【コード解説】King Gnu「白日」

この企画について

曲にはコード進行なるものがあります。コード進行によってその曲の物語のあらすじが決まり、その装飾の仕方で曲の雰囲気が醸成されます。

私の周りには「曲を聴く」というと歌詞ばかりに関心が行く人ばかりだと以前から感じていました。「曲」において「歌詞」はその一部でしかありません。なぜその歌詞を鮮やかに彩ってくれる「旋律」に誰も言及しないのか。もちろん「歌詞」という側面を蔑ろにするつもりはありません。100人いれば100通りの聞き方があり、それは音楽の一つ面白ところであるとさえ思っています。ただ巷において「歌詞考察」は山ほど見るのに、「旋律考察」はほとんど見かけません。ギターをやっていると音作りの話をする機会はまだ多いですが、その音作りをする以前の話はやはり少ないと感じていました。

そこで私は、曲を聴いてそのコード進行や装飾音について思ったことをこうやって書き綴ることにしました。誰かに説明・解説したいというより、当時思ったことや分かったことを後学のために書き残しておきたいというのが主なモチベーションです。

もしかしたら間違った情報が書いてあるかもしれません。ご了承ください。

はじめに

今回考察したい曲はKing Gnuの「白日」という曲です。

お恥ずかしながら、私もこの曲でKing Gnuを知りました。はじめはゴリゴリのポップス路線を突っ走る連中かと思いましたが、ロックというかオルタナティブというか既存の枠組みを超越した音楽をやる超イカす集団でした。それぞれがしっかりとしたルーツ音楽を習得しているがゆえにその強個性が相まって既存の枠組みに取ら割ることない音楽を表現する、「破天荒」という言葉は彼らのためにある言葉ではないかと思いました。

さて今回扱う「白日」は、MVではピアノアレンジがされています。ボーカルの井口はキーボードを演奏できライブではピアノパートは彼が演奏していますが、MVではmillennium parade・WONKの江崎文武氏がピアノを演奏しています。もしかしたらこのアレンジは彼がしたのかもしれません。作曲者の常田氏はギターを弾いていますが、このMVではあまり本領を発揮していません。アコースティックセッションで彼がバッキングを担当しているバージョンをもとに考察してみます。

曲の構成

この曲のキーはDb Major、BPMは93です。

曲の構成は以下の通りです。

Aメロ→Aメロ→Bメロ→サビ→間奏→Aメロ→Bメロ→サビ→ソロ→Cメロ→落ちサビ→ラスサビ→アウトロ

構成はJ-popでは王道の構成です。落ちサビからラスサビでの半音転調も王道。展開は王道なのだが、そこに乗るコードやメロディーは従来のJ-popとは一線を画しています。既存の枠組みに囚われないKing Gnuの真骨頂だと思います。

Aメロ

まずAメロのコードです。

| Db | Cm7-5 F7 Adim7 | Bbm7 Bbm7/Ab | Gb Ab7 |
| Adim7 Bbm7 Bdim7 | Cm7-5 F7 Adim7 | Bbm7 Bbm7/Ab | Gb Ab7 |

あまりbや#に慣れない人からすると気絶してしまうようなコード達ですね。このようなコードをCAPOなしで演奏し倒すところにも常田氏の演奏技術の高さが伺えます。

Cm7-5ですが、Cm7だという人も見かけました。どちららが正しいか定かではないですが、個人的にはCm7-5の方が原曲に近いと思います。ただCm7ならば都合がいいことがあって、それは後述します。

それではダイアトニック・コードではないコードを太字にしてみます。

| Db | Cm7-5 F7 Adim7 | Bbm7 Bbm7/Ab | Gb Ab7 |
| Adim7 Bbm7 Bdim7 | Cm7-5 F7 Adim7 | Bbm7 Bbm7/Ab | Gb Ab7 |

まずF7ですが、これはBbm7に対するセカンダリードミナントになります。ただその間にはAdim7がありますが、ベース音のF→Bbのギャップを埋めるために入れたのではないかと思われます。常田氏はダイアトニック・コード間のギャップを埋めるために、キーにはない音のdim7コードでワンクッション置くという手法を好んで使っています。これをパッシングディミニッシュと言います。特にアコギを弾くときにその傾向が強く出ているように思います。「Teenager Forever」とか顕著ですね。

ちなみの先述したCm7-5がCm7だと都合がいい理由ですが、Cm7はBbm7のリレイテッドIIm7になります。すなわち、Cm7→F7→BbでII→V→I (ツーファイブ)となります。 ただ今回はCm7-5の方が原曲の響きに近いように思います。

次にBbm7/Abですが、コードトーン (上のコードとベース音) はキーDbの音です。ただここで分数コードである理由は、次のGbへのベースランだと考えられます。

そしてAdim7とBdim7ですが、これらを挟むことによってAb→A→Bb→B→Cと半音ずつベース音が駆け上がっていく進行を形成します (その前のGbもその流れの一つだと思います)。先ほど説明したパッシングディミニッシュの典型です。それにしても常田氏はクロマチックなメロディーの使い方が悪魔的にうまいです。ブルースノートとは明らかに違った常田氏独自の音使いですね。

念のため度数で表記してみます。

| I | VIIm7-5 III7 bVI(#V)dim7 | VIm7 VIm7/V | IV V7 |
| Vdim7 VIm7 bVII(#VI)dim7 | VIIm7-5 III7 bVI(#V)dim7 | VIm7 VIm7/V | IV V7 |

簡略化すると

| I | VIIm7-5 | VIm7 | IV V7 | VIm7 | VIIm7-5 | VIm7 | IV V7 |

でしょうか。かなりすっきりしました。ダイアトニック・コードではあるものの使用頻度の低いVIIm7-5が登場しているところは一つ特徴といえます。ただこうして見るとあの悪魔的コード進行も結構シンプルで、常田氏のエッセンスがあの個性的な進行に装飾していることがわかります。

Bメロ

次はBメロのコードです。

| Bbm7 Gb | Ab7 Adim7 | Bbm7 Eb7add9 | Gb Ab7 |
| Bbm7 Gb | Ab7 Adim7 | Bbm7 Eb9 | Gb Gdim7 | Ab7 Gb7 F7 Adim7 |

Aメロ同様悪魔的なコード達です。

それでは先ほど同様にダイアトニック・コードではないものを太字にしてみます。

| Bbm7 Gb | Ab7 Adim7 | Bbm7 Eb7add9 | Gb Ab7 |
| Bbm7 Gb | Ab7 Adim7 | Bbm7 Eb7add9 | Gb Gdim7 | Ab7 Gb7 F7 Adim7 |

まず始めのAdim7について、何度か説明したAbとBbを繋ぐための常田氏伝家の宝刀パッシングディミニッシュだと思われます。8小節目で出てくるGdim7も同様です。ただ一つ確認したいこととして、Adim7はAb7のルート音だけを半音上げたコードになっています。すなわちAdim7はAb7の持つトライトーンを持ち合わせながらAの音をベースに持つコードとなり、Ab7の代理コードとしても使用することができます。したがって、Bbm7はトニックDbの代理コードでもあるので、ドミナントAb7とBbm7の間に問題なく挟むことができるのです。そして先ほど説明したパッシングディミニッシュの効果も持つので、ある意味そこに入れるべくして存在するコードなのかもしれません。AメロのAdim7も同じような位置づけの可能性があります (セカンダリードミナント→ドミナントの代理コード兼パッシングディミニッシュ→トニックの代理コードという脅威の進行ですね)。

次にEb7add9という仰々しいコードですが、ギター上で比較的抑えやすいにもかかわらず独特な響きを持っているコードで、ジャズでよく使われるコードだそうです。稀にブルースでも見かけます。最高音2音がBbm7と変わらないのもポイントです (そっちが本質かもしれませんが)。

最後に出てくるF7とAdim7は、後述するサビの頭のコードがBbm7であることを考えるとAメロの2小節目と同じ効果だと思われます。その前のGb7は本来はGbM7ですが、Ab7→F7の進行をクロマチックに行うために置いたのだと思われます。

ついでですが、これも度数で表記してみましょう。

| VIm7 IV | V7 bVI(#V)dim7 | VIm7 II7add9 | IV V7 |
| VIm7 IV | V7 bVI(#V)dim7 | VIm7 II7add9 | IV bV(#IV)dim7 | V7 IV7 III7 bVI(#V)dim7 |

そして簡略化すると

| VIm7 IV | V7 | VIm7 IIm7 | IV V7 |
| VIm7 IV | V7 | VIm7 IIm7 | IV | V7 |

となります。

サビ

サビのコードです。

| Bbm7 Gb | Ab Db | Adim7 Gb | Gdim7 Adim7 |

例に倣ってダイアトニック・コード以外のコードを太字にします。

| Bbm7 Gb | Ab Db | Adim7 Gb | Gdim7 Adim7 |

ここでまたAdim7です。そもそもAdim7というコードですが、構成音はA, C, Eb, F#となっており、面白いことに全音半ずつ離れたコードになっています。すなわちこの世の中にdim7の音の構成は3種類しかないことを意味し、Adim7, Cdim7, Ebdim7, F#dim7のコードトーンはすべて同じということになります。このことを踏まえてGbの前のAdim7をEbdim7に置き換えてみると、Ebdim7はサブドミナントマイナー (正確にはサブドミナントマイナーGbmの代理コード) として働いてサブドミナントGbと相互作用を示します。サブドミナントとして頻出なのはサブドミナントの直後に置かれることです。あいみょん「今夜このまま」とゆず「夏色」の両者サビの一番最後でも見られます。どこか哀愁を残してくれるコードですが、今回はサブドミナントの前に置くことでまた独自の雰囲気を作り出しています。

次にGdim7 (Gm7-5の説あり) とAdim7ですが、コード上においては脈絡がありません。そこの歌詞を見てみると

(へばりついて離れない)地続きの今を歩いていくんだ

とあります。逆境の中を進んでいくことを示唆する歌詞だと思われますが (違ったらすみません)、-5度の音による不協和な響きが連続することでその逆境の情景を彷彿とさせます。コード進行上の理由というより歌詞による理由でここに置かれているのではないかと結論付けました (これが今の私の限界です)。

度数で表記してみます。

| VIm7 IV | V I | bV(#IV)dim7 IV | bIV(#III)dim7 bV(#IV)dim7 |

シンプルな構造がゆえに下手に簡略化するとコード進行が別物になりそうなので、ここは簡略化しないでおきます。

落ちサビ・ラスサビ

落ちサビは基本1,2サビと同じコード進行ですが、ラスサビにかけてから半音転調 (+1) をするので動きが変わってきます。

| Bbm7 Gb | Ab Db | Adim7 Gb | Gdim7 Ab7 G7 Gb7 | F7 Gb7 |
| Bm7 G | A D | A#dim7 G | G#dim7 A#dim7 |

落ちサビの2回し目からラスサビの1回し目までです。

ダイアトニック・コードでないコードを太字にします。

| Bbm7 Gb | Ab Db | Adim7 Gb | Gdim7 Ab7 G7 Gb7 | F7 Gb7 |
| Bm7 G | A D | A#dim7 G | G#dim7 A#dim7 |

Gdim7はGb→Ab7のギャップを埋めるパッシングディミニッシュで、G7とF7はAb7→G7→Gb7→F7でクロマチックに移行することで、ラスサビまで一気に駆け上がります (コード的には駆け下りていますが)。そして最後のGb7は転調後の頭のコードBm7のセカンダリードミナントで、それまでの進行の中に違和感なく置かれながらも転調を予感させます。残りは転調前のサビのコードを半音上げただけです。

まとめ

常田氏はダイアトニック・コードの間にパッシングディミニッシュを挟むことで、コード進行を滑らかにしながらも独特な雰囲気を醸成します(それがパッシングディミニッシュの本来の効果でもありますが) 。また理論的にもかなり考察し甲斐のある置き方をしています。ただ演奏動画を見てみると、もはや手癖というか本能的に使っているかのようにも見えます。ここにdim7を使うと気持ちいいから入れてみようといった感じなのでしょうか。

ただパッシングディミニッシュにしろ代理コードにしろ、dim7の一つ「正しい」使い方を示してくれる作品だったと思います。dim7は最近の曲で見かけることが多い印象を受けますが、その使い方を言語化するのは難しいです。「白日」はとてもいい勉強の機会になりました。

色々偉そうに考察してみましたが、お察しの通りこの曲はかなり難しい。コードも進行も複雑です。もしかしたら的外れな理解をしているかもしれません (コードが間違っている可能性すらあります)。何か気が付いたらTwitterで連絡ください (無料会員なのでコメントができない仕様になってます)。

最後に

今回は説明していませんが、常田氏はこの複雑なコードバッキングの間にフレーズを入れてソロギターのような演奏を披露しています。「白日」版はそこまでがっつりしたものは見かけませんが、「vinyl」などは有名ですね。この切り替えの早さも非常に高い演奏能力の賜物です。よくコードトーンの中にその小節のメロディーを入れることはあるのですが、King Gnuの私の知っている曲ではそのようなことは多くないように思います。逆にメロディー (主旋律) はスケール通りだけれどもコードにスケール外の音がふんだんに入っています。

冒頭でも述べた通り、今回はピアノ版 (MV版) ではなくアコギで常田氏が弾いたものを参照しました。なのでピアノ版とコードが異なっているかもしれません。アコギ版ではAメロのクリシェは表現されていないように思います。ただアコースティックセッションは彼の演奏技術の高さはもちろん、フレーズの引き出しの多さがより強調されるので必見です。

最後に、この「白日」はKing Gnuを世間に知らしめたもはや彼らの代表曲ですが、あまりKing Gnuっぽさには欠ける曲です。ライブバージョンを聞くとMV版とは雰囲気が異なります。そもそもピアノでバッキングする曲が私の知る限りそこまで多くありません (もし違ったらすみません)。ギターでバッキングをして、それがそのままリフになったり、その上にシンセサイザーがリフを奏でたりというのが彼らにとって主流だと思います。ただ常田氏はギターだけでなくピアノの腕前もかなりのものなので、本人はそこまで深く考えていないのかもしれませんね。

それでは今回はこの辺で。

引用記事

・ピアノ独学ブログ「【楽曲分析】白日/King Gnu」

・すーさんのギターチャンネル


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