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書評:『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』(前野隆司)

慶應義塾大学の社会人向けコースに幸福学入門らしき講座があると聞き、その教授の本をなんとなく読んで見た。Kindle版があったので助かった。他の分厚い本を読む間に読み切れてしまうような軽く読める本である。

前野さんはもともと工学系の人で、工学的に効率を極めても全然幸せにならないので、途中から転向して、幸せの研究をしている慶應義塾大学の教授さんである。

私自身、21世紀の世相として思っているのが、「絶対値の追及から、認知の追及へのシフト」「客観指標から主観指標へのシフト」がある。言い方を変えると、スペック競争から、人の感じ方に対するシフトである。以前は、CPUのクロック周波数を争っていたが、iPhoneにはクロック周波数が書いていない。競争力の源泉は、使いやすさに移行し、気持ちよく使えるかに移っている。気持ちいいかは、客観ではなく主観なので、人の感じ方、つまり、認知が大切になっている。

幸せの科学(なんかやばい宗教みたいでまずい印象を受ける単語!)でも、そのような研究テーマのシフトがあったようで、昔は、所得が上がれば幸せだという形式的な数値やスペックで幸せの定義にしていたのが、だんだんと認知、つまりは、「幸せだと思っている主観」を扱う科学にシフトをしてきた様子である。

そういう主観的な幸せを得るための科学、幸せの素因数分解をわかりやすくまとめたのが、この本である。

中身は読んでいただくとして、簡単に要約すると、幸せになるための要素は、4つあって、「自己実現と成長」「つながりと感謝」「前向きと楽観」「独立とマイペース」であるそうだ。昭和の考えだと、「金銭欲、物欲、名誉欲満たされることが幸せに繋がる」だったわけだが、これは幻であり、フェイクであったことが分かったそうだ。まあ、詳しくは、この本を読んでもらいたい(私が説明しても二流品になるだけだから)。

私自身、今、すごく幸せを感じている幸せな状態にある人間である。この本に出てくる幸せどチェックをしても、かなり高い点数になる。

「自己実現と成長」という意味では、今やっている仕事が自己実現にもなっているし、成長に繋がっていると感じている。

「つながりと感謝」という意味では、多くの人たちに助けられ、過去に所属した組織のOBに助けられていて感謝している。

「前向きと楽観」に関しては、多少の現金の余裕があるせいか、少々のことが起きても大丈夫だと楽観している。

「独立とマイペース」という意味では、仕事上の差配を自分で決めることができ、独立性も感じるし、マイペースで生きていられる。

という意味で、この本の内容には賛成だし、あっているんだろうなという感覚がある。

今までの私の人生で、面白くなかった時期、幸せでなかった時期がある。そういう時期は、それぞれの点で上記のような状態ではなかったので、各要素の大切さは、よく分かる気がする。

某エリート系外資の会社にいた時は、「つながりと感謝」「前向きと楽観」がなかった。
日本の大企業に務めたときは、「独立とマイペース」がなかった。

今より収入という面で、金銭的に恵まれていた時もあったし、好きなものも買えたし、周りの人にちやほやされる名誉な肩書きもあった、けれども、今ほど幸せではなかった。最近は、金欲、物欲、名誉欲を満たしたところで幸せにはなれないことが、論文レベルで検証されているのだなと思った次第である。

本の構成は、幸せの測り方、幸せの4要素、政策提言、の3つに別れる。前の二つはわかりやすくまとめられている。最後の政策提言は内容が弱く、ちょっと独善的かなという気がする内容であるという感想を持った。

また、個人の行動変容レベルだと、アドラー心理学の内容がバッチリはまっていて、提言に大差がない(言い方と検証の仕方は違うが、アドラー心理学を生活の中で実践すると、結果として、幸せの4要素を満たすことになる)という意味で、私自身では、Nothing Newであったとも言える。アドラー心理学ではなかった科学的な検証がここにはあるので、そういう検証資料として、この分野は役立つものではあるのだが。

幸せの構造を理解し、幸せになりたいが、その方法がよく分かっていないと思う人には、オススメの一冊である。献本するには、良いかもしれないので、ここに明記しておく。




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