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絆売り 

プロローグ:

町の外れにひっそりと佇む、古びた建物。人々はその存在に気づかないか、気づいても目を背ける場所だった。建物の上には錆びついた看板があり、そこには「絆売り」とだけ書かれている。店に入る者は少なく、噂に聞いた者だけがその場所を知っているという。店主は薄暗い店内で静かに佇み、訪れる者を待ち続けていた。

第一章: 絆売りとの出会い

主人公は若い頃、夢を追いかけて都会に出たものの、その夢は早々に潰えた。借金を抱え、生活に追われる日々。ある日、偶然通りかかった路地裏で、不思議な店の存在に気づく。好奇心に駆られて店内に足を踏み入れると、薄暗い室内に店主がいた。店主は静かに語りかける。「ここは、人と人との絆を買い取る店だ」と。

最初は冗談かと思った主人公だが、店主が示した契約書を見て驚く。そこには、自分が持つ絆がリストアップされており、金額が記されていた。最初は半信半疑で、友人との小さな絆を売ってみる。翌日、その友人と街で出会うが、まるで初対面のような反応をされ、主人公はその効果に驚愕する。

第二章: 絆の取引

主人公は次第に絆を売ることに慣れていき、生活費を稼ぐために次々と絆を売り始める。最初は些細な関係から始めたが、次第に金銭的に苦しくなり、家族や恋人との絆も売ることを考えるようになる。

彼は過去の記憶に思いを馳せる。両親と過ごした幸せな日々や、初恋の甘い記憶。だが、今やその全てが「絆」として値段が付けられている。主人公は悩みつつも、次第に金銭の誘惑に負け、次々と重要な絆を手放していく。

第三章: 失われたもの

ある日、主人公は親の葬儀に出席するため、故郷に戻る。だが、そこに集まった親戚たちは、誰一人として彼を覚えていなかった。家族との絆を売ったことで、自分が存在しなかったことになってしまったのだ。この時、主人公は初めて、自分が犯した過ちの大きさに気づく。

帰り道、かつての友人や恋人を探し回るが、誰も彼を覚えていない。すべての絆を失った彼は、もはや誰の記憶にも存在しない孤独な存在となってしまった。

第四章: 孤独と老い

絆を売り尽くした主人公は、誰とも関わりを持てなくなり、孤独な日々を送る。彼はSNSや掲示板を通じて新しい関係を作ろうとするが、その絆もまたすぐに売ってしまう。次第に彼は、絆を売るためだけに人と関わるようになり、関係を築くことの意味を見失っていく。

時間が経つにつれ、彼の髪は白くなり、老いが彼を襲う。かつてのような魅力もなく、誰も彼に興味を持たなくなる。孤独が彼を支配し、やがて彼は精神的にも肉体的にも衰弱していく。

第五章: 最後の契約

ある夜、主人公は再び絆売りの店を訪れる。店主は彼の姿を見て、淡々とした口調で語りかける。「これが最後の絆だ」と。主人公は、自分がすでにすべてを失っていることに気づきつつも、その契約書にサインする。店主は静かに、彼の名前を呼び、「これで全てが終わった」と言う。

第六章: 死後の解放

主人公はその後、孤独に耐えられず、力尽きてこの世を去る。彼が最後に見たのは、自らが捨ててしまった過去の記憶の断片だった。彼が死んだ瞬間、絆売りの契約が解除され、失われていた人々の記憶が戻る。

葬儀の日、かつて彼が関わったすべての人々が集まり、彼を偲ぶ。彼らの記憶には、かつての彼の姿が鮮明に蘇り、彼を悼む声があふれる。しかし、主人公自身はもはやその声を聞くことはなく、彼が失ったものの大きさを感じることもない。

エピローグ: 絆売りの店
彼の死後、絆売りの店は再びひっそりと存在を隠し、次の訪問者を待ち続ける。そこには、新たな物語が始まる兆しが見え隠れしていた。


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