか使わない、という徹底したものであるらしい。タレントのジェイソンなどを想像すればたやすいが、言語の習得が中途半端である場合、母国語と対象の言語が混じってしまい、非常にみっともない言語を話かたをしてしまう。これは、言語の習得度合が低いときに起きる現象だそうだ。

例えば、英語を母国語をする人が、ドイツ語は完璧に話せるが、似ているスペイン語とイタリア語を混同して話してしまうことがあるのだというが、成熟すると、この現象が起きない。

私自身に当てはめてみると、流石に英語を喋っているときに、日本語の単語が混じることはないが、フランスを話しているときに英語の単語が混じってしまうことがある。フランス語のレベルが低いから起きる現象で、英語も昔は日本語が混じったが、今は、英語で考えているときに日本語が浮かんでくることはあまりない。

というわけで、部族社会の人はバイリンガル、トリリンガルというのが多いのだという。


バイリンガル・トリリンガルは頭に良いのか?

米国という国は、英語主義である。二か国語喋ることをよしとしない。それは、移民の国だからであり、二か国語を喋る移民世代は英語が下手なので、二か国語話して混乱させるよりも、英語だけで行こうという風潮が強いのだそうだ。

「一言語しか話さない方が覚えが早い」というのは統計的に間違いだそうだ。二言語話す家庭が、語彙力などが10%ほど減る傾向がある、という研究結果があるが、これは、疑似相関の様子。二言語話す人は、移民の子供が多いので、貧富の差や学習環境などの差で語彙力が劣るだけであって、同じような学習環境においてみれば、そこは変わらないということらしい。

ただ、バイリンガル以上は、脳みその使い方は違うそうで、「実行制御」というらしい。日本語と英語のバイリンガルを想像してみると、まず、言語を聞いたとき、何語なのかを判定しなくてはならない。そした上で、モードを英語モードに切り替えた上で、英語を理解していくという制御が入る。

人間生きていると、多くの情報が入るが、そこから必要な情報だけを取り出して、実行に繋げる。多くのセンサーの情報の大半を捨てる作業がこの「実行制御」だそうで、これは、5歳児までに決まる。

ディズニーの英語教材などをみると、「小さいうちに英語を学ぶと脳みその構造が違う」的なことが書いてあるが、まあ、そういう研究なのだと思う。

私が勝手に言い換えてしまうと、モードの切り替えなのだが、このモードの切り替えという実行制御ができると良いことがあるそうだ。それは、ルールが変わった時への対応だそうだ。

この辺の実験の話がたくさん書いてあるのだが、要するに一言語では、バカの一つ覚えで、今までの習慣で同じことを反射的にすぐしてしまう。一方、実行制御力の強いバイリンガル以上は、ルールが変わったら、そっちのルールにスムーズに移行できるんだそうだ。

まあ、なんと、ルールの変わりやすい今の時代に良いことか。

アルツハイマー防止にバイリンガルがきく

という、バイリンガル以上の脳みその鍛え方というのを真面目に研究していくと、アルツハイマー防止の効果があることがわかっているそうだ。

まだ完全にメカニズムが判明していない様子なので、まだ100%きくというと、薬事法か何かに引っかかりそうなので、気になる人はちゃんとこの本を読んで欲しいと思う。

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言語の絶滅について

国家社会というものは、言語を絶滅させる。

日本語でもわかりやすいが、日本という国家ができて、方言は滅びる方向に進められている。沖縄の言葉などは、明らかに標準語とは違う言語であるのに、それを言語として認めようともしないし、標準語の教育も行われる。伝統的な米国のように、社会的にバイリンガルさえ許さない狭量の社会も言語を破壊の方向に導くし、フランスもフランス語を強要するし、イタリア語も方言はないことになっている。

という環境の中で、今まで伝統的な社会で暮らしている人を都市に引き出し、都市で国家の標準語を使わせるので、だんだんとマイナーな言語というのはなくなっていく方向である。

著者のジャレドアイアモンドさんは、それを生物の多様性が失われていくように嘆いているのである。

感想

私は宝くじで大金が当たった時にやりたいことの一つに、語学学校に通うというのがある。できれば、慶應義塾大学の言語講座に行きたいと思っている。

そこで、様々な言語をきちんと使えるようになり、喋れるようになり、読めるようになった上で、色々な国に旅行してみたいと思う。

それが、老人ボケの予防にもきくそうだので、それは人生を豊かにしてくれるんだろうなと思うわけである。

多分続く。



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