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雪は層をつくる、silentは言葉で層をつくる

雪国に住んだことのある人ならわかるかもしれない。
雪が降る日が続くと窓枠に積もって窓が塞がっていく。部屋の中から見ると、地層のように横に筋ができているのがわかる。先に降った雪は固まってその上に柔らかい新雪が積もる、その繰り返しで雪の層ができるのだ。

「silent」は同じ台詞を違う人物が話したり、時間を置いて言った人と言われた人が入れ替わったりする。言葉が層になって積み重なるようだなと思った。



「うるさい」

1話冒頭、雪が降った朝。
紬が「雪が降ると静かだねー!」とわざと大きな声で言う。想が「うるさい」と笑う。高校生カップルの微笑ましいじゃれあい。
でも、視聴者は想がこの後に耳が聞こえなくなることを知ってるから、この眩しさが切ない。

次は、大雨が降った朝。
紬が「うるさい…」と言って目を覚ます。多分起きるべき時間より早く起こされたのだろう、不快な目覚め。

そして、想との再会。
想が手話で「もう話せない」と言って、紬は通じなくても拒否されてることは感じたと思う。それでも「待って」と腕を掴んだら「うるさい(手話で)」。
はっきりした拒絶。

2話では、想が耳の異変を母に打ち明けたときの「(耳鳴りが)うるさい」。
泣きそうなほどの不安が伝わる。

9話では、想が帰省して久しぶりにきょうだい3人が揃ったとき。
ダンボールに仕舞われた想のCDをラックに戻していると、長女の華が妹の萌に言う。
「(ケースが)割れてるのあるから手気をつけて」
次に、聞こえていない想が振り返って萌に「手気をつけて」と手話で言う。
萌は「二人ともうるさいなぁ〜!」ってちょっとプンプンする。
下では、お父さんが「昔から3人揃うとうるっさいんだよな〜」とどこか幸せそうに言って、お母さんも嬉しそうに目を閉じる。

「うるさい」の五段活用。
「silent」(静寂)というドラマタイトルとの対比。
音のない世界に生きる想が言う「うるさい」とはどういうことなのか?
楽しい「うるさい」と辛く苦しい「うるさい」。
意味を深く考えたくなる。


3話
「好きな人いなくなったから、いる人好きになったんじゃない」
紬の弟、光から湊斗への台詞。
光は、姉が元カレと再会して手話まで覚え始めたことで、湊斗が姉のもとを去ってしまうかもしれないことにいち早く気づく。
湊斗は紬にとってとても大切な人だと湊斗に気づかせようとして、わざわざ湊斗に会いに行く。

3話を見れば、想に振られたから前から紬を好きだった湊斗と付き合った訳ではなく、それなりの理由があったことがわかる。
紬が壊れてしまいそうな時に、いち早く気がついて支えたのは湊斗。紬の弟、光から湊斗への台詞。


「好きな人いなくなったから、いる人好きになったのかと思った」

4話
紬の親友、真子が言う。
想と破局したあと、湊斗と交際している紬に向けた言葉。
視聴者が「ん?」となるポイントを的確に指摘してくれるキャラクターだ。

この二つの台詞の重なりで、視聴者に「湊斗は単なる当て馬ポジションではない」と強く印象づける。



「いたくて、いるだけ」

8話
父親の命日に帰省した紬と光に、母親が思い出を語り始める。
入院中の夫に「迷惑かけたくないから毎日お見舞い来なくていい」と言われたけど、行っても何もできないんだからいたくているだけなのに。ただ横にいたいだけの自己満足なのに。という話。

紬は共感する。
想が「一緒にいて迷惑じゃないか?」と気にしていることが伝わっているから。

東京に戻ってきて、自宅に想を招いた紬は母と同じことを言う。
「いたくて、いるだけだからね」
このときすぐに想が「ああそうか、なら良かった」となったわけではないけど。


言葉の層が重なり、物語の層が出来ていく。

「言葉」はsilentというドラマの大切な軸だ。
主題歌は「言葉はまるで雪の結晶」つまりすぐに溶けて消えてしまうと歌っているけれど、降り積もれば厚い層になる。

最新話を見たら、1話から見返したくなる。
毎週その繰り返しだった。
物語の層の厚さがそうさせたのだと思う。

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