書評:『銃・病原菌・鉄 下巻』(ジャレド ダイアモンド, 倉骨 彰)

下巻は、文字の話から始まる。

文字を発明した国というのは少なくて、そのまま伝来したり、借りてきたりする国が多かったという話。最初は表意文字ができて、それが同音異義語として音に転用できることがわかって、音節を分解して、アルファベットのような文字ができたという話。意味はわからなくても、文字だけ借用したアメリカンインディアンの例なども引いていて、面白い。中東と共に、中国は文字を生み出した貴重な文化圏。日本は中国から文字を借りてきただけ。これもまあ、珍しい方だけど、オリジナルとは遠いよね。

発明は必要の母である、が次。とても面白いと思った。

必要は発明の母というのは嘘で、実際は発明が先になされ、用途が後で発明されているという話。蒸気機関も炭鉱の水を汲み出す為に発明されたが、それが蒸気機関車や工場で使われるとは想定されていなかった。でも、イノベーションは蒸気機関車で起きている。鉄道という必要が、蒸気機関という発明を産んだのではなく、蒸気機関という発明が蒸気機関車による鉄道という必要を生んだのが歴史、という話。ちなみに、蒸気機関はワットが発明したのではなく、その理論は随分と前から研究されている(ワットが、やかんから立ち上る湯気を見て蒸気機関を発明したというのは作り話で、ワットが発明を思いついたのはトーマス・ニューカメンが57年前に発明し100台以上が作られたニューカメン型蒸気機関を修理していた時)し、エジソンが電球を発明する前から、多くの人が白熱電球の研究をしていたという話。やりきることは大切ではあるが、先に発明がないと必要は生み出されないという話でした。そーだよね、iPhoneがなきゃ、スマフォ需要なんてなかったわけだし。

技術の破棄という章もあった。

例として出ているのは中国が世界一の大船団を破棄しちゃった時と、日本が火縄銃を廃棄した時。当時の日本の銃生産力はものすごくて、アジアを凌駕できたと言われているが、明智光秀くんが織田信長さんを殺してしまったがゆえに、日本は帝国になりそびれ、平和な国家として歩んだわけだ。そういう技術の破棄は、社会的に起きるよね(進化ではなく、人間同士の相互作用によって、技術の退化って起きるよね)という話。また、技術の伝播も東西には早く、南北には遅いという話。食糧生産と同じく、これも面白い。

次に来るのが、集団の話。「小規模血縁集団(バンド)」「部族社会」「首長社会」「国家」という集団の規模の話。小規模集団社会までは平等で権力の差がない。部族社会も合議制で決定権がない。首長社会になると首長が決めるので、物事が決まる。国家になるとという話。国家から先の話は、サピエンス全史の方が明るいと思う。

集団規模による統治の違いは、よくベンチャー企業でも話題になる。「バンドやろうぜ」のバンドの時代は平等で良いが、それでは集団を増やせない。やがて話し合いの部族社会の規模、それ以上は首長社会になって責任が明確になって来る。それが太古の昔からの人間の営みだと知ると、組織論として、いかにくだらないことで悩んでいたのかがわかる。部族社会で治る集団には限界があるのだ。

歴史というのは、かくも役に立つものだ。

そのあとに、各大陸ごとのミステリーの解明が始まる。

オーストラリアとニューギニアの話。中国がどうやって中国になったのか、太平洋に広がっていったオーストロネシア人。アメリカ原住民の絶滅、アフリカはいかにして黒人社会になったのか、を論じている。

面白かったのは、オーストロネシア人とアフリカの話。オーストロネシア人の元は台湾人らしく、台湾からミクロネシアまで船で旅する人が広がって行ったという話。アフリカ大陸のすぐ東側にある大きな島のタスマニアも、元台湾人だからね。日本の近所に偉大な海洋民族がいたものだと感心しました。

もう一つ面白かったのは、アフリカの黒人の話。実はアフリカの黒人は後からきた人たちで、昔からいた人たちじゃないらしい。西アフリカあたりから農業を背負って、アフリカ大陸を東に横断し、南に下がって行ったとのこと。アフリカ原住民を追いやった勝者で、いわば、アメリカ大陸原住民を絶滅に追いやったヨーロッパ人のような勝者であるという話。鉄と農業で、アフリカの土地を制したのがいまのアフリカにいる黒人という人種であるらしい。

最後に、こういう歴史研究には続きがあるから、こういうのを研究してねという話に続いている。この本は1997年の本で、2012, 2013年に日本で発刊されたそうなので、こういう先行研究があって、サピエンス全史はできているのだろうと思う。サピエンス全史を再度、読んでみようと思う次第である。

ジャレド・ダイアモンドの本をしばらく読んでみようと思う次第である。


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