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日本語の美しさ・趣深さ

和歌や古語はえも言われぬ余情がある。
また、情景描写も余韻を残し、想像を掻き立てる。

言葉を知ると表現の幅が広がる。
日本語は表現できる世界観がとっても広い。

雪を表す音ひとつ取っても、「しんしん」「はらはら」「ふわりふわり」「さくさく」などなど、景色や降り方によって様々。

表現豊かだからこそ、余韻の感じられる文章からその風景がありありと浮かぶ。それだけではなく、その者の想いすらも表してしまえる。

素敵な想いの伝え方

新海監督の『言の葉の庭』という作品を観たことはあるだろうか。

靴職人を目指す高校1年生のタカオは、雨の日の午前は学校を休み、公園で靴のデザインを描くのが習慣だ。
ある日、その公園でユキノという女性に出会い、彼女はある和歌を言い残す。

その和歌が、こちら。

雷神の少し響みて さし曇り
雨も降らぬか 君を留めむ
『万葉集』作者不詳 

雷が鳴り響き、雲がかかり、雨でも降ってくれないだろうか
そうすれば、あなたをこの場に引き止めることができるのに

「あなたにここにいてほしい」という想いを、自然に祈るように謡っている。

なんて雅な伝え方だろうか。
そのさりげなさ、奥ゆかしさ…
シンプルなのに心掴まれる言葉の紡ぎ方。

ただし、これだけで終わらない。
これに対して、柿本人麻呂が謡った返歌がまた、素敵なのだ。

雷神の少し響みて 降らずとも
我は留らむ 妹し留めば
『万葉集』柿本人麻呂

たとえ、雷が鳴り響いえ、雨が降らなかったとしても、あなたが引き留めるなら私はここにいるよ

「雷神の少し響みて」を用いながら、次の5文字で「降らずとも」と謡う。

「あなたのそばにいるよ」という返事を、彼女の用いた言葉を差し込みつつ、優しく言葉を紡いでいる。

このような心のやり取りをしてみたいものだ。

私の好きな情景描写

時に、残月、光冷ややかに、白露は地にしげく、樹間を渡る冷風はすでに暁の近きを告げていた
中島敦『山月記』

みなさんも高校の頃、国語の授業で『山月記』を読んだのではないだろうか。

終盤、いよいよ李徴が虎になろうという時。
物語の中にすっと、入ってくるのがこの情景描写だ。

この一文を差し込むことによって、李徴の心、状態を読者に強く印象づける。

会話や物語を追っていた読者が、ふとあたかも目の前にその光景が広がったかのように、映像を思い浮かべる。

たった一文で深みを増すこの情景描写は、いまだに誦じることができるほどに、鮮明に記憶している。

何よりも好きなのは、「時に、残月」というフレーズ。
音の響きの重さに、グッと掴まれたように感じる。

言葉が魅せる風景

その場の光景、心情、移りゆくまちや人の心…
それらを奥深く、豊かな表現をするためには、あらゆる言葉、表現を知る必要がある。

語彙を増やしていくことは、見えるものを広げ、深める。

和歌、古典作品、純文学…
この世界を表現豊かに書き記されたものを読んでいき、知った言葉を自分なりに使ってみる。

願わくば、たくさんの素敵な言葉たちを使ってコミュニケーションを取ってみてほしい。

日本の美しい言葉や文化を繋いでいきたい。

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