書評:『勝者の混迷──ローマ人の物語[電子版]III』(塩野 七生)

目次がシンプルな第3巻。政治というものを理解する上では、非常に興味深いと思いました。

前巻にて、ハンニバルという外敵が大暴れして、スキピオ・アフリカヌスによって駆除され、いつの間にか強くなったローマは、地中海の覇権を握りましたとさ。そのあとは、混迷の時代です。

色々社会の制度を変えた結果、今までどうでもよかったローマ市民権がすごくお得なものになり、ローマ市民なのか、同盟国なのかが重要になり、そこで社会問題が起きる。

それを変えようとしたグラックス兄弟は、下克上をやろうとして失敗。今までのスキームを踏襲せずに反乱しようとして失敗した。

次に、マリウスとスッラが改革をする。マリウスは、既存のスキームで出世してから改革を進める。だけど、二人で喧嘩して、虐殺しまくりのマリウスとスッラ。政敵の大量虐殺という惨劇を起こす。マリウスが庶民派やっていると、スッラが貴族派(元老院派)で巻き直して、貴族による年功序列の超保守的な仕組みに戻す。実力主義より年功序列。貴族主義万歳の仕組みに、軍事独裁を用いて変えて、めでたく幸せに死んだのがスッラ。

ただ、時代はそのままでは持たず、世の中乱れ、偉大な軍事力を持った将軍であるポンペイウスが現れて、地中海の海賊や小アジアなどを制覇する。優秀な指揮官が若いポンペイウス以外に誰もいなかった結果(官僚化、小粒化)、年齢の足りないポンペイウスが活躍することで、スッラの作った仕組みは、スッラ派の人々によって全部壊される。

要するに、スッラは先見性がなかったとか、時代の本質を捉える能力がなかったわけである。ただ武力により好きなようにして、幸せだと思って死んでいったスッラ。世の中は、彼の思うようではなかった。スッラの部下たちが、現実に即して制度を変えていった結果、時代に逆行するスッラ・システムは全部壊れてしまいましたとさ。

この辺の、小粒のヒーローたちの話はすごく参考になります。やはり、この時代の政治家は、軍事のリーダーでもあり、組織を率いる人であります。この時代のローマ人は、民衆の人気も取らなければならないので、人の類型として、これらの成功して失敗した人の話を知っておくことは、大変に為になるなあと思いました。

また、その小粒のヒーローにさえなり損ねた人の話がよく出てきて、「なるほど、こういうことはしてはいけないのだな」という教訓を得るのには、大変有用な本であると思いました。これを読んでおくと、失敗する人間の類型なるものが蓄積され、自戒とか自制というものに役立つのではないかと思いました。(美食のルキウスなんて、なかなかの典型です。ちなみに、塩野七生さんは自らの文章を1分たりとも引用するなと書かれていますが、リンクしたWikipediaは、思いっきり本書のコピペです。いいんでしょうかね?)。

『ローマ人の物語』は帝王学であることがよくわかった一冊でした。

非常に勉強になりました。

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