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2024/8/26(月)の宿題:目の見えない世界の本や文字

 『今日の宿題』(Rethink Books編、NUMABOOKS)に毎日取り組んでみる37日目。本日は伊藤亜紗さんからの出題で、「目の見えない人だけの国があったら、本屋はどのような形をとるか」ということについて書く。

目の見えない世界で

 以前、ダイアログ・イン・ザ・ダークを体験した。視覚障害があり暗闇に慣れている方のナビゲートの中、初対面の参加者とともに暗闇の中を歩き回り様々な体験をするというものだ。

 これに参加して、「全員が目の見えない人だったら」としょっちゅう考えるようになった。そこにいる全員が目の見えない世界は、みんなが対等で、私にとってとても心地よい体験だったから。
 それをきっかけとして、視覚障害についての本を読み漁ったり、YouTubeで配信されている動画を見たりした。

 そういったもので印象的だったのは、目が見えない人は音に頼って行動することが増えるから、音の処理能力が目の見える人よりも高いんじゃないかということだ。読み上げ機能でスマホの通知内容を確認していたが、読み上げをおそろしく速くしていて、私にはまったく聞き取ることができなかった。

 


 全員が目の見えない世界なら、聴力に関する文化が発達するのではないだろうか。本屋じゃなく、CDショップの方が増える気がする。人々はCDを買って帰って、ヘッドホンから、スピーカーから、音楽や物語やドキュメンタリーを聴く。時代が進めばPC一つでいろいろな音声データが家で聞ける。

 そんな世界で本屋は肩身が狭いだろう。指で文字を知るのは、目で読むより、耳で聞くより、時間がかかる。
 でもきっと本はなくならない。点字で書かれた本は出版されるだろう。それは、耳が聞こえないあるいは聞こえにくい人、耳で音声データを処理することに疲れた人、あまり聞かれたくないことを発信したい人、そういった情報を得たい人にとって必要だから。
 そんな人たちのために本屋は僅かながらも存在する。みんな目が見えないから、手が届く範囲に全ての本の表紙や背表紙が並ぶ。それを触って、開いてみる。そこは全部暗闇、そういう本屋が。

 文字も独特な文化を遂げるのではないだろうか。友達同士でひそひそ話をしたいときに、紙の折り目で簡単なメッセージを伝えるとか。恋人同士で秘密のやりとりがしたいときに、手や指の形でコミュニケーションをとるとか。紙の折り目も手や指も、文字になる。そういった文字は独特の発展を遂げて、何万種類もの言葉になりそうだ。未来の人が解明しようとしたってできない脈絡のない由来でつくられる文字、文字……。永遠の秘密を守れる文字なんて素敵じゃないか。

 そう考えると、目の見えない人だけの世界の本屋や文字は静かでロマンチックだ。ぜひそういう世界に行って、友達とこそこそ噂話したり、恋人とひみつのやりとりをしたりしてみたい。

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