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SFショート

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黄瀬が書いた、空想科学のショートストーリー
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#旅する日本語

雨の匂い

 髪の毛は、柔らかい方が好きだ。  空気が混じった、体積をもつふわふわではなくて、  髪質そのものが柔らかい方がいい。  君の、やわらかな波が頬を撫でた。  肩口まで切りそろえた黒髪が、旅先の風雨でたなびき、流れている。  バス停、時刻表を凝視。  君の視線が――見つけた――という具合に固定される。  まばたきが愛おしい。  布地の天井から、こぼれ落ちた水滴が、まつ毛の上ではねる。  まばたき。  わたしを、勢いよく振り向いた君の頬は、膨らみ気味だった。 「