コラム:日本における韓国の地政学的価値と未来


 日本にとって、韓国の地政学的な価値は極めて重要なものです。何故ならば韓国があったからこそ日本は冷戦時代をほぼ無傷で生き延びたと言っても過言ではないからです。今日のコラムは韓国について地政学的に評価し、過去の評価と未来の価値について述べます。

 なお、以下のコラムにおいてシーレーンとは海の輸送路、ランドレーンとは陸の輸送路、シーパワーとは海軍主体の海洋からリソースを得る国家、ランドパワーとは陸軍主体の内陸部からリソースを得る国家のことを指します。

 また、シルクロードについてはウィキペディアでも十分な知識が手に入りますのでアドレスを提示しておきます。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%AB%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%89

1.地政学的に見た日本にとっての韓国の価値

 そもそも、冷戦下の世界構造は中国とアメリカの二国が太平洋を挟んでユーラシア大陸のシーレーンを取り合うという構造でした。ユーラシア大陸の輸送路は過去から未来に至るまでシルクロードをおいて他にありません。物資輸送は完全なるロスコストであり、だからこそ輸送路は常に最も効率が良い行く道と、それに対応する帰る道のみが生き残ります。

 故にユーラシア大陸のシーレーンとは、そのままシルクロードの海の道。つまり中国を起点とし、東南アジアを回り、インドを経由してイランに入港するルート以外には存在しません。その後の物資が、イランから更にスエズ運河を経由してヨーロッパに向かうか、ロシアやアフガニスタン、パキスタンを経由した陸路を使って中国に戻るかは、国力や物流路の発展によって常に変動します。しかしともかく、ユーラシア大陸はシルクロードの陸路と海路による物資の回転と、それに伴うユーラシア大陸全体の物資最適化が、内陸部の全ての国家を発展させる原動力となる構造なのです。

 ただし、冷戦下ではこの構造に変化がありました。日本が発展、アメリカの傘下に下ったことにより、起点をアメリカとして日本から東南アジアを回り、インドを経由してイランに入港、そしてスエズ運河を超えてヨーロッパからアメリカに戻る、という世界一周シーレーンが完成したからです。

 この世界一周シーレーンで物資が回るようになるのは、内陸部に大きな領土を持つロシアや中国にとって致命的です。なぜならば物資の輸送路に中国やロシアを経由する必要が一切ないため、物資輸送による余剰物資の最適化ができず、従ってユーラシア内陸国は発展速度が激減するからです。

 ロシアはまだシベリア鉄道で日本とヨーロッパを繋ぐことができるのですが、中国は単独ではもう完全に打つ手がありません。イランとアフガニスタンを抑えればまだ勝負になりますが、この二国は実質イスラム原理主義国家であるため、ユーラシア大陸の利益ではなくイスラム教に利益を齎せなければ同盟は不可能です。共産党の独裁体制である中国にはイスラム教の発展など当然飲めません。権威の対象がぶれるのはこのような独裁国家にとって致命的です。

 つまり、冷戦とは、東アジア最大のランドパワーであり、なおかつユーラシア大陸のランドレーン・シーレーンの起点となる中国が、新たなるシーレーンを作り上げて世界の覇権国家に名乗りを上げたアメリカとシーレーンを取り合う戦いであったと言えます。なぜ冷戦下においてベトナム戦争、朝鮮戦争が起こったのか。ベトナム戦争は世界一周シーレーンに対する直接的な、朝鮮戦争は朝鮮半島を利用して日本を攻撃する間接的な攻撃であり、最終目標は世界一周シーレーンを断ち切るためのものでした。

 この朝鮮戦争の結果として作り上げられたのが韓国です。韓国は朝鮮半島全体を中国の属国であるシーパワーにするのではなく、朝鮮半島内部に日米友好国としてのシーパワーを割り込ませることで、朝鮮半島の中国から見た地政学的なコストを跳ね上げる為に人為的に作り上げられた国家です。

 そして、朝鮮戦争で韓国という国家が作られたことは、日本にとって極めてありがたいことでした。もしも朝鮮半島が中国の属国に落ちていれば、朝鮮半島は中国に隷属する完全なシーパワーとなり、そして日本を攻撃することになっていたでしょう。そうなれば日本は軍備に必然的に国力を回さざるを得ず、今日のような発展はあり得ませんでした。

 しかし、朝鮮半島が二つに両断されたことで、日本は本来受け持つはずだった軍事力の維持をそのまま韓国に押し付けることに成功したのです。一方、分断された韓国側も、事実上の日米の属国としてですが、その分日米からの上げ膳据え膳により強力なシーパワーとして発展しました

 日本はアメリカや韓国と協調して中国やロシア、北朝鮮と戦うという戦後の基本戦略はこうして完成したのです。一方で、戦略のために国家を二つに割られた朝鮮民族は平和のための生け贄であることを余儀なくされました。

 この意味で、日本は朝鮮民族の犠牲の上で発展したのだと言えます。しかしそれは国家が利益と暴力以外に拘束されない以上、当たり前のことでしか有りません。国家のやり取りは、文句があるなら相手国より強くなるか、絶対重要な技術や資源を持つしかないのです。

 それ故に韓国は日本を越える努力を惜しまず、シーパワーとしての発展を続けました。今日の韓国の巨大なGDPは、韓国の努力が実ったものであると言えます。

2.地政学的に見た韓国の未来像

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