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芸術と生きる

【クリエイティブリーダーシップ特論レポート】
武蔵野美術大学
大学院造形構想研究科
クリエイティブリーダシップコース
 
2021年9月13日(月)18:20-19:50
クリエイティブリーダシップ特論 第10回 稲葉 俊郎さん

 いままでCL特論では多くの方からお話を伺ったきました。昨年からカウントすると今回の稲葉さんで25人目となり、そろそろ本年度のコンテンツも終わりを迎えつつあるわけなのですが、今回の話を聞いていて1つ共通点を見つけました。それは、今まで本当に多くの方が「東日本大震災がきっかけとなって....」という話をしていることです。2011年3月11日までは普通に暮らしていたけれど、あの日を境に考えが変わったという方、本当に多いです。もう10年以上前のことですが、いかに我々日本人にとってインパクトの大きな出来事だったから改めて思い知らされますね。

 稲葉さんも震災時に医療ボランティアで東北へ赴いた経験から、人間がなくなることについて深く考えることとなったそうです。

 稲葉さんの話から「芸術」と「生」の関わりについて考えてみたのですが、全くかけ離れているようで実は近い存在なのかもしれません。美術館にある絵画だったり壁画などは、人の生死のタイミングで描かれたものが多く残っていますし、古墳や遺跡などは墓そのものだったりします。また東日本大震災のときにも、災害からの復興を祈って(または政治的なメッセージを込めて)、多くの絵や歌など芸術が至るところで生まれました。多くの病死者を出した疫病退散のための儀式がそのまま現代まで祭りとして存続する伝統文化も最近注目されていますね。

 「芸術」は人々にメッセージを与えることができます。文字よりもエモーショナルで人を傷つけることも、励ますこともできます。デザインを学んでいる私たちも、使い道によって、そして使う人によって良い方向にも悪い方向にも導くことができるんだと肝に銘じておくべきだと思いました。

 さて、日本にいると治安もよく医療制度も整っているので普段から「生死」について考えることは少ないですが、人は皆いつどこで死んでもおかしくないんですね。「芸術」「哲学」「医学」と分野がバラバラな学問ですが、人文科学も社会科学もそれぞれ中心には「人が生きる」という根本が似通っている点が面白いなと感じました。


■稲葉 俊郎
1979年熊本生まれ。医師、医学博士。
東大病院時代には心臓を内科的に治療するカテーテル治療や先天性心疾患を専門とし、往診による在宅医療も週に一度行いながら、夏には山岳医療にも従事。医療の多様性と調和への土壌づくりのため、西洋医学だけではなく伝統医療、補完代替医療、民間医療も広く修める。国宝『医心方』(平安時代に編集された日本最古の医学書)の勉強会も主宰。未来の医療と社会の創発のため、伝統芸能、芸術、民俗学、農業・・など、あらゆる分野との接点を探る対話を積極的に行っている。2020年4月から軽井沢へと拠点を移し、軽井沢病院(総合診療科医長)に勤務しながら、信州大学社会基盤研究所特任准教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員を兼任。東北芸術工科大学客員教授(山形ビエンナーレ2020 芸術監督 就任)を併任。

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