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バフェットさんの華麗なる自社株買い

まあ、バフェットさんに関する日経新聞記者の理解の浅さと言えば、いつものことなので、驚きもしないのですが、いつまでたっても変わらなそうなので、日経新聞の記事に批評をつけておきます(投資の記事は、外部の人に書かせれば良いのに)。

2020年4-6月期のバークシャーの利益が、2.7兆円ぐらいになったという話です。ほとんど、保有する株価の値上がりですね。で、何を買ったというと、自社株買いであったそうです。

ここまでは事実なので良いとして、ここからが違和感のある記事が続きます。

疑問その1:バフェットは自社株買いをしないだと!!

記事から。

バフェット氏は長年、「株主還元よりも投資に使いたい」と主張してきたが、18年以降は方針を転換し、徐々に自社株買いを増やしてきた。

んー、そうだったかなあ・・・。事実と違うよなあ。

バフェットさんは毎年、IRを通じて自分の投資方針を書いていて、それをまとめた本があります。これを読まずにバフェットの記事を書くなというこの本ですね。

私が持っているのは、古い版ですのでそっちのリンクとページを貼っておきますと、

https://amzn.to/340XthR

これの、第5章 会計と税金 の章のP299に自社株に関する記述があります。

投資先企業が行う留保利益の利用方法として私たちが特に好ましいと思うのは、自社株買いです。その理由は非常に単純です。もし優れた企業の株式がその内在価値よりもはるかに安い価格で市場で売られているのであれば、その企業が自社株をバーゲン価格で買い戻して株主の利に供すること以上に、確実に有益な留保利益の利用方法が他にあるでしょうか?

価値と価格という基本がわからないとわからない話ですが、バフェットは、「利益を留保するのであれば安全な債権より大きな利回りを出せ」と言っていて、「その大きな利回りを出す方法が自社株買いなら、もっとも業績を先読みできる自分の事業で利回りを出せるのであるから、最高だよね」と、自らのIRに書いている訳です。有名な本にも書いてありますよ、日経の記者さん。

つまりですね、バフェットが自社株買いをしたのは、バークシャーの株価が安いからであって、その安い株式を買って償却し、株式数を減らせば、既存株主の1株あたりの価値は上がると踏んでいるからですね。

例えば、4月時点でバークシャー100株あたりのアップルの株式が5株だったとしましょう。バークシャーが自社株買い償却をして株式数が半分になりました。結果、バークシャー100株あたりのアップルの株式は10株になりました。アップルの価値は下がっていません、であれば、バークシャーの株主が持つ価値は2倍になる、ということです。バークシャーはよくアップルの価値を知ってますから、経済合理性をもってこの行動をするわけです。その代わりに、よくわからん他社の株を買ったり、よくわからん事業を買収するより、自社株への投資は、確実で、株主にとっての利回りが良いからそうしただけなわけです。

バフェットが自社株買いをしてこなかったのは、今までは自社株の価格が高くて、周りにもっと良い投資対象があったからであって、自社の株式が安くなれば、自社株を買うわけです。ただ、それだけですよね、ファンドマネジャーなんですから。

で、日経記者は、さらに、恥の上塗りをするわけです。

バークシャーはかねて膨大な手元資金の使い道が課題だった。6月末時点の現金・同等物は1465億ドル(15兆円)と過去最高を更新した。コロナ下で開かれた5月の株主総会で、バフェット氏は「最悪シナリオを考えると多すぎるわけではない」と釈明していた。それでも自社株買いの拡大を決めたのは、株主からのプレッシャーが高まっていることを意味する

日経新聞の記者さん、解釈を華麗に間違っておられます。もう、私なら穴があったら入りたい、頭隠して尻隠さず、です。コロナじゃなくても街中を歩けないぐらい恥ずかしい。

「最悪シナリオを考えると多すぎるわけではない」ですが、「最悪考えたらこれくらい現金持っていてもいいんじゃね、少ないとは思ってないけどさ」程度の意味なので、どうしてもたくさん現金を持っていたい。"Cash is King"という意味ではないですよね。おーい、日本語・英語読めてますかー。

それでも自社株買いの拡大を決めたのは、株主からのプレッシャーが高まっていることを意味する」については、株主からのプレッシャーなどではなく(そんなものは、ずーと公開企業の社長をやっているのだから、上場企業の社長ならずーとある!)、自社株を買うのが一番良い投資であったから、もっというと、バフェットが、バークシャーの株価が安いと思ったから、ですね。

だいたい、バフェットは、繊維会社たるバークシャーを買って、自社株買いをさせて、自分の持分を増やして、自分の会社にしたわけですよ。どこの誰が、自社株買いをしないんだ?!バフェットは、「自社の株価が高くて他に良い投資対象がある時には、自社株買いはしない」と言ったわけで、「どんな状況でも常に自社株買いをしない」とは言ってないと思うぞ。


疑問その2:バフェットはリストラをしない、だと!!

こらまた、面白い。日経新聞の記者さんの記事から。

4~6月期は無形資産の減損損失108億ドルを計上。傘下の金属部品メーカー、米プレシジョン・キャストパーツ(PCC)の将来見通しが悪化し、買収時に計上した「のれん」の減損を余儀なくされた。(中略)PCCは固定費圧縮の一環で、前年末の全従業員数の3割にあたる1万人を上半期中に削減した。

バークシャーの実態は複合企業(コングロマリット)に近い。原則、買収後も経営陣は変えず、人員削減もなし。買収戦略でプラスに働いていた。コロナ禍で「バフェット流」は通用せず、リストラに追い込まれた

PCCでリストラだそうです。バフェットの投資の範囲には飛行機・航空会社があるので、その上流過程の部品やも買ったのでしょう。今回のコロナウイルスで飛行機が売れなくなったので、ポートフォリオ企業の業績に被害がでた。まあ、そういうこともあるでしょう。神様じゃないので、全ての未来はわからないし、中国とWHOが世界にウイルスを広めるなんて、世界の誰が2019年の6月に予想し得たことでしょうか。

で、「原則、買収後も経営陣は変えず、人員削減もなし。買収戦略でプラスに働いていた。コロナ禍で「バフェット流」は通用せず、リストラに追い込まれた。」こうきましたが、バフェットは、業績がよければ経営陣を変えないです。経営陣を変えなきゃならんような事業は面倒なので、買いません。雑魚の相手はしていられないので、ちゃんとした経営者がいる会社を買うようにしているんですね。ファンドマネジャーなので。

バフェットは経営陣も変えるし、リストラもしてますよね。経営陣の方で言えば、不正のあったウェルズファーゴ銀行の経営陣は首にしてます。名を挙げた証券会社のリストラでも自ら乗り込んでやってます。読みを間違えて、やらねばならぬ時は経営陣も変えている。

また、リストラの方も、バークシャーという繊維会社の工場を全部畳んで、投資会社にしているわけでやってます。工場丸ごとリストラしてます。

状況が変われば、リストラもするし、経営陣も変える。

バフェットは、再生ファンドみたいなことはしないので、ろくな経営者がいなくて業績が沈んでいる会社は買いません。が、良い会社がおかしくなれば、リストラもするし、経営者も変えるのです。

だいたい、リストラを否定的に捉えるのが、日本の経済記者の田舎者ぶりを発揮しているわけで、米国では、ただのコスト削減施策ですからね!


あーあ、またタイミング論かよ

読むたびに残念になるのが、この手の話。これも記事より。

今日が株を買う良い日かどうか分からない。20~30年の保有ならうまくいくだろうが、2年なら分からない」。バフェット氏は5月の株主総会でこう述べた。従来よりも慎重発言が目立った

このバフェットの発言の意味は、「現在の株価水準は安いが、今後2年で株価が下がるか上がるのかはわからない。20年後には十分なリターンを得ることができるだろう」である。この発言は、慎重なのか?最近のバフェットって、「今の株価が高すぎるから買うものがない。買い物は慎重に構えている」としか言っていないように思えるんだけども。今の発言の方が、慎重なのか??バブル時代のビットコインに対するコメントなんて、「空売りなら1円でもしたいと思わないが、長期の売りオプションがあれば買いたい」である。こういうのを市場価格に対する慎重発言という。

だいたい、「短期の株価が上がるのか下がるのか」、「今は株を買うべきタイミングか?」の二つには、「わからない」と答えるのがバフェットである。「この株式の今の株価は安いと思うか?高いと思うか?」と聞けば、話は返ってくるだろう。そこで安いと思っていると答えても、株価が上がるのは明日かもしれないし、2年後かもしれないし、20年後かもしれない。20年後であれば、価値と価格は裁定して、おそらく上がっているだろうというのが、バフェットの考えであるのだ。

で、日経新聞の記者は、バフェットの発言の意味も取れずに、憶測と独断で「従来よりも慎重発言が目立った。」と間違った意味づけをしている。自社株買いをしたり、新しい投資をしているのに、慎重なのか?本当に慎重なら、現金溜め込んで終わりだろ。

でも、

バークシャーは7月5日、米ドミニオン・エナジーから天然ガス輸送・貯蔵事業を総額97億ドルで買収すると発表した。

97億ドルって、1兆円でしょ。1兆円の買い物してんじゃん。慎重なのか?


この記事の見出しは正しいのか?

見出しは、以下であった。

バフェット氏、苦肉の決算 バークシャーが過去最高の自社株買い
傘下企業、コロナでリストラ

でも、本人の発言からすると、私からするとこうである。

バフェットのバークシャー、Q1は2.7兆円の利益に回復
過去最大の自社株買いで株主還元実施。大型投資を再開
・この四半期は、結構、儲かったよ(2.7兆円)
・自社の株価が安かったから、いっぱい買っちゃった。ラクして儲けたよ。(過去最大の自社株買い)
・コロナなんで、コスト削減しているよ(PCC減損・人員削減)
・安いんで、投資再開したよ(1兆円の会社買収)

苦肉の決算どころか、気持ちは、「バークシャー株主、いえーい」である。

新聞の記者さんほどに、バフェットの発言を間違って解釈する人を私は知らない。新聞記者は、本を読まないのだろうか。

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