【岸田首相は朝日新聞を気にし過ぎるな】
メルマガ「週刊正論」令和6年4月1日号
月刊「正論」発行人有元隆志の論考です。
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かねてから自民党内では「岸田文雄首相とその周辺は朝日新聞報道を気にし過ぎだ」との指摘があった。リベラルで知られる派閥「宏池会」出身の岸田首相として、リベラルメディアの代表格である朝日新聞を意識するからか、自民党の政治資金パーティー問題への対応が長引き、本来やるべき憲法改正などの重要案件への対応が疎かになっているというのだ。
その通りであろう。
首相側近からは東京地検特捜部に対する恨み節が聞こえる。
「そもそも地検が清和会(清和政策研究会=安倍派)幹部の名前を朝日新聞などにリークし大風呂敷を広げたにもかかわらず、起訴されたのは幹部以外の3人だった。地検の捜査が中途半端だったため、ずるずると責任問題が続くことになってしまった」(月刊『正論』5月号「永田町事情録」)
この問題で「特ダネ」を連発してきた朝日新聞はよほど悔しかったのか、捜査終結を受けた1月20日付社説で「政治への信頼を失墜させた罪は重く、刑事責任は免れても、政治的・道義的責任が不問に付されるわけではない。
自民党はうみを出し切り、政治資金の徹底した透明化を果たさねばならない」と主張した。
これを受けてか、岸田首相は2月29日の衆院政治倫理審査会(政倫審)に
出席した際、立件されなかった議員について「法律上の責任以外にも政治家として説明責任、政治責任、道義的な責任はある」と、まるで朝日新聞の
社説を棒読みしたかのような発言を行った。
首相が言う「道義的責任」とは何を指すのか不明だ。それを言うなら岸田
首相自身、派閥会長として、会計責任者が立件された「道義的責任」が問われるであろう。
自民党のそれまでの慣例に反して、首相就任後も2年以上、宏池会(岸田派)の会長ポストに留まってきたのは岸田首相その人であるからだ。
宏池会の解散を表明したのはいいが、いつまでこの問題に精力を注げば気が済むのか。
もちろん清和会幹部らを擁護するつもりは全くない。会長だった故安倍晋三元首相からパーティー収入のキックバック(還流)をやめるように言われたにもかかわらず、令和4(2022)年7月に安倍元首相が暗殺されると、還流を再開した。
事務総長だった西村康稔前経産相は政倫審で「事務総長を退任したため、
継続された経緯を含め、全く承知していない」と語った。
これに対し、会長代理だった塩谷立氏は同じ政倫審で「(2022年)8月の
会合で話し合った。(還付を廃止されると)困る人がたくさんいるから継続でしょうがないかなというぐらいの話し合いで継続になったと理解している」と食い違う答弁をし、無責任ぶりを露呈した。塩谷氏をはじめ幹部らは自ら責任を取ろうともしない。塩谷氏らの態度は岸田首相にとっては誤算だったかもしれない。
塩谷氏らがそういう態度に出るのならば、岸田首相は1月の捜査終結の時点で、直ちに処分を決めればよかった。岸田首相が政治とカネの問題に引きずられるから、内閣と自民党の支持率は低迷し続ける。
その結果、それまで存在感もなかった立憲民主党の泉健太代表らを利している。朝日新聞には「『ギア上げた』泉氏、政権交代へ意欲」(2月4日電子版)との見出しが躍る。
岸田政権の体力は政治とカネの問題で消耗してしまっている。自民党内では4月28日の衆院の三つの補欠選挙の結果次第では「岸田降ろし」の動きが表面化するとの見方が出ている。岸田首相にとってはまさに崖っぷちであるが、自ら招いたものである。
政治の世界ではしばしば「一内閣一仕事」と言われる。岸信介内閣の「日米安保条約改定」、佐藤栄作内閣の「沖縄返還」、竹下登内閣の「消費税導入」、安倍晋三内閣の「平和安全法制」などだ。政権の命運をかけてやる大仕事だった。岸田首相の場合、「異次元の少子化対策」「デジタル田園都市構想」「新しい資本主義」などのスローガンは躍るが、まだ具体的な成果は見当たらない。いろいろなテーマに手を付けるよりも、ここは憲法改正で一点突破を図るべきではないか。
朝日新聞が反対するような憲法改正こそ、死中に活を求めるにふさわしい
テーマである。もちろん憲法9条に自衛隊を明記することだ。
そこで譲ってはならない。