コラム:グローバル化とインスタント発展

 これからはグローバル化社会だ、と言われ続けてもう十年以上経っています。しかし、グローバル社会のメリット・デメリットはなんなのかと言われて、明確に答えることができる人間はいまだに多くありません。そもそも、「国や地域を超えて社会的にヒト・モノ・カネのやり取りをする社会」の恩恵を受けている、という実感がある人もそう多くないのではないでしょうか?

 今回のコラムでは、地政学的にグローバル化のもたらした影響について説明します。

 地政学的には、グローバル化は「情報のどこでもドア」たるインターネットが引き起こしたものだと説明します。資本主義だけでは、国や地域を超えても人や物をまともに動かすことができません。例えば奴隷制の崩壊は、地政学的に見ると資本主義によって人を無理やり集めたが、生み出すものが十分に地域内に流通してしまい、維持する人の分だけの利益を得られなくなったところから始まっています。

 グローバル化は特に「分業」を進めるものです。物資輸送コストの低下、特にインターネットによって情報輸送コストがほぼゼロになったため、全世界単位でコンテンツ産業(これには金融業も含みます)の「分業」が可能となり、コンテンツ産業の最適化が発生しました。この最適化が国際関係を変化させ、今の社会を作っている訳です。

 一般的に、グローバル化にはメリットとデメリットがあると言われています。グローバル化のメリット・デメリットを以下に並べます。上から三つがメリット、下四つがデメリットです。

1.メリット:生産性向上

 グローバル化が広まれば国際的に「分業」が進展します。全世界を巻き込んだ物資生産を行うことができるため、工業に最適な国や商業に最適な地域に集約された最高効率の世界市場が誕生します。特に、発展途上国と先進国の人的コストの差を利用した生産コストの減少は簡単に比較優位性を齎し、絶対的貧困に喘ぐ人の数も減少します。

2.メリット:技術・文化の交流

 特に情報輸送コストの激減により、グローバル化した企業や個人は世界に点在する様々な技術・知識・人材などのリソースを活用できるようになります。特にコンテンツ企業においては、強力な人材を世界中で集めることで最高のコンテンツ生産力からの新技術の開発や、文化交流による新発想の獲得が可能です。いわゆるGAFA(netflixを入れてFAANGとも)の強さは、端的に言ってこの膨大なコンテンツ生産力にあります。

3.メリット:経済問題の解決


 国際的な金融危機や環境問題を、国家同士の連携によって解決することができるようになります。全ての国家は物流でつながっているので、国際的な問題は解決することで全国家にメリットを齎すようになる、ということです。

4.デメリット:産業空洞化

 企業の海外現地生産が盛んになっても必要な物資や需要が極端に変わることはありません。故に、企業が海外に進出すると国内の生産拠点が少なくなり、そして雇用が減少しつつ国内の貨幣が外部に流出していくことになります。つまり、全世界レベルで経済の平準化が起こることで豊かな国家が貧しくなっていく訳です。

5.デメリット:雇用の損失

 海外展開を実施する企業の多くは、優れた人材だけを求める上に、その人材を現地のトップに据え付けて雇用水準の低い労働者を安く運用することで人的コストを最小限に抑えようとします。それにより、海外展開した企業が自国で雇うはずだった人間の失業が増えます。失業者の増加は雇用保険の増加、生活保護の増加ですから、経済的負担がより増すことで上記と同様、豊かな国家が貧しくなっていきます。

6.デメリット:文化の衝突

 文化はその土地固有のものであり、そしてその土地で生き延びるための知恵の結晶です。しかし砂漠の文化、例えばラクダの上手い乗り方が、温暖な熱帯雨林で役に立つでしょうか? これに限らず他国の文化を自国でそのまま使うことは大抵不可能です。しかし、コンテンツ産業の最適化によって発生する文化の交流により、本来その国には合わない文化が元々の文化を侵蝕してしまうことが多々あります。

 このような問題点は、地政学に限らず一般的に言われており、メリットとデメリットを冷静に判断した上でグローバル化を進めるというのが社会的な要請とされています。しかし、地政学的には四つ目の最も大きなデメリット、インスタント発展問題が存在します。

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