8月19日


夢を見た。僕は上尾市の昔住んでいたマンションの子供部屋にいた。片手に太めのテープを持ち、ドアが開かないように、そのテープで止めていた。必死だった。とにかく必死。そして、バリケードのように机をドアの前に置いた。誰かがここに来ることを阻止するというよりも、どちらかというと、僕が出られないようにするものだった。僕はこの部屋に引きこもる。その意思を感じた。
目を覚ますと、僕は動きたくなかった。身をじっと固めた。体を丸くし、全身を石のように、じっと身を固めた。心臓の辺りが重い。体も重い。このままでいたい。
普段なら金曜日は私が祖母の送迎をする。起こそうとしても、微動だにしない僕。起こそうとする、起きない、起こそうとする、起きない。このやりとりが一時間続き、母は涙を流した。
「仕事に遅れるから、早く送ってって!」
母は、姉に声をかけた。だが、
「絶対嫌!」
叫ぶように拒否される。
辛い、離れたい。消えたい。
こんなことで大声が飛び交う。泣き叫ぶ。僕はじっと身を固めている。
「しずか、しずか」
祖母が母を宥める。その声が聞こえ、僕は体を起こした。起こした勢いのまま動き、祖母を連れ、家を出た。
耳にイヤホンをする。音楽は流れていない。顔は俯き、自分の足の爪をじっと見ている。
エレベーターが上がってくるのを待つ。横目で祖母の顔が見えた。笑顔の祖母。涙が出た。
祖母を家まで送る。普段なら玄関を締めるとき挨拶をするが無言で扉を閉め、その場を離れた。車に戻る。そのまま家には帰らず、目的地を決めずにひたすら車を走らせた。車内では脳内で自分自身にツッコミが入る。
どうせ落ち込んでないんだろ、落ち込むふりお疲れ様、夢に引っ張られすぎ、目を覚ましてからお前一言も喋ってないけどさそういうの良いから早く声出せよ出せるくせに出せないフリするな、
心臓辺りが重い。息苦しさとは違うもの。自分を責める。
目的地を決めずに走っているふりするな、ある程度ルート決めて走ってるだろ、だからお前は悩むふりをしているだけだ、本気で悩んでない、悩む自分が好きなんだろ、
胸が苦しい。死にたい。
目的地もなく走り出したが、無心で走れるような道ではなく、自転車や歩行者が通行し、そちらに注意しながら走る。気がつくと頭の中の声が薄れていた。他人への注意が、自分へのツッコミの間に入り、悩みが断絶されたのだ。ふと自分が先日書いた言葉を思い出す。「悩みは場所に依存する」
40分車を走らせ、家の駐車場に戻る。自分へのツッコミの声は消えたが、まだ胸の辺りの重さがある。8月にしては珍しく、風が涼しい。僕は駐車場の地面に座りたくなった。県営住宅なので駐車場で座ると、どこからでも見られる可能性があるが、一切気にせず、僕は地面に座り、足を組み、目を閉じて息を深く吸った。どこからか片岡鶴太郎かよとツッコミが入る。その声を完全に無視し、何度も深く、ゆっくりと息を吸っては吐くを満足するまで繰り返した。20分くらいしていたと思う。少し胸の重みが軽くなった。
家に帰る。仕事に出かける準備をする母を横切り、自分の布団に篭った。篭りながらなぜ自分がこうなってしまったのかを考えた。寝返りをした際に、左腕が腕が何かに当たった。日記だ。
「日記書いてないや」
今日起きてからの一言目がこれだ。僕は日記を手に取り、無心で言葉を書いた。胸の重みは消えていた。
そういえば昨夜の事。偶然、高校時代に使っていたInstagramのアカウントを見つけた。投稿を見ていると、投稿する際に考えていた事、その時の自分を詳細に思い出した。
常に他人を気にして、無理して、自分を大きく見せていた。面白い人と思われたくて必死だった。だけど、そんな奴が面白い訳もなく、特に高校では自分に迷走して、高校3年になると不登校ぎみになった。そんな自分を思い出した。
そりゃ引き篭もりたくもなるよ。僕は布団から出られた。10時半から整体がある。洗濯物を干し、家を出た。間に合うはずもなく、無事遅刻。リハビリを終えた時にはお昼で、整体の近くを散歩してみつけたイタリアンのお店に入った。”本日のパスタ800円、無料で大盛り”の文言に目がいく。本日のパスタ、ベーコンとトマトのクリームパスタ大盛りを注文。大盛りでありながら最後まで味がくどくなくて美味しかった。
帰宅。14時。作業する予定だったが、やらずに料理動画を見た。
夜は友人とたこ焼きを食べる。母からLINE。
内容が最悪。だがそれに応じる自分。
ここから抜け出そう。それが親孝行である。

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