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書評『自衛隊最高幹部が語る台湾有事』(岩田清文, 武居智久, 尾上定正, 兼原信克)

よくBSニュースに出てくる自衛隊OBが集まって、台湾の有事のシミュレーションをしたのが、この本。「日本って、このままじゃまずいよね」というのがメッセージなので、多少、日本がまずいように色はついている気もするが、それにしてもなんとも心配になる本である。

時代はちょっと古くて、2022年5月までがある程度事実になっていて、そこからは前提を置いてシミュレーションしているので、ちょっと違うところなんだけれども、シナリオが3つあって、それぞれシミュレーションしているというもの。

本の性質上、ネタバレしてもいいんだろうから、まあ、ネタバレしても興味ある人は買ってください。新書だし、大抵の場合、この種の本は、そのお金の分ぐらい得るものはあります。

シナリオ1

このシナリオが一番軽いやつ。まあ、中国のサイバー攻撃から始まる。この想定では、日本はサイバー反撃能力を持たないので(なんと間抜け)、サイバー攻撃でやられっぱなしで始まる。

沖縄県のソーラー発電がやられて、電源がおかしくなり、ダムの制御も失って、ダムが異常に放水など起きる。グアムも太陽光発電がやられて、電源が混乱。

続いて、日台政治家の愛人スキャンダルが出る。LINEが流出して、大騒ぎ。

サイバー攻撃に日本は反撃する手段を持たないので、「米国お願い」と泣きつく始末。日本、弱い。

例の例の航海の自由作戦をやろうとするが、日中の経済摩擦を恐れて、財界が止めるというチョンボ付き。日本は財界も弱い。

中国や台湾にいる法人保護どうしようと政府は右往左往する。

ってところで、このシナリオは終わり。

なんだ、日本、何にもできないじゃん。

シナリオ2

このシナリオはシナリオが面白くて、中国が、台湾を通信封鎖して、嘘の世界で広める。通信を全部遮断して、台湾に強いコロナみたいな伝染病が発生したと言って、海上封鎖してしまう。通信も全部ぶった切るので、台湾の様子が外からはわからないようにする。

中国は疫病を防ぐために、台湾を海上封鎖し、一切の貿易を止めてしまうというシナリオである。

まあ、こちらもサイバー攻撃に近いところから始まる。携帯電話会社のバックボーン回線をぶっ壊して、携帯の通信を分断。海底ケーブルも切って、完全に台湾を通信から切断する。

日本には有事の通信手段もなく(Starlinkぐらい置いとけよ)、大使館もないので、台湾の生情報を取得できずに、台湾で何が起きているのかわからない。日本政府は、中国に「どうなってんの?」と聞く始末(本当のことを教えてもらえるはずもない)。

中国の完全なる海上封鎖で、台湾からの半導体の供給も止まり、世界は大混乱。台湾はエネルギーも切れかかる。

台湾にいる日本人を救おうとするが、物理的な手段も弱いし、情報もない。政府大混乱。武力攻撃されていないから、台湾に自衛隊も出せない。

政府がオタオタしているところで、このシナリオは終わり。

シナリオ3

こちらのシナリオではとうとう中国軍が台湾に侵攻する。

まずは、中国は台湾近辺で大規模な演習を始める。中国による台湾侵攻を食い止めるべく、米国は中国に中距離弾道ミサイルの持ち込みを依頼するが、拒否される。

米国の日本への核ミサイル持ち込み要請に対して、日本政府がなんたらかんたら話を始めて、小田原評定が続く。

そんな間に、無人機による飽和攻撃が台湾に開始され、台湾の早期警戒システムと地対空ミサイルがやられる。

与那国島、石垣島、宮古島の海底ケーブルは切断され、火力発電所、通信施設もやられて、通信が不能になる。自衛隊出動を決めようにも、島に残った国民の防衛をどうするのかね、という呑気な話になる。

相変わらず、日本の発電所などがサイバー攻撃でやられつつ、AWSのデータセンターもサイバー攻撃でぶっ飛んで、日本のオンラインサービス、バンキングが壊れる。さらに、航空自衛隊の防空指揮所の空調とネットワークシステムがぶっ壊れて、自動警戒管制システムがぶっ壊れる。で、尖閣諸島は、中国軍に占領される。

自衛隊は、先島諸島の防衛か、尖閣諸島の奪回かを迫られる。二つに対処する戦力は自衛隊にない。

米国は、(なぜか)AWSもMSのクラウドもやられる。ガバメントクラウドが壊れるので、なんか、米国のペンタゴンもちゃんと動けない(ほんとか)。

そんな中、与那国島が独立したという通信が中国から入る。「与那国島どうすんべかねぇ」というところで、このシナリオが終わる。

シナリオ4

沖縄の嘉手納基地、那覇基地が中国の弾道ミサイルの飽和攻撃の被害を受ける。ミサイルに続いて航空爆撃される。戦闘機も多数破損。燃料庫と弾薬庫も半分やられる。

中国陸軍が1個師団を台湾に上陸させる。

中国軍に占領された与那国島を攻撃しようにも、民間人200名が取り残されていて、どうしよう状態。

最後、中国から米国に停戦の提案があって、日本は蚊帳の外というお話。

その後、座談会が続く。この内容は省略する。

感想

全体通じて、「戦えない自衛隊」「台湾有事に対応できない日本国」というのが描かれているので、ちょっと、バイアス強すぎるかな感がある。特に、サイバー関連の想定がね、どうもリアリティがない気がするのよね。

すごく中国のサイバー攻撃能力が優れているのかもしれないが、米国もペンタゴン専用のAWSのクラウドがやられるほどアホではないだろうし、マイクロソフトは、ウクライナで、実際ロシア軍と戦っているがサイバー戦争では負けていない。最優秀なエンジニアを抱えるAmazonやMicrosoftがあっさりと中国のサイバー攻撃にやられるという想定はちょっとねぇ。そりゃ、日本の自衛隊はやられるかもしれないけどさ。

あと、日本の発電所の設備って、一方通行の通信機器が結構入れられていて、古いながらも、構造的に真面目なサイバーセキュリティになっているはずなので、USBメモリでウイルス持ち込みみたいな間抜けな社員がいない限りは、そこまでやられないと思うんだよなあ。データセンターやルーターや通信網はやられそうな気がするけどさ。特に、外国メーカーの機器のものは。

通信も、もはや、Starlinkがある時代に、完全にインターネットが死ぬかというと、こちらもウクライナで完全なる通信封鎖はできていないわけで、なんらかの通信手段は確保できるのではないか。昔から、衛星電話というものはあるわけだし、パラボナアンテナでインターネットというのも昔からあるわけで、宇宙の衛星を全部やられれば別なんだけど、まあ、starlinkなんてそれを考えて、たくさん衛星を打ち上げているわけで、結構、通信はしぶといと思うんだよね。その辺にギャップを感じた。

逆に、こういうのを整備しないとという意味では、やっぱり、スパイ集団を育てて、物理的に配置しないとダメよね。特に台湾は。

いざという有事に必要なのは、訓練されたアナログな情報網である気がしていて、それを台湾に数多く配置しておき、それが、冗長な通信インフラで情報を確保しないとダメよね。と思った。

日本については、スパイにやられない日本にしないとだめ。

まず、基地と重要インフラなどはちゃんと物理的な防衛を堅くする。要するにフィジカルセキュリティの強化をして、怪しい中国人とか北朝鮮人とか要所要所に入れてはならないわけで、身辺調査、身体検査をちゃんとやりましょうねという話が一つかと。

特に、インフラの方はザルだと思われるので、特にデータセンターとかは気をつけたほうが良いよね。中国製の機器はすぐに排除しないと行かんでしょうね。

あとは、戦略の不在が大きい。

具体的に、中国軍をターゲットにした実戦を意識した戦略の策定が必須である。一番でかいレベルで、中国の戦力に対して、どれほどの戦力が日本の自衛隊に必要かの定義が必要。

その次に、中国軍が台湾と尖閣に攻め込んでくるという具体的なシナリオを組んだときにOperationレベル、作戦レベルの策定を行なっておく必要がある。ちょっと前の日本ではこれがなかったので、勝てっこないし、そもそも訓練ができない。日本は専守防衛とか言っているから、この具体的な作戦を立てられないから、守れない。

尖閣諸島を取られた時の奪還、先島諸島が攻撃された時の住民避難と防衛については真面目に具体策を考えておく必要があるだろうと思われるし、その作戦に沿った訓練も実際にしないと。

で、時の政治レベルでも、総理大臣を含めて、いつ誰が何を決断する必要があるのかシミュレーションをやらないとね。いざというときにできない。総理大臣は、「有効な対応策が、ABC案三つあります。どれも有効ですが、どれにしますか?」ぐらいの決断をしたら、あとは、組織で対応するぐらいまで詰まっていないと勝てないだろうなあ。「邦人保護と島の奪還、どちらを優先しますか?それは政治判断です」とかやっていると負けるのが目に見えておる。

実際はもう少し検討が進んでいるのを期待する

大東亜戦争の経緯を見ると、実際の日本政府はなんも考えていなくて、何も備えていないということがありうるのが日本政府というのが怖いのだが、にしても、もう少しは日本の防衛を考えているでしょと期待したいところ。

あと、この本を読んでいて気になったのだけれど、ほとんど事件が会議室で起きているんですよね。「事件は会議室で起きてるんじゃない!現場で起きてるんだ!」という青島刑事こと織田裕二状態に見えてしまっていて、大丈夫かね、自衛隊の幹部だった人たちはと思ってしまうでもない。戦場のリアリティってものがないんだよね、まあ、実戦経験のない人たちだからしょうがないんだけれど。

期待するのは、日米の合同訓練だったりするんですかね。実戦経験が無いのは中国も一緒なわけだから、そっちがさらに腐っていることを期待するぐらいしか無いのかもしれないが、戦略で最もやってはいけないのは、希望的な観測に従うことなので、やっぱり最悪を想定して準備したいところ。

沖縄県のいろいろなところに、中距離ミサイルは日本の力で配置して、弾薬も十分に備蓄して、少なくとも、沖縄県には中国の工作員の数を限定すべく入国制限を厳しくして(クルーズ船の禁止と飛行機の規制強化、中国は、インバウンドとか言っている場合じゃない)、自衛隊員を十分に配置し、いざとなった時の住民避難についても具体的に船を確保しておくべきだと思った。

沖縄基地移転に反対しているような政党に、票を入れると日本が危ないね。


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