「改札の魔女」

切符をよくなくす。

切符紛失選手権があれば、県大会準優勝くらいの成績は残せると思う。

切符を改札に入れるまでは問題ない。
左手に切符を持って、右側にある改札に窮屈で変なホームで投じる。左手である理由は、右手は利き手であるが故に忙しいからだ。忙しい右手はそっとしておくのが懸命だろうと左脳が判断した。

それよりも、その後が問題だ。
改札機の中には魔女が住んでいる。
それはそれは恐ろしい魔女で、切符に紛失魔法をかける。

その魔法は、たとえ一駅だけの利用時間であっても効果を発揮し、ポケットに入れた切符をどこかの異空間へ飛ばしたり、切符を握っている手の力を弱めたりする。とても強力な魔法だ。

更に厄介なのは、
改札の魔女が何種類も魔法を持っているということである。1種類の魔法であれば余裕で対処できるはずだ。
異空間に飛ばすのであれば、ポケットに入れなければいいし、手の力を弱めるなら、手に持ってなければいい。

だが、改札の魔女は頭がいい。
あの手この手で切符を紛失させる。

対抗できる魔法を習いに、魔法学校へ行こうか。
いやでも、ここは寺田町駅のホームだ。
突っ込んでいける様な柱すらない。無念だ。

電車の中で切符を見つめていようか。
どこからか「無理だよ」と声がした。
「1月2日」に酷使した目がしゃべっているようだ。
頑張りどころを間違えているよと言いそうになるが、ギリギリのところで蓋をした。

どこであっても頑張れるのは偉い。

ここで考えるのをやめた。
やめたというよりもやめるしかなかったのだ。
改札の魔女の魔法のひとつ。
「睡魔」に襲われている。
とてもじゃないが、抗えない。

降りる駅で目が覚めた。
電車を降りる。
改札は目前だ。
もうここに切符はない。

こうして今日も
切符紛失選手権の成績を伸ばしていくのである。

改札の魔女は勝利の女神と紙一重なのかもしれない。

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