コラム:アルゼンチンの栄光と崩壊

 十二月ということで忙しいのですが、ある程度時間が取れたのでツイッターに挙げた内容をまとめたものを投稿します。地政学の話題ですが、問題になる部分は本筋にはありませんので、ゾーニングはオマケ部分にのみ設定しています。

 経済学において、アルゼンチンといえばデフォルトです。その破産回数の多さは数ある国家の中でもぶっちぎりに多く、かつて先進国であった面影は一切ありません。このコラムでは、アルゼンチンがなぜ先進国の座から滑り落ちたのかを地政学的に解説します。

さて、アルゼンチンといえば多様な自然環境です。パタゴニアは嵐の氷河、クージョは乾いた高地、パンパは肥沃な草原、メソポタミアは熱帯雨林、グラン・チャコは豊かな砂漠、北西部には大渓谷。これらの環境を元にした観光資源は元より、パンパの牧畜やクージョのブドウ栽培、北西部の鉄鋼業に様々な鉱物資源、石油に天然ガス。アルゼンチンは十分すぎるほどの資源大国だと言えるでしょう。実際に、その資源を生かして発展していた頃も二十世紀前半にはありました。

 しかし、アルゼンチンには地政学的に見て極めて致命的な欠点が一つあります。「資源はあるけど運用する場所がない」ことです。

 まず、河川の大半が季節で流量が変わる上に、乾燥した大地に吸い込まれて海まで流れない川も多いです。地政学的な優等生の北西部を除けば、砂漠と氷河、亜熱帯雨林、草原という地理条件には流れる水がないので、第二次産業には一切使えません。

 この工業の弱さは鉄道網の弱さに示されています。道路網が発達しており車で運べばいいといえば聞こえがいいですが、実情は「鉄道でなければ運べない重量物」の需要も供給もないということです。重工業は送電網を作るには必須で工業インフラの基礎なので、つまりアルゼンチンの工業は基礎が決定的に弱いことがわかります。

 他にも、国土の25%を占めるパンパは、高低差ゼロの湿潤気候で氾濫を繰り返すので、延々と養分が貯まっていくだけの緩んだ大地です。価値のある野菜は水はけが安定した畑と農薬前提でないと作れず、工場には流れる水が必要です。従ってパンパは草原にしかならず、放牧以外に使えません。アルゼンチンの大地は豊かですが、同時にその殆どが「使い道が決まっていて動かせない」のです。

 必然的にアルゼンチンは第一次産業で勝負することになります。第二次産業には土地がなく、第二次産業なくば輸送路が完成せず、第三次産業には輸送路の発展が必要だからです。しかし機械化がまともにできず、最新鋭の科学的農業とは戦えませんし、何より輸送コストの都合上凄まじい付加価値が付かなければ内陸部の農作物は売れません。政情不安とは一切無関係な条件で、内陸部の豊かさは頭打ちになって当然なのです。

 更に、アルゼンチンの海岸は大規模な港が作れるだけの深さがある入り江がないという欠点を抱えており、外部からの輸出入にも問題を抱えています。故に、アルゼンチンは工業化を進めていますがその歩みは極めて遅いものとなっています。もちろん、十分に水量があり船の運航が可能な巨大河川も持たないため、内陸部に工業地域を作るのは殆ど絶望的です。

 以上の事から、アルゼンチンは「資源の輸出に長けるが、世界と戦えるほどの効率は見込めず、いずれ必ず先進国の座から滑り落ちる」運命だったと言えます。世界恐慌はきっかけに過ぎなかったでしょう。

 以下の内容は地政学における文化に関するオマケになります。少し野蛮な内容なので、ゾーニングをかけています。

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