孫正義とトランプのディール

米中の貿易戦争は着々と進んでいる。そして、米国という国家は、ちゃんと国益を守る。中でも、民間企業に対するアクションは非常に戦略的で、国家が米国企業を守ることがよくあることを忘れてはならない。ただの公平・公正・平等などとは程遠く、意図を持って、米国の国益を取りに来ることも多いことを忘れてはならない。


トランプさんと孫正義さんは個別に話をしているが、どちらもきっとディール好きであるのだろう。ビックディールは、こちらでも見られたように私には思える訳だ。

許可されたスプリントの売却

ソフトバンクの問題児、スプリントの売却が米国に許可されそうである。

通信業は規制業種である。公共財である電波を使うからである。米国では、FCCというところが認可権を持っている。米国のポンコツ携帯電話会社であるスプリントをソフトバンクが買った。元々、Tモバイルと合併させるのが意図であったと言われている。

日本で、ボロクソだったボーダフォン(正確にいうと、健全企業だったJ-Phoneを、英国ボーダフォンのオンボロマネジメントがボロボロにした)を買収し、優秀なネットワークエンジニアと苛烈な営業体制で、見事に復活して、auと戦える企業に復活させたのがソフトバンクである。

その際、4位、5位の会社を買って合併させていった手法がある。そもそも、携帯電話の会社の利益率は、参入社数で決まるのであり、合併させれば、3位ぐらいでも儲かる訳だ。だから、ソフトバンクは、日本のディールで大儲けできた。

ソフトバンクは、同じく、米国でそれを狙ったのだが、FCCは4位のスプリントと3位のTモバイルとの合併を阻止。規模の足りないスプリントは、ネットワークへの投資が打てず、ジリ貧になる。日本では、優れたネットワークエンジニアが安いお金で携帯網を作ったのだが、スプリントはいうことを聞かない。

だから、政治に訴えて、Tモバイルとの合併を果たしたのである。


交換条件としてのARMの取引停止

その交換条件がおそらく、こちら。

日経新聞などでは巧妙に英国のアームホールディングスと書いてあるが、Brexitの国民投票が通った時に巧妙に孫正義さんが買った、ソフトバンク子会社の半導体IP会社のARM社である。それが、中国企業に半導体のIPを渡さない決定を米国政府との取り決めでしたという話である。

記事にあるように、HUAWEIは製品が作れなくなる可能性が非常に高い。

半導体というものは、設計図を書くことが重要で、さらに、それが動いている回路であることが大事である。動いている回路の設計図が半導体業界では、IPと呼ばれる。

古い言葉で言うと、Intel社のCISCに比べて、ARMの回路はRISCと呼ばれる。小さなロジックを積み重ねて処理をする形式で、省電力性に優れた半導体回路である。非インテル系の半導体回路は、ほとんどARMのIPを利用している。例えば、Qualcomm社のsnapdragonと言うチップもARMだし、Appleが生産している半導体もARMベースの半導体である。

問題は、IPが異なるとソフトウェアが動かないことである。OSたるLinuxの動作確認もIntel or ARMではないので、OSレベルから中国のハイテク産業は整備をし直す事になる。

一方、世界のオープンソースコミュニティは、Intel or ARM系の半導体に対してソフトウェアを蓄積してきた。その蓄積されたソフトウェアの再利用により、今のハイテク製品は、安く、品質の良いものが作れているのだ。それが利用できないとなると、結構辛い事になるだろう。車輪の再発明をし続けなければならない。開発範囲が広がるので、コスト競争力が落ちることはほぼ間違いないだろう。

ソフトバンク参加のARM社にして見ても、最大手の通信機器会社であるファーウェイ社は大切なはずであった。それを、みすみすと切った。


孫正義は中国を切って、米国をとった

これは、孫正義さんの大ディールである。

つまり、ソフトバンクの問題児であるスプリントを売り払い、全米第3位のTモバイルの株式をもらう(奇しくも、孫さんは近年ソフトバンクの本業はモバイル屋ではなく、ウォーレン・バフェットのような投資家であることを決断している)。その代わりに、英国ARM社は、中国のハイテク産業と取引をせず、中国のハイテク産業を潰しに行く米国という国家を応援する。

もちろん、アリババをはじめ、中国ネット企業に大きなポジションをもつソフトバンクの孫正義さんは、中国政府を刺激したくない。だから、巧妙に、英国ARM社と言って、イギリスの名前を連呼するが、ソフトバンクの子会社が中国ハイテクハードウェア産業の息の根を止める事に協力したわけだ。

という、トランプ大統領と孫正義の大ディールがここにあるのである。


意外に戦略的な共和党トランプ政権

というように、トランプ政権の米国は、マヌケでもない。その戦略が正しいかどうかは歴史が証明するが、少なくとも一貫した戦略に沿って、経済政策を運営しており、中国企業のハイテク覇権を挫こうとしているのである。

中国ハイテクハードウェア産業を潰しに行くには、英国の半導体IPを提供させないという方法は、効率の良い方法だと私は思う。

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