コンビニで昔見た少年少女たち

 昔の話になるが、自宅から一番近いコンビニでぼんやりと商品を選んでいたら自動ドアが開いて、途端にわいわいがやがやと話すやかましいお客が入ってきた。
 その話し方があまりにも典型的なオタクの喋り方だったので気になって声のするほうを見てみたら、男の子が2人、女の子が1人という組み合わせの、まだおそらく10代の子どもたちだった。3人共私服で、かなり太っていた。
 リーダーシップは女の子が握っているようで、主に話を回していた。こういう時頭に浮かぶのは「オタサーの姫」だが、大したことじゃない。そういうことだけで片付けられないものが世の中にはいくらでもあるからだ。
 その3人を見た瞬間に、たぶん不登校の子どもたちなんじゃないかなと思った。実際はどうかわからないが。
 少年少女たちはアイスの棚なんかを見ながら、オタク丸出しの口調で楽しそうに喋っていた。
 自分の買い物を済ませて店を出る前に振り返って彼らのほうを見た。彼らは今度はパンの棚でなにか選んでいた。

 不登校の子どもたちと勝手に決めつけて話すが、自分も高校生の頃不登校になり、結局高校を中退してしまった経験がある。彼らも自分と似たような人物なんじゃないか? という勝手な思い込みが消えないまま自宅についてコンビニで買ったものを台所に置いて冷蔵庫にいれるものと常温のまま置いておくものに分けた。
 自分が不登校になった時、例えばフリースクールなんかに通っていたら、ああいうふうに友達ができたんだろうか?
 はっきりといって太りすぎていて健康の面から見てもう少し痩せたほうがいいと感じさせる3人だった。でもそれ以上に、オタク丸出しの口調で楽しそうに喋るその姿が印象的だった。彼らは今、確かに幸せなんじゃないだろうか?
 自分はバイトをしながら大検をとってから数年のブランクを空けて大学に入ることになる。その間、新しい友達はできなかった。過去の友達が数人、気にかけて時々会いに来てくれる程度だった。バイトで人とは関わっていたが、誰とも仲良くならなかった。なれなかったし、なりたいと思えなかった。
 その後、大学3年生でまたバイトを始めることになるが、バイトの分際で「当店は本店ですから、しっかりとした挨拶を心がけてください」と偉そうに言ってくる、D&Gのメガネをかけて、始業前に「この間、クラブに行っちゃった」とそれとなく得意げに他人に話しかける、個人的にこれ以上寒い人間はいないなという人に関わって、地獄だった。
 爆笑問題の田中裕二は、過去にマクドナルドでアルバイトをしていた時、エレベーターの中でバイトリーダーが「今日は、たるんでるな」と言ったのを見て「バイトが何言ってるんだ」と冷めて、辞めた経験があるとラジオ番組「爆笑問題カーボーイ」で話していた。
 また、田中と同じく日本大学芸術学部の演劇学部演技コースに所属していたのちの相方・太田光はスキー合宿の軽井沢に向かうバスの中で大騒ぎしていたら、マイクを回して各々自己紹介をする時に、演出コースの人間たちが「僕は/私は演技コースの太田光が嫌いです」と次々に言い出したという。
 合宿所についた太田は風邪を引いて寝ていたが、そんな太田を先輩が「会議があるから、光も参加してくれ」と言われ、しぶしぶついていくと部屋に演出コースの3年生がおり、「話は聞いた。バスの中での後輩の無礼について謝りたい。申し訳なかった」と頭を下げられたという。
 その話を聞いた田中裕二は「立場に酔ってるだけだろ」と一笑に付していた。
 それに似た感情を、先程述べたD&Gのメガネを掛けたヒゲの濃い「頭脳明晰キャラ」を気取っていたような不快な人間に抱いたのをよく覚えている。そういう人間は他人にいい影響を及ぼすことは少ないだろうから、この世から1人残らず消えてほしい。

 とにかくそんな自分の過去を思い出しながら、コンビニで見た太った3人のことを思って、なにか彼らにいいことがあるといいなとぼんやり思った。
 しかしそんなことよりもまずは俺自身にいいことが起きてほしいというのが切実な思いではある。これといって良いことがないからだ。

それはそうと、現在ファミリーマートでは恒例のフェア「ファミマのお芋掘り」が開催中で、さつまいもを使用したバウムクーヘンなどが発売されている。去年「ファミマのお芋掘り」という独特なネーミングが印象に残っていたのだが、もうその頃から1年過ぎてしまったんだという実感がある。ファミマのお芋掘り。自分の思い出も、掘り返せば色々なものが出てくるが、それに対してどういう気持ちを抱いたらいいのかわからないことのほうが多い。そういった時間を無駄にする行為には目を向けずに、今を懸命に生きることが最善の策のように感じる。


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