写真

一人になった。ここまで来たのは初めてだった。いつも通りのはずが、初めてではあった。これまでの時間はなんだったのか、今では思いだせず気がつけば過去の写真を見ていた。
今僕は一人になった。それは初めてだった。僕をみたのは初めてではなかった。あの日から僕は一人だった。写真に映る自分は自分だった。でもそこに僕はいなかった。誰が写っているのかわからなかった。わかるはずもなかった。記憶は朧げだった。
今私はここにはいない。写真にうつるのは私だった。誰かが私をみている。だから私は出てきた。俺がいる。俺がいた。あの日に俺がいた。いたのは俺だった。まだ思い出せないが、頭に映る写真は、記憶に媚びりつこうとしている。あれは僕なのだろうか。
ここにいるのは僕だ。だが今の僕を俺が否定する。また一人に戻る気だろうか。今僕は何をしているのだろうか。唐突に吐き気が催される。今が消える、今が蘇る。僕がここにいる。
まだ、いる。まだいた。今から帰る。今あるものと、かこの写真を比べてみてごらん。あれは自分なのだろうか。笑うこの男を僕は僕と認識することができないが、僕なのかもしれない。ここにいなければならないと、叫び声がする。ここにいないと、ここにいないと。ここにいるのは一体誰なのか。僕は知っているはずだった。 
今日までの自分は、適応することに全ての力を費やしていた。僕ということばは消え、俺や私がそこにはいた。僕はいなかった。ずっと一人だったからだ。一人だったから、一人の僕を放っておいたのだ。一人のやつは知らない。そんなやつは知らない。見たこともない。見ようともしない。放っておけばいい。あんなやつは放っておけばいい。
いつしか、僕と言う存在すらも、俺は忘れていた。俺は俺でいようとした。俺でいることが楽しいはずだった。俺を求めているのではないのか、俺はいつしか一人になった。私は俺をみている。布団でただじっと寝ている。寝ていると思いきやリビングで寝転がしゲームをし始めた。私もそばでゲームをみている。その後ろで誰かの視線を感じた。その視線に目をやると俺が立ち上がり、その視線の発信者に向かっていった。音がする。悲鳴と共に、罵声がする。私はじっと画面をみていた。何が起きているのか知っていたが、ただ画面をみていた。俺が戻ってきた。またゲームをし始めた。私はゲームが再開されたので、笑ってみていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?