role model

思春期の上澄みを切り裂いては、ぽろぽろと滲む蜜を頬に塗りつけていつまでも遊んでいる。いつまでも、いつまでもいつまでもいつまでもいつまでも。蜜が照る本来の、あの時に天使になっていればよかった。私が私を殺せばよかった。殺されれば死ぬし、殺せば死刑確定だし、実質私ひとりの私だけの心中だ。それって実質自殺と同等じゃない?

私が私を殺せますように、と呪いをかけた私の、私だけのお姫さまはクラウドの中で永劫にも思える時間をすやすやと眠り続けている。もしも自撮りが遺影で、2ギガのムービーが走馬灯であれば、数年前ここに残した言葉はぜんぶ遺書で、ビビットピンクのフィルター加工をかけた写真は副葬品や仏花になり得るね。四畳半の部屋を棺桶にしようとしていたきみにぴったりだ。

ねぇ、絵も文章も思うようにかけないし、手首も切らないし、大森靖子にも救われなくなったけど、死ねなくてよかったことも少しだけあるよ。あの頃からの焦燥や鬱なんかを成人まで引き延ばしていたからもうすべてに慣れてしまっていて、起伏のない平坦な道と凡庸な精神しか残されていないけど、あと2年くらいは生きていけちゃいそうだよ。ごめんね。でも中途半端に自殺の痛さや苦しさを残したきみも共犯者だ。死に損ないのきみにいつまでも殺されないままでいる。

誰のいちばんにもなれなかったきみは自身をいちばん愛することを選んだ。自尊心のない歪な自己愛。ねぇ、聞こえてる?もう大丈夫だよ。ずっとかわいいきみのこと、ずっとかわいい私が守ってあげる。こうやって追い詰めてあげる。愛してあげる。きみは男嫌いだから丁度いいでしょ。ひとりでもふたりでもないからね。寂しくも苦しくもさせないよ。きみの悪口はただの虚勢であって、嫉妬なんかに似た意地張りだと私だけがわかってるからね。音楽にも救われない、思い出にも縋れない、そんな私たちにはもうスマートフォンなんていらないよね。どうでもいい駅の、どうでもいい街中の薬局から沢山の錠剤瓶をかっさらおうか。ホールケーキを素手で食べてその指で咽頭をこつこつして物理的に0カロリーにしちゃおう。その口で肉欲の付随しない啄みのキスをしよう。昔好きだった人間に愛してると好きだよが禁句のラブレターを書こう。Amazonで帰る安い睡眠錠剤で脳みそを意識の沈殿に落として、溺れることない海の底へゆらゆらと手を繋いで向かっていこう。だからね、見誤らないでもう少し生きてきて。あなたの認めたあなたのかわいいを更新できなくなったとき、回顧できなくなったときに私のこと殺してあげるから。だから、もう少し待っていて。

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