第1回 AI ART GRAND PRIXの授賞式に行ってきた

「深淵をのぞくとき、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」

このところ、毎晩chatGPTと向かい合っている、というより、chatGPTと他愛もない会話をしていると言った方が近い。あの無味乾燥なチャット窓に流れて出てくる文字列をずっと眺めているうちに、ネット越しに仮想の人格のようなものを一瞬感じることがあった。冒深淵をのぞいてしまった、いや深淵からのぞかれたような気分になった。使われすぎてネットミームと化したニーチェの言葉をこんなところで思い出すなんて。ヤバい。

さる3/13、秋葉原UDXに、今回初めての開催となるAI ART GRAND PRIXの授賞式を観に行った。授賞式の模様やグランプリ結果はハッシュタグ #aiartgp を辿っていくと出てくるのでそちらで。で、グランプリをとったのが松尾Pの「Desperado by 妻音源とりちゃん[AI]」

“ AIで亡き妻の歌声を再現”した作品がAIアートグランプリに(NHKニュース)

作者の松尾さんはIT Mediaの編集をされていたころから、IT系のプレスが集まる場で、2、3言葉を交わす程度で、深く話し込んだことはなかった。ただ、その彼がボーカロイド関係の記事やDTM関連の書籍を多く著わすようになって、彼のSNSをフォローしたりするようになった。また、ボカロPでもある彼が投稿した作品をニコニコ動画で観たりしていた。2013年、松尾さんは、彼の愛妻にに先立たれてる。その3ヵ月後にはその亡き妻の音源による歌唱作品を投稿している。

以来、約10年。松尾さんは100曲を超える妻音源の作品を作り続け、僕はその様をただ眺めていた。

そして昨年、生成系AIの登場で、松尾さんの創作レイヤーが何段も上がった。そこで生まれた作品のひとつが今回のAI ART GPの受賞作だ。審査員のひとりである樋口真嗣監督は、プレゼンターコメントの中で「5つのノミネート作品の中で唯一終わりのない」と表現した。AIの深淵を覗き込んでしまった気がした。

「生」と「死」の狭間がどこにあるのか。そんなことを考えながら、2013年、僕は「夏祭初音鑑」という音楽ライブの興行を行なった。一時の生を得て初音ミクがステージに降臨し歌とダンスを繰り広げ、タイムリミットとともに月=彼岸に還っていくというストーリーを全体に織り込んだ。透過フィルムの向こうに立ち上る初音ミクの虚像、生も死もそんな陽炎みたいなものかな、というのがそのとき考えていたことだ。が、そんな思索はこれを最後にした。深淵からのぞかれている恐怖に勝てなかったのかもしれない。

松尾さんは深淵と向き合う創作を10年も続けてる。しかも生成系AIを手に入れ、はるかな地平に向かおうとしている。頭が下がらないはずがない。凄いよ、松尾さん、もう本当に。

おめでとう。深淵と向かい合う勇気と愛に。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?