書評『米中衝突の結末――日本は孤立し、自立する 日高義樹論考集』(日高 義樹)

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安全保障の本で、いつの日高さん。米国軍についてちゃんと学ぶにはやっぱり日高さんの本の一択であると思うわけだ。まあ、共和党に近い部分は少しだけ割り引いて考えるべきなのだろうが。相変わらず、学びが多いし、しばらく日高さんの本を読んでいるけど、戦力分析的なもの、勢力分析的な意味で、日高さん情報の方向性は正しいと、私は、最近、確信を持ち始めた。

ただ、この本は、最初と最後の整合性が取れていないところがあるなと思って読んでいたのだが、それもそのはずで、書き下ろしではなく、雑誌の連載をまとめなおしたものである。米中関係はガンガン動くので一部に無理が出ている。しかし、軍の戦力というのは、そう短期間で整備できるものではないから、だいたいにおいては正しいと思う。もう一つの著書も、早くKindleにしてほしいものだ。そうすりゃ、すぐ買うのに。

この本で一貫しているのは、「トランプはバカじゃない。戦略がある。彼は、交渉上、バカのふりをして、右に左にフラフラしているように見える」という筋である。その背景にある、勢力分析をしているのがこの本である。

色々、世界の前提が変わっている。言葉を変えれば、安全保障上の条件が昭和・平成の時代とは、大きく変わっている。


中東と石油

トランプは中東に興味を失っている。なぜなら、米国には油田があって、中東の油田はいらないから。イラクを空爆しようにも、戦略拠点となる基地がない。米国がリスクとお金をとって、中東を守る必要はなくなった。

本には書いていないが、ボルトンをはじめとしたネオコンはイスラエルが命だから、トランプに残るのはユダヤ人の選挙の支持を取るためのイスラエル対策ぐらいのものであり、中東の優先度は低いのだろう。



日中貿易戦争と米国民主党の堕落、トランプ再選

米国という国の中枢部に結構中国の諜報が入り込んでいたようで、米国民主党などは、ズブズブであるという話。もっとも激しいのが、バイデン元副大統領ということ。バイデンの息子のファンドに$10Bilを中国が低利で貸し付けたという話。そのハンター・バイデンは、なぜかウクライナの天然ガス会社の取締役になっていたり、中国に病院経由で製薬の秘密を流していたりと、中国との癒着状態であるという話。そして、米国民は、すでに中国を激しく嫌っており、「習近平は嘘つきで信用ならない」というの定説である。このような世論の中、中国ズブズブのバイデンが、次の大統領選挙で勝てる見込みがなくなった。

民主党の候補といえば、超左翼の人たちがいるが、左すぎて大統領選挙には勝てない。勝てそうなのがバイデンだったが、この汚職具合で、中国癒着で勝てない。後の泡沫候補が短期間で上がってこない限り、民主党には有力な候補がいないので、トランプは再選だろうという話。一方のトランプは、地方組織を固めて、選挙戦に備えているらしい。

普通に考えると、トランプ再選だろう。


オバマをディスりつつ、安全保障関係

オバマは本当に悪いやつで、米国の大統領は権限の移譲をスムーズにやる慣習であるのに、それを無視して院政を引こうとした。米国の行政機関というものは、えらい官僚は、大統領と一緒にやめるようにできているのに、民主党側の主要な人員を普通の公務員にして、ホワイトハウスの公務員に残すということをしたもんだから、トランプ大統領がそれを対処するのに大変だったという話。

米国は、政権交代がよく起きるんだから、こういうことをやると米国という国がぐちゃぐちゃになっていけないのだが、オバマは私利私欲のためにそれをやった。

そして、北朝鮮が核兵器を作って、水爆を作った。フリンがそれをオバマに報告したら、なぜかオバマはフリンをクビにして、それを無視した。そして、今の世界の惨状である。困難に直視できないひ弱な大統領というところだろうか。軍事費も削り、弱体化した米国軍のせいで、世界の混乱が起きた(その米国軍を立て直すべく、軍事費を強化しているのがトランプ大統領ということらしい)。

オバマは、おそらく、史上最悪の大統領であろう。

プーチンは、ユーラシア大陸統一を狙っているとのこと。ヨーロッパの併合を狙ってる。まあ、プーチンとロシアの軍事力ならやりかねない。

シリコンバレーの人たちが米国政治を破壊している。

昔はGEなどの重電が米国の政治を動かしていたんだけど、最近は、GAFAみたいなところが政治に大きな影響力を与えていて、めちゃくちゃという話。

そもそも米国という国は、官僚は短期的なことだけをやる。大統領スタッフが長期的なことを考えるが、その実務をやるのは、シンクタンク、という構造になっている。国家の戦略を立てるのは、シンクタンクなのである(間違っても、政府の補助金で食っている寄生虫たるXX総研という、日本のコンサルもどきとは別物である)。

そのシンクタンクに異変があり、クリントン基金が支援するフュージョンGPS、ファイスブックのFuture of american prospect、グーグルのNew America財団がある。左翼系の学者・官僚を動員して、トランプに対抗する政治組織を作っているとのこと。Center for American Progressなどがその中心ということ。

フュージョンGPSがトランプのロシア疑惑のフェイクニュースの発信源ということらしい。さらに、GAFAちゃんたちは、米国のメディアを買収している。アマゾンのワシントンポストなど。

正当な選挙で勝ったトランプ大統領にいちゃもんをつけるのが、実はGAFAちゃんたちであるいう話。叛逆反乱だよねという話。


中国の話

中国がやっているのはダンピング。中国国営企業を作って、補助金をばらまいて、劣悪な労働環境で社会保障をしないために安い人件費で、不当に安く工業製品を作り、輸出をしてお金を儲けている。そのお金で軍隊を強化し、南シナ海を侵略してみたり、新疆ウイグルで虐殺や人民の抑圧をしているのが、今の中国共産党である。

TPPはやってみて、ベトナム企業が儲かるわけだが、ベトナムは中国から輸入をしているから中国企業も儲かってしまうという構図があるとのこと。

中国経済、バッチリ下降しているよね。2018年に、外国企業が2700、62万人が中国を脱出している。研究所も逃げ出している。統計も全部右肩下がり。

一帯一路も破綻。中東先からがないという話。中央アジアを通ってパイプラインを作ろうとすれば、とてつもなく費用がかかる上に、ロシアが黙っていない。といことで、終わり。アフリカも、お金を貸して、インフラをカツアゲしてくるので、中国はすっかり嫌われているという話。鉄道引いてやる代わりに中国から移民がどっさりきて、農地を奪うので、ちょー嫌われている、という話が実にわかりやすい。

人民元を国際通貨にというのも無理がある。人民元の量が足りない。

この本を読んで一番驚きだったのが、本筋には関係ないけど、第二次世界大戦後の米国の振る舞い。戦後、米国は、イタリア・日本から公式には記録されない形で巨額な賠償金を取り上げたという話。具体的には、米国軍は、日銀から、膨大な金塊を取り上げたという話。日高さんはその写真を見たらしい。その各国から召し上げた金塊をベースに、米国はドルを世界にまき、ドルを国際基軸通貨にした。それだけの力は、今の中国にはないという話。

中国の二重金利もひどい。中国人民は、4%の金利を払って借金する。一方、個人の預金にかかる利回りは1%。間は全部銀行が抜いていると言う話。どこかの国の金融不況のようである。これをカバーするシャドウバンキングがあったんだが、これも規制して潰すので、金融が目詰まりして、経済がうまくいかないと言うことらしい。

トランプは中国に3つのことを仕掛けている。中国国営企業を米国に進出させない。中国企業に米国ベンチャーに投資させない。中国の頼るWTOを機能不全にさせる。これが全部よく効いているとのこと。

中国のハイテク戦略も、自ら技術はなくて、全部ベンチャーを米国から買ってくる形でやっている。ところが、規制で買えなくなって技術を内製化できないということらしい。

ということで、中国企業の不正な経済が終わらない限り、米中の関税問題は決して解決しない、ということ。

米中の覇権争いは、経済戦争で済めば良いが、すまない場合、軍事の戦争になる。ところが、中国は、食料と石油が自給できないから、戦争すると負ける。中国は大英帝国にはなれないと言う話。

具体にうまくいかないと南シナ海とか台湾で中国軍暴発という恐れもあるが、トランプ大統領は、日本列島・沖縄・フィリピン・マレーシア・インドネシアまで地対艦ミサイルを整備して、小型空母とF35Bと戦略爆撃機で軍事訓練を行って、中国軍を軍事的に封じ込めてしまったらしい。米軍強し。


北朝鮮を含む世界3大悪人

北朝鮮は核兵器を持っていて、核兵器を持った国に米国は対抗しない。なぜなら、米国の都市も被害を受けるから。つまり、米国の核の傘から日本は外れてしまったということ。北朝鮮が日本を攻めても、米国は北朝鮮と戦争はしないのである。北朝鮮は中国の力の低下を見越している、とまで言っている。

世界三大悪人は、習近平、金正恩、プーチン。

これらに対抗する米国。実は、法律上は、米国は日米安保がなくても沖縄に基地が置けるらしい。沖縄の施政権だけを日本に戻しているので、占領状態は変わらないということらしい。

米国は、日本の日米安保の破棄も方向性が見えているらしく、日本も核武装しないとねーという結論で終わっている。


読後の感想

中国共産党が崩壊するまで、米中の貿易戦争は続く、というのが感想。トランプが再選なければ中国が逃げ切れるかもしれないが、現状だとその可能性は薄くて、よほどの民主党のスター候補が泡沫候補から上がってこないと難しいということ。

そして、米国軍は非常に強い。ただ、ロシア、北朝鮮の核兵器は恐るべきものであり、日本の安全保障は危ない。普通に考えると、残念ながら、核武装しか日本を守る道はない。日本は持とうと思えばすぐに持てるのだろうが、かなり厳しい。核アレルギーのある日本の現状を鑑みると、戦略原子力潜水艦を複数持って、核ミサイルを持つ道だろうと思う。

経済については、中国経済は明らかに悪くなる。このまま進めば数年以内に中国共産党体制が崩壊するだろうと思われる。早ければ、2019年、遅くとも2022年ぐらいには崩壊するのではないだろうか。ベトナムなどの東南アジアはよくなる。日本経済は安全保障さえちゃんとやればどうにかなると読むが、中国に近づきすぎると確実に死ぬ。中国と米国の軍事的な開戦の可能性は低いと読む。もしも、中国軍の一部の暴発により、南シナ海などで偶発的な戦争が起きた場合、一瞬で地域限定的に中国軍は壊滅的な被害を受けて、米国軍にぼろ負けするだろう。中国世論はびっくりして、色々中国国内で起きるというシナリオをみる。

もっとも落ち着いた中国崩壊シナリオであると、習近平から李克強あたりに権力が移り、鄧小平路線に戻り、さらに民主化に進むシナリオだろうか。

激しいシナリオだと、中国内戦となるだろう。この場合、中国の核兵器の扱いが難しく、米国・ロシアをはじめとした列強国の介入を招くだろうと思う。


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