welcome to フライハイベルト「welcome to・・・where?」
人が話す声が聞こえる。耳をすましても交差し続ける会話の脈絡のない単語が鼓膜に届けられるだけだ。朝だと言うのにうるさい…ひんじゃくグリズリーの曲でも聞こうかなと思った瞬間に教室の扉がスライドした。
入ってきたのは担人だ。なんとも冴えない教師なのだがしっかりとした人だ。揶揄われはするものの生徒たちからはそこそこな人気を集めている。少なくとも彼を嫌う人間なんて逆張り精神を持っている様なイタイ野郎とかギャルでも嫌ったりはしないだろう。しかも小耳に無理矢理挟まれる話によると一部の女子からは人気らしい。そんな感情の起伏が激しくないクールなイメージを持つ彼が、不安な顔をしていた。
「えー、もう知ってる人も多いでしょう。昨日まで私のクラスで授業を受けていた寿(トシナガ) レマさんが屋上から飛び降りました。」普段、話をする時に必ず生徒の方を向く先生が教卓を見つめながら話した。レマは…優等生だった。上手くやっていた。楽しく生きていたはずだったんだ。
思い出すな。もう掘り返すな。あの子が死んだのは決して私が悪かったわけじゃない。おばさんが見つけた遺書にだって私への怨みつらみ何て無かった呪うだとか赦さないとか書いてなかった感謝を述べていた。だから…あの時のことを思い出すな…
ぁ…
ぐチゃッ
ひしゃげた右足
骨が飛び出した腕
りんごと比べても負けない鮮血
平均的な女子の厚みとは思えない潰れた体
光の 少し出ている眼球 絶望
無い した
眼 顔
口から飛び出した
奥歯…?どこの歯?犬歯?
動いた指…動いたの?え?じゃあ生きてるの?
どうしたら…助けなきゃ どうやって?どうせもう短い命なんじゃ違うッ!!きっと助かる!! でも後遺症は?
ほぼ死んでるのと変わんない状態になったら?
「ざ…ぁ…ぃろ…」口が動いた。
この子って…違う、助かるか否かとかじゃないんだよ。呼ばなきゃ…
脳の処理が終わる。ぼやけた世界のピントが合っていく。レマだ。
「レマ…嘘!?誰か!だれかぁぁ!!助けてよ!!お願い!!助けてよッ!!」神に祈った。悪魔にこの身を捧げて助けられるなら死んだっていい。レマの体を支える。ダメだ、血が漏れてる…
しばらくして、サイレンが聞こえた。男の人達が私をレマから引き剥がして毛布を被せて連れて行く。
手には…手には…レマの骨のかけらが左拳の中に入っている。
気がつくと、保健室に私はいた。
「目が覚めたかいお嬢さん。」知らないおじさんだ。学校内で一度も見たことがない人だ。外部の人?
「誰ですか?」
「おじさんねぇ…こう言う者なのネ」と言っていかにもな警察手帳を見せてきた。ドラマで見たのとほぼ同じだ。つまり、本物の警察官ということになる。
「でだ、おじさんはねェ、寿さんの事について訊きたいのね?だから、親友であるあなた、シュウコさんのとこに来たノ」口調にクセはあるが顔はすごく真剣だ。真っ直ぐな目をしている。
「すみません、レマって…どう考えても自殺じゃないですか?」そう、レマは飛び降りたのだからそれは自殺のはずだ。それとも他殺だとでも言うのだろうか?
「いやぁねぇ〜、親御さんがね、こんな紙を見つけたんだよ。」と言って懐から封筒を一つ取り出して中から紙を一枚広げた。そしてその内容を見させてもらった。
『なんだか、いきなり吹っ切れちゃった。
イジメっぽいのがあってそれに耐えられなくなっちゃったし、この頃嫌な夢しか見れないの。本当は死にたく無い。学校を出れば私だってちょっとしたリア充だし、カレシだって居るんだもん。でも誰と居たとしてもこんな環境に耐えられない。昔テレビか何かで自殺させた方はもちろん悪いが自殺した方も悪いって言うのを聞いたことがある、だってそこで死んじゃったら変えられたかもしれない物を変えられなくなっちゃうからだって。だけど努力よりも死んじゃう方が早いじゃんって思っちゃったらもう真っ直ぐになれなくなっちゃった。
死んじゃうから言いたいことはここに書いておくね。
まずは私を虐めてた奴ら、アンタらは私と一緒に地獄に堕としてやる。許さないからね
次に、シュウコ 私の大親友のシュウコへ 普通ならいじめの現場はシカトするのに助けてくれてありがとう。あれ以来一緒にいることが増えたね。ごめんね、先に行っちゃうのを許してね?
バイバイ、愛してるよ。 寿 麗眞より呪いと愛を込めて』
それを見てから涙が止まらなくなった。刑事さんには色んなことを話した。レマの普通じゃない惨(むご)い日常のことやいじめの主犯格やレマの彼氏のこと、関係ないレマがすきなものやきらいなものやこととくいなこととかにがてなこと…………思考が鈍る。
何で普通に私は学校に来ているのか。それは、普段通りにしていればレマが隣の席にいるんじゃないかって、本当はあの時は私の嫌な夢で現実じゃないんじゃないかって、仮に来なくたってたまたま風邪気味で出席できないだけなんじゃないか…って、思って…
「…なばら、海原、聞いてるか?先生は今、とても大事な事を話してるんだ。だから頼む…苦しくても聞いてくれ」苗字を呼ばれハッとする。注意に対してただ一言、「ごめんなさい」と返す。いつもの私なら「すみません」と返していたはずなのに何故か今は違った。「レマを殺したのはお前なんだ」と言う風に聞こえてしまい、謝ったのだ。
「さて、では続けるが、俺は男だ。どうしても女子同士のイジメ何かに関しては頼りずらいと思う。でも、俺は皆んなと信頼を築き上げたと思っている。とにかく、一人で抱え込まないでくれ。お願いだ…お願い、します…」そう言い、先生は頭を下げた。メガネをかけているからか、泣いている声だけが教室の中で反響する。
遺された人は多い。私はその遺される側になるなんて想像もしていなかった。この高校を出て大学卒業したら就職をして、レマと一緒に海外に行こうと思っていた。レマには彼氏がいる、だけどいつか別れるって私は知ってた。金を貯めて、同性で結婚できる物価の安い国に行って楽しい日々を過ごす計画だった。なのに、私の行動力の無さが、こうなってしまった。
どこへ行こう…どこへ…?レマがいないこの世界なんて天も地獄もそう変わらない。どう、しよう…
どうもカウントニキでございます。今回も読んでいただきありがとうございました。今回は閑話休題と言う感じで、主人公レマが怨恨を残した世界のその後を少しだけ書きました。レマが死ぬ前の名前は寿麗眞でした。今回主人公視点として出てきたのは海原憂子(シュウコ)で、レマの事が好きな女子でした。自分もある種の遺された側の人間であるのでその時の胸中を少しだけ織り交ぜたりしました。どうか、シュウコさんが救われる未来があることを願って
次のページでお会いしましょう。それでは。