読書感想:名称未設定ファイル
品田遊「名称未設定ファイル」を駆け足で読了した。
図書館の返却期限が過ぎてしまっていたので。。
一言で言うと「イヤ~な作品!!!!」。
これは褒め言葉として言っているのであり、また本人は意図して書いているはずなので、ちゃんと褒め言葉になると信じている。
(意図して書いていないならそれはそれで才能)
描写の一つ一つが妙にリアル、というかリアルを越えて生々しく、前作「止まりだしたら走らない」がギリギリでフレッシュなリアルさだとしたら、これは腐敗すら感じられるようなイヤな手触りの生々しさ。
決して陳腐という意味ではないです。
現実世界の隅を取り出して刻んでバラシて味付けして成形したような。
文量も文体も違う17篇の短編を、よくもまぁこんなに手を変え品を変え登場させてくれやがりましたね。
それぞれが独立したり繋がったりしながら、全体的には「デジタルテクノロジーとSF」という共通点をもった世界を展開している。
それでいて描写しているのはどこまでも人間という皮肉。
印象的だった作品の感想をいくつか。
01 猫を持ち上げるな
トップバッターに相応しい、現代的な「ネットの炎上」をお得意の描写力で表現したイヤ~な話。
本当にありそうなんだよ。ていうかあったよね?数年前にあったよねこういうの、という不安が拭えない。
どの主張も理屈としてはある程度分かるがゆえに、こじれて炎上した状況の息苦しさは自分も巻き込まれたようなストレスを感じた。
ネコちゃんが無事だったのが救い。ネコちゃんが辛い目にあうのは見ていられないから。
03 この商品を買っている人が買っている商品を買っている人は
世にも奇妙な物語になりそうな話ナンバー1。
「いろんな人形を配置して好みのジオラマを作るような支配」という視点がなるほどと思った。
100%思い通りに動かす支配じゃなく、対象に自由だと思わせ振る舞わせる支配。
現実もそうなのかもしれない。
最後のお見合い相手は、誰だったのだろう。きっと元カノに似た人だったんじゃないだろうか。
06 紫色の洗面器
クソつまらないキッズYouTuberという題材だけでもう最悪。
単なる繰り返しじゃなくちょっと遊びを入れてくる(くすぐりなど)のもリアルな面白くなさで最悪。
うすら寒い謎があるだけで事件は起こらず何も判明せず(おそらくその人だろうという描写はある)何も変わらない。
それだけに読後感の悪さも独特。
08 1日5分の操作で月収20万! 最強ブログ生成システムで稼いじゃおう
ゾッとした。こういう意味の分からないエラーの羅列は怖いし、それを意図的に書き出してしまっているのが怖い。
途中まで普通に読んでしまい、少しずつ入ってくる違和感と最後の狂いに浸食された気分。
09 過程の医学
この時すでに反出生主義への興味があるんだなと思わせる一篇。
個人的には、赤ちゃんが真っ黒に見えるのはブラックホールみたいに周りの情報を吸い込んでるんじゃないかという希望的観測を持ちたい。
10 習字の授業
フォントを変えることもできただろうに、それをしなかったことでシニカルな笑いになっていた。
本文中の先生の「明日」を使ったのは天才の発想。
12 亀ヶ谷典久の動向を見守るスレpart2836
同じような題材の映画があった(見たことはない)けど、2ちゃんねる的フォーマットを踏襲し、スレッドの数を重ねているのが妄想と現実の境目をまだら模様にするイヤさがあった。
中学時代の言い間違いがスレのお約束になっている(かつ時間経過で過去のネタになりつつある)のもイヤだし、これが数世代に渡る「見守られ」なのもイヤだ。
粘着コテハンとそれに対する周りの描写もすごすぎる。これは実際に入り浸って見ていないと書けない生々しさ。
一番笑えそうだったのに結果的に一番笑えなくなった話。
15 最後の1日
冒頭に事故の記事を持ってきて、被害者(と思われる。断定した記述はなかったはず)の「最後の1日」を追う話。
あまりに何もない1日(彼の一生の縮図と言えるかも)を徹底した細かい描写で書き連ねるのは、あまりに意地が悪い。
「最後の1日」というタイトルもグサリと突き刺さる。
本当に死んだのが彼だとすると、お母さんに感情移入というか同情してしまい、その点でこの話が一番堪えた。
ザビエルbotのネタはいかにも恐山らしい温度感。「何故」、漢字にしちゃうよね。。。。。
「イヤ」ばっかり書いてるじゃん!
実際にイヤのフルコースみたいな作品だから仕方ない。
これは褒め言葉です。大事なことなので二回言いました。
手元に置いておくのが怖いくらいイヤな作品だったけど、文庫版はしっかり注文してしまった。
誰かに読ませてこのイヤ~な気持ちを共有したい。
ウイルスのように拡散させたい。
これからの社会のために可視化して摂取するべき毒だと思うから。
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