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【安倍氏の遺言を守らなかった幹部たち】

メルマガ「週刊正論」令和6年3月13日号

元東京地検特捜部検事でリクルート事件などを担当した弁護士の高井康行氏が特捜部に配属された時の特捜部長は、後に検事総長になった吉永祐介氏でした。吉永氏といえばロッキード事件の主任検事を務めたことで知られています。
高井氏をはじめ特捜部の検事たちは、吉永氏から次の2つのことを言われたそうです。
「『検察ファッショ』という批判を絶対に受けるようなことがあってはいけない」高井氏が昨年末、櫻井よしこ氏が主宰するインターネット番組「言論テレビ」に出演した際に語ったところによると、吉永氏は口を開けば「帝人事件」のことを言っていたそうです。
「帝人事件」は戦前の昭和9(1934)年に起きた疑獄事件で、帝国人造絹糸(帝人)株の売買をめぐり、当時の商工相や鉄道相らが起訴されたものの、裁判では事件そのものが検察のでっち上げとされ、被告16人全員に無罪判決が下りました。「検察ファッショ」との批判の声が高まりました。
「事件で検察は酷い目にあった。だからどんなことがあっても『検察ファッショ』というような批判は受けてはいけない、受けるようなことをしてはいけない」吉永氏はこう繰り返していたといいます。
もう一つ、吉永氏が強調したのは「内偵中の事件で、政治家を調べる場合もあるけれども、調べたこと自体漏れてはいけない」ということだったそうです。
当時の特捜部では吉永氏の指示が浸透していました。なぜなら政界では田中角栄元首相が健在であり、高井氏は「失敗したら政治の力によってしっぺ返しを食っちゃう。絶対にしっぺ返しされないように緊張感をもってやっていた」と振り返ります。
吉永特捜部を経験した高井氏は月刊「正論」4月号のインタビューで、今回の政治資金パーティー券をめぐる検察の捜査に批判が出ていることについて「捜査中から報道が過熱し、(清和会)幹部は少なくとも誰かは起訴されるだろうという雰囲気になってきたので、そうならなかったときの反動が怖いなと思っていました。それで(幹部が不起訴になったことを受け)『案の定か。困ったことになったな』という気持ちでしたね」と語っています。
高井氏は「今回の件で私が一番残念だったのは、安倍派の幹部議員が安倍(晋三)元総理の遺言を守らなかったことです。(中略)遺された幹部議員らが安倍元総理の衣鉢を継ぐというのであれば、どんなことをしても、その
遺言を守るべきだったと思います」と述べ、幹部議員の責任は「極めて重い」と指摘しています。
高井氏は「短兵急な連座制」の議論にも警鐘を鳴らしています。