配線・PAマニュアル

0. 本文について

この記事はKumano dorm. Advent Calendar 2022の2日目(12月2日担当)の記事です。

MUCのかわいい後輩たちが配線やPAのことで困らないように、私の持つ知識すべてをつぎ込みました。しかし一向に読み込んでくれない。悲しいです。それを供養するためにアドベントカレンダーに初投稿した次第です。

音楽への一つのハードルとして用語があると思います。自他共に認める機材厨の私ですら店員相手に警戒するときはあります。用語を何もわからない人からすると日本語かどうかも分からない言語を捲し上げてくる店員は避忌したくなる存在になる気持ちもわかります。この記事はそういう人にも向けて作りました。用語がわからないという理由だけで音楽から離れてほしくない。

という訳でMUCに所属しているかどうか関係なく、音楽に興味がある方全般に読んでほしいと思います。もちろん現行のMUCのシステムに特化した内容にはなっていますが、そしてこれを読んでいるMUC構成員、GoogleDriveの「マニュアル」に同じ記事名の全く同じ内容のマニュアルが置いてあります。読み込んでおくこと。

1. はじめに

まずは概論です。「PAとはなんぞや」「PAって必要?」って言う人は読んでみてください。「そんなんどうでもいいから早よ内容教えろ」って輩は飛ばして大丈夫です。

1-1. PAとは(思想弱め)

PAとはPublic Addressの略称。広義には楽器やアンプから発生した音を観客に届ける機材全般のことを指す。しかしライブやMUCの文脈においては、ステージ上の音(中音)を集約・調整して観客に届ける役割を担う人と狭義に定義される。具体的に言うと、演奏中にミキサーやパワーアンプ等を操作する人のことである。

しかしPAの仕事はただ本番演奏者の音量調整に留まってはいけず、PAは配線を理解していないといけない。PAはただ音量バランスを整えるだけでなく、機材トラブルが起こったときに対応できるようにしておかなければならないからである。ライブは機材を連結して演者から観客に音を届けているため、一概に機材トラブルと言っても「どこのチャンネル」の「どの機材」がトラブルを起こしているかを把握していなければ対応ができない。したがって、トラブルの解消に当たるにはただ機材の知識があるだけでは不十分であり、一般的な配線の知識及び現場での配線の理解があって初めて機材の知識を発揮できる。少なくともMUCのライブ現場において、配線を把握していてかつ機材の知識がある人間をPA周辺以外から用意するとなると、あまり現実的ではない。やはりPAが対応できるようになれば、円滑なライブ運営が期待できる。

1-2. PAとは(思想強め)

PAはミキサー周辺の機材を扱う者と定義されることが多いが、MUCの文脈では配線を理解している人全般に拡張したい。もちろんPAの本来の役割は音量バランスを整え、よりよい音環境を観客に届けることである。しかし、1-1にて配線を理解する必要性は記した。となると、今その場でミキサー等を操作している人のみならず、その周辺にいる人や会場にいる人もこの意味における「PA」になりえる。理想を言えば、会場にいるすべての人間が「PA」になれば、トラブルが起こる確率は最も低くなり、いざトラブルが起こっても最速で対処できる。PAの定義の拡張の意図としてはまさにそこであり、まさにホストもゲストもいない皆のために皆で作る理想のライブに一歩近づけるのである。

PAの重要性は上で言及した通り。だけれどもう一押しだけ。ゴールキーパーを想像してほしい。サッカーの試合において、ゴールキーパーが観客から注目される時というのはどんな時だろうか。それはチームがシュートが打たれまくっている時か点が決まった時、すなわちうまく試合を運べていない時に注目される。PAはまさにそのゴールキーパーと同じような存在である。ようするにPAは目立たない。地味である。ステージ上でギターかき鳴らしている方が遥かに派手でかっこいい。だからこそPAをやる上で「なぜMUCが存在するのか」「どうして寮の空間やお金を使ってまでライブを行うのか」を今一度考えてほしい。そして何故PAが必要なのか、それが理解できればPAはまさにMUCライブの縁の下の力持ちであり、一番ロックな役職であることが分かるはずである。

2. 配線

 タイトルの通り、配線に関する各論です。恐らく音楽への大きなハードルの1つに、用語が分からないというのがあると思います。「正直興味はあるけど会話に入れなくて…」というので楽器屋に行くのも怖い人も多いはず。そしてそれはPAや配線に関しても例外では無いと思います。そこでそういった人を無くすために、まずは用語とそれが何を指し何に使われるのかを知ってもらいます。この章を読んでもらってまずは会話に混ざれなくとも、何を言ってるかは分かる程度に持っていってくれればと思います。

2-1. 配線について

配線とは、「機材と機材間で電気信号を伝達する導線」あるいは「機材と導線を繋いで回路を構成すること」を指す。音響の世界において、配線とは「楽器で発生させた音を電気信号に変換させてスピーカーまで届ける導線の流れ」を指し、導線のことは「ケーブル」と呼ぶ。

音を電気信号に変換させて再び音に戻して聴衆に届けるがゆえに、配線は劣化との勝負になる。配線を流す距離や音に操作を加える都合上、随時電気信号の質が変わる。すなわち、機材間のケーブルを間違えると最悪音が出なくなる可能性すらある(そもそも物理的につながらない)ということは覚えておいてほしい。

配線については次以降の章にて詳しく説明する。どの機材間はどのケーブルで…という話はその時に行なう。この章では、そもそもどのケーブルがどれかというのを把握してもらいたい。

2-1-1. ケーブル早見図

マイク(XLR)ケーブルは中に3本の金属端子があるorその受けがある。スピーカーケーブルはプラスチックの端子。

 

上の図はフォンケーブル(シールド)の端子。ただし、この端子がついているからといって必ずしもシールドとは限らない。スピコンやマイクケーブルにもこの端子がついていることがある。特に音楽室に関しては両方ともこのシールドの端子がついているのにもかかわらずケーブル本体はスピコンであるものもある。見分け方として、スピコンは「長過ぎるor太過ぎる(重すぎる)」(シールドは楽器に直接繋ぐことが多いので明らかに持った感じが異なる)。

2-2. 概要

配線の概要は以下の図の通り。矢印は音(電気信号)が流れる順を示す。

ちなみに、赤線は3本の金属端子を持つマイクケーブル(XLR)、青線はプラスチックの端子を持つスピーカーケーブル(スピコン)を指す。灰掛けはケーブル以外の機材を表し、ライブに合わせてセッティングする必要がある。

2-3. 楽器の配線

2-3-1. マイク

ボーカルやコーラスの音を拾う。基本的にマイクには強く音を拾う範囲を持ち、その性質を「指向性」という。取り立てて「指向性」と呼ぶマイクは、非常に高い指向性を持つ(例えば先端から直線上の音しか拾わないなど)。

配線については、マイクケーブルにてマルチケーブルに接続する。

2-3-2. ギター

ギターにはエレキギターとアコースティックギターの2種類が存在する。エレキギターは生音ではライブで使えるような十分な音量は出ないため、「アンプ」という機材を用いて音を増幅させる。配線については、このアンプをマイク撮りする。

エフェクター等のDI機能を使う場合は、アンプを収音しているマイクのマイクケーブルを接続する。そのチャンネルのミュートを確認してからケーブルを抜き差しすること。

アコースティックギターあるいはそれに準ずるアコースティック楽器について。本来アコースティック楽器は生音を重要視する。しかしライブで用いる、特に他の楽器と一緒に演奏するとなると、音量が物足りなくなる。そこでアコギの音をスピーカーから出す必要性が生まれるが、できるだけ生鳴りを生かすようにしたい。もしエレアコならばシールドに繋げば良いが、問題はその先である。アンプに繋ぐと楽だが、

  • アンプ特有のニュアンスが乗ってしまう(歪みなど)

  • ハウリングしやすくなる

などの問題点が上がる。可能ならばDI等を介してマルチケーブル→ミキサーに信号を送るのが理想的である。エレアコのようにピックアップがないアコギの場合は、マイク撮りをする。しかしマイク撮りはハウリングのリスクが上がる(特に他の楽器があるときは)。現場判断が求められる。

2-3-3. ベース

ベースはエレキギターと同様、生音ではライブで使えるような十分な音量は出ないため、「アンプ」(アンプと単体でいうときはギターアンプを指し、ベースのアンプを指す時はベースアンプ(べーアン)と呼ぶ)という機材を用いて音を増幅させる。配線については、以下にある「DI」を用いる。

DIについて。「ダイレクトボックス」のこと。ベースにつないだシールドをDIのinputに差し、DIからパラレル(分岐)にしてそれぞれベースアンプ(シールド)とマルチケーブル(マイクケーブル)に接続する。すなわちべーアンでなっている音はスピーカーからは出ていない。ベースの音を調整する際は、ベース本体の音量とモニター代わりのベーアンの音量の2つの調整をする必要がある。

2021年12月現在使用しているDIはBOSS DI-1であり、パッシブ電源(ミキサーから電源供給)しているため、電源供給を切ってからシールドの抜き差しすること。

もう少しマニアックな話をすると(読み飛ばしてよい)、そもそもシールド(フォンケーブル)は中の1本の銅線とそれを覆うような網上の銅線(正確にはこれを「シールド」という)で構成されており、中の銅線の電気信号を周りの網上銅線が外来ノイズから守る構造になっている。マイクケーブル(XLR)は中の銅線が2本であり、逆位相の電気信号が流れている。最終的に片方の位相を反転させて一つの信号として扱う(ちなみに反転させる信号の線を「コールド」、させない方を「ホット」と呼ぶ)。もし外来ノイズが両線を襲っても、最終的に片方を反転させるため、ノイズ部分が相殺しノイズが除去されるという仕組みである。ようするに、シールドよりマイクケーブルの方がノイズが乗りにくい。DIとは、ノイズが乗りやすいシールドから乗りにくいマイクケーブルへの変換器なのである。

2-3-4. キーボード・シンセサイザー

2021年12月現在に使用しているキーボードはYAMAHA P120、シンセサイザーはRoland JUNO-Diである。両者ともL/R出力(本来は左右で別の音を振り分けるための2系統出力)であり、片方をキーボードアンプに、もう片方をミキサーにつなぐ。

キーボードアンプのアウトプットをミキサーに送るという方法でも音は出るが、2機のボリュームを別で操作できないというデメリットがある。2機を別々にミキサーに飛ばし、別々に操作できる方が無難である。もちろん、ミキサーあるいはマルチケーブルのチャンネルが足らないときはその限りではない。

2-3-5. その他

2-4. マルチケーブル

マイクケーブル上の信号をステージ上からミキサーに送るケーブル。

チャンネル単位で壊れていることがあるので、本番前に音出し確認すること。ミキサーに繋ぐときは、ミキサーの台の足に巻きつけておくと端子への負担が減る。

2-5. ミキサー

マルチケーブルから届けられた信号をそれぞれのチャンネルに入力し、集約してパワーアンプに送る。2021年12月現在使用しているミキサーはYAMAHA MGP16Xであり、インプットが16チャンネル、アウトプットは2チャンネルのアウトプット(スピーカー用)と2チャンネルのAUX(モニター用)の計4チャンネル。アウトプットはそれぞれのチャンネルをマイクケーブルにてパワーアンプに信号を送信する。

2-6. パワーアンプ

ミキサーで整えた音(信号)を、スピーカーの大音量に耐えうるまで増幅させる。2021年12月現在使用しているミキサーはCLASSIC PRO CPX4であり、4チャンネルある。それぞれのチャンネル毎に出力レベルを調整できる。パワーアンプへの入力はマイクケーブル、出力はスピコン。

3. ミキサーの扱い方

配線の話から、この章と次の章はPAの話になります。さらに詳細に知りたい人はDrive内の取扱説明書をそれぞれ参照されたし。

3-1. 配線について

マルチケーブルは所詮ケーブルに過ぎず、チャンネル毎に別々の信号を伝達する。例えばCh.1にマイクを繋いだならば、Ch.1の端子から伝達される信号はマイクからくる信号であり、そのマイクを操作したいチャンネルに接続する。例外的なチャンネルとして、PAマイクとSEがある。PAマイクはマルチケーブルを通さず、直接ミキサーに接続し、マイク本体はPA卓付近に置いておく。そもそもPAマイクはPA卓からステージ上に声を届けるために用意する。なくても運営はできるが、意思疎通に難はある。SEとはSound Effectのことで、所謂幕間のBGMである。SEはタブレットをRCAケーブルにてミキサーに直接接続する。

チャンネルの並びは最悪運営する人間の好みでよいが、Ch.1から順に「下手マイク、中央マイク、上手マイク、ドラムマイク、ギター(アンプ)1、ギター(アンプ)2、ベース、キーボード、シンセサイザー、PAマイク、SE」が無難。

3-2. イコライジング (EQ) とは

そもそもイコライジングとは、各音域を増幅or減衰させて全体の音量・音質バランスを整えることを言う。PAにおいては、各チャンネルでイコライジングを行い、バンドサウンド全体としての音量・音質調整を行なう。

以下ではイコライジングを具体的に説明する。まずミキサー全体でできることとして

  • 全体(スピーカー)の音量調整(赤スライドボリューム(リニア―フェーダー))

  • 2chのモニターそれぞれの音量調整(青回転式ボリューム(ロータリーフェーダー))

  • 2種類のエフェクトの付与(黒ノブにて選択、白回転式ボリュームと黒スライドボリュームでエフェクトレベルの操作)

があり、チャンネル別にできることとして

  • 信号送信元へ電源供給(ケーブルの抜き差しの際は供給を断つこと)

  • 入力音量(ゲイン)の調整(最上段の白回転式ボリューム)

  • コンプレッサーの付与(黄回転式ボリューム)

  • 4バンドイコライザー(High, High-Mid, Low-Mid, Lowの緑回転式ボリューム)

  • 2chのモニターそれぞれの音量調整(青回転式ボリューム)

  • 2種類のエフェクトレベルの調整(白回転式ボリューム)

  • 左右の音量差(パン)の調整(赤回転式ボリューム)

  • チャンネルのミュート(「on」スイッチの点灯でチャンネル開通)

などがある。

3-3. イコライジングをするに当たって

PAのイコライジングにおいて気を付けなければいけないことは

  • 各パートの音が適切に聞こえるか

  • ハウリングしないか

の2点である。

前者について、例えばボーカルの音が小さくて聞こえない、ギターがうるさすぎるといった場合にPAのイコライジングの出番である。せっかく演者がこの日のために練習してきたのに「PAが下手で何も聞こえなかった」で終わるとお互い悲惨である。PAは演奏を200%にはできない(できる人もいるらしいがほぼ都市伝説レベル)が0%にするのは簡単である、というのはこの際覚えておいてほしい。

後者について、まずはハウリングの仕組みを知ろう。そしてどのマイクから入力し、どのスピーカーから出力するのかをいち早く把握する必要がある。よく見かける要因として

  • マイクのゲインの上げすぎ(余計な音を拾いすぎる)

  • マイクのコンプレッサーを上げすぎ(余計な音域を持ち上げすぎる)

  • モニターのボリュームを上げすぎ(中音がでかくなりすぎる)

  • マイクとモニターの位置(向かい合ってしまう)

などがある。しかし結局は現場判断なので、経験を重ねることが大事。

上の2点とは別の話として、出演バンドの交代(ケーブル類の抜き差し)の際に気を付けなければならないチャンネルは、DI等を介して直接信号をミキサーに送信しているチャンネルである。抜き差しの際はミュート(「on」スイッチを消灯)することを忘れない。

4. パワーアンプの扱い方

気を付けることとして、信号の強さを示すランプは常に見張っておくこと。緑のみが点灯している時は許容範囲内の状態なので問題はなし。橙が点灯した時は許容範囲を超えた信号が出力されている状態であり、音量を下げる必要がある。この状態のまま音量を下げないとノイズが乗る。壊れる一歩前。赤は故障信号。電源をつけたときは点灯するが、それ以外で見ることはないようにすること。

さらに詳細に知りたい人はDrive内の取扱説明書を参照されたし。

5. 申し送り事項

ライブ中は多くの人間・機材が動きます。よってどんなに対策してもイレギュラーが起こる可能性は消し去れないことは直感的にわかるかと思います。頻繁に起こるものはあらかじめ対策するorその場ですぐ対策ができますが、ごくまれにしか起こらないものはケーススタディを通して学んでおきたいところ。そのための章として活用してください。

・謎の発光

2020年度の寮祭ライブで、メインスピーカー内で橙色の発光が見られた。スピーカー内部に発光機構など設置されていないらしく、負荷がかかりすぎて発火していた。その年の寮祭ライブは朝から深夜まで演奏が続いたため、それが原因だと考えられる。今後は、高い電圧のかかる機材は適度に休ませる必要がある。

・パワーアンプのオーバーヒート

2022年度くまのまつりで、パワーアンプが機能停止した。恐らく高温の外気と直射日光が原因と考えられる。今まで外のイベントで使っていたパワーアンプは筐体が白だったが、今回使ったパワーアンプアンプは黒かったために熱を帯びやすかった(今まで気にせずとも問題なかった)。さらにその日は季節外れの真夏日で気温が非常に高く、排熱が追いつかなかった。今後は、外のイベントの際は機材(パワーアンプに限らない)への直射日光は避けるべきであり、それでも排熱が追いつかない場合は扇風機を当てたり氷を近くに置いたりといった工夫をすべきである。


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