「出版社内容情報」で読むK-1ダイナマイト (全文)
※ 自作の文章ですが、他社ブログからの転載です。
※ 「出版社内容情報」は紀伊国屋WEBでの言い方です。セブンネットショッピングは「商品説明」、ネット書店e-honは「出版社・メーカーコメント」。
※ 仮面の男の正体のネタバレを踏みます。
はじめに
「出版社内容情報」から内容を把握しよう! と試みました。
と、物語のコンセプトを語る文言に続けて、
で、はじまる出版社が用意した単行本紹介文。
自社サイト(小学館)や書店、ネット書店で単行本の内容を説明するための文章かな? と思われます。2019年11月現在、紀伊国屋WEB、オンライン書店e-hon、セブンネットショッピングでの掲載を確認しています。(Amazonは4巻、8巻のみ)。
K-1ダイナマイトの内容紹介のための文章って「出版社内容情報」も雑誌掲載時の「あらすじ」をみても、主人公の大奈舞人くんの一人称で語られてるんですね。舞人くんが話しかけてくる! しゃべってる! って私なんかは、はしゃぐんですけど……
たまに舞人くんが自分の都合で事実と異なることを言ったりしてるのも面白いです。
……とはいえ、野暮なことを言いますが一人称は舞人くんだけれど考えたのは担当編集者でしょう(※推測)。タイアップ作品という性質上、タイアップ元の意向と編集者と作家との協議・協力あっての作品であり、直接作品作りに係わる立場からの解説はそのあたりの事情を伺い知るうえで貴重です。
なにかわかるかもしれないゾ! という興味本位でじっくり読んでみようと思いました。
: 「出版社内容情報」で読むK-1ダイナマイト
以下から本文です。(参考)は「出版社内容情報」を引用掲載するつもりでしたが、煩雑になりそうなので私がまとめた梗概を載せました。「出版社内容情報」は記事中に引用していません。掲載されているサイトをご参照ください。
※ この記事長い!という方、分割版あります。
● (参考)「出版社内容情報」あらすじの要約
原文を参照した場合は読み飛ばして次項へ
各巻の出版社内容情報を要約した。〔〕内にさらに短く要点を書き留めた。
※ 元の文章は紀伊国屋WEBの単行本紹介ページを参照。
備考) 当初は「出版社内容情報」を引用し〔〕内を添える予定だった。
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【第1巻】 〔主人公・舞人の紹介、K計画への参加〕
最強の男を目指している格闘経験ゼロの小学五年生・大奈舞人がアンディ・フグと偶然出会い、正道会館に入門。空手をはじめてまもないが、アンディにより最強のジュニア空手家を育てるK計画の候補に選抜される。
【第2巻】 〔C4とニトロの紹介、具体的な目標の設定〕
突然現れたニトロが舞人を襲う。ニトロは過去の練習中の事故で双子の弟・C4に左眼を傷つけられ選手としてのハンデを負ったのに、すでに「全開」で戦える相手をみつけていた弟のことが許せない。C4の新ライバルである舞人はそのとばっちりを受けた。ハンデを乗り越えて出場し二人を倒す、と宣言するニトロによりもたらされた大会開催の情報から、K-1ジュニアリーグでライバルを倒して優勝するという最強を証明するための具体的な目標が示される。
【第3巻】 〔K計画での事件勃発〕
最強のジュニア空手家を育てるK計画の船上の合宿で、仮面の男なるキックボクサーが非道な行いをするし、強い。舞人はひどい目に遭わされる。
【第4巻】 〔K計画:親友との戦い〕
仮面の男の正体は地雷。戦うことになってしまった親友がキックボクサーとしての本来の力で襲い掛かってきた。舞人は苦戦。上段回し蹴りを仕掛けようとしてがら空きになったボディを狙われ、舞人はどうなる?
【第5巻】 〔K-1ジュニアGP:先輩との空手の威信をかけた戦い〕
舞人は合宿を終えてK-1ジュニアGPに出場し、初戦を突破。2回戦は空手の大先輩であり、かつてその強さを教えてくれた下瀬との対戦。空手を馬鹿にするようになってしまった彼は中国拳法・詠春拳の使い手で、とても強い。舞人は空手の強さを証明するため、必ず勝つ、と決心する。
【第6巻】 〔K-1ジュニアGP:先輩との空手の威信をかけた戦い〕
下瀬戦は、舞人の必殺技「G・G(ガトリング・ガンキックス)」と下瀬の「嵐の鉄槌(ストーム・ハンマー)」との技と技をぶつけ合う展開に。両者とも戦いの中で試行錯誤し、消耗が激しい。ついに限界を超える激戦。
【第7巻】 〔K-1ジュニアGP:ニトロとC4の対決〕
舞人は下瀬に勝利し、観戦にまわる。ライバル・C4の対戦相手は殺人技を使う格闘集団・ビーストの一員で、その正体はニトロだった。C4はニトロを殴ると黒視症の症状が出るので、目が見えないという究極のハンデを負う。C4はどう戦うのか?
【第8巻】 〔K-1ジュニアGPとん挫:誘拐されたC4の救出〕
K-1ジュニアGPの真っ最中に、ライバルのC4が殺人格闘集団・ビーストにさらわれてしまった。舞人はビーストの本拠地へつづく地下通路で番人ケルベロスをアルティメット・マイト・ザ・グレート(正道空手奥義『天魔』)で破る。タクマのもとにたどり着くも、仲間はたおされ、C4は拘束服を着せられ身動きが取れない状態。舞人はタクマが復活させたB×B×B(ビー・キュービック)を打ち破るため戦う。
● 舞人を中心にした物語流れの把握
「K-1ダイナマイト」は登場人物の文脈が複雑に絡み合う物語であるが、単行本各巻の「出版社内容情報」のあらすじは主人公・大奈舞人の一人称形で紹介され、舞人の活躍の要点を押さえて展開がまとめられている。
物語の流れは以下のようになる。
【第1巻】は〔主人公・舞人の紹介、K計画への参加〕。格闘経験ゼロだが舞人は最強の男を目指している。空手をはじめた、という導入。スキルアップのためのK計画への参加という第一関門が待ち受ける。【第2巻】はK計画の話題は一旦脇へおいて〔C4とニトロの紹介・具体的な目標の設定〕がされ、舞人とC4のライバル関係にニトロが絡んでくる三角関係的な構図が提示される。「目のハンデ」をめぐったC4とニトロの因縁も物語に絡むことを予感させる内容である。また、《K-1ジュニアリーグ(のちジュニアGPに呼称変更)に出場して優勝すること》が最強になるための具体的な達成目標として示され、物語の筋道が立つ。
【第3巻】は〔K計画での事件勃発〕。K-1ジュニアGP出場までの鍛錬で参加している合宿(K計画)に仮面の男というキックボクサーが現れて妨害を受けるが【第4巻】でその正体が親友の地雷だとわかり対決。(〔K計画:親友との戦い〕)
【第5巻】でいよいよK-1ジュニアGPに出場。舞人の過去が明かされる。空手に興味を持つきっかけとなった大先輩・下瀬が空手を馬鹿にするようになり別の格闘技の使い手になっていた、というショッキングな事実に直面。彼との試合〔K-1ジュニアGP:先輩との空手の威信をかけた戦い〕での勝利を決心。【第6巻】までこの話題は続く。この時点で舞人は必殺技「G・G」を編み出している。
【第7巻】ではライバル・C4の試合の話題。〔K-1ジュニアGP:ニトロとC4の対決〕はライバルとの三角関係で絡んできているニトロを倒して、C4が勝ち進むことができるか? が舞人にとっては重要なことだ。彼らの試合は第2巻で予告されていた「目のハンデ」の因縁をめぐる対決でもある。また、ニトロがその一員であると言われて「殺人格闘集団・ビースト」の名がやっとここに登場する。
【第8巻】では、ビーストがC4を誘拐する急展開〔K-1ジュニアGPとん挫:誘拐されたC4の救出〕。舞人はビーストの本拠地へ向かい、アルティメット・マイト・ザ・グレート(正道空手奥義『天魔』)で番人を倒す。突如タクマの名とB×B×Bの復活が言われ、なかまがみんなやられてる、ライバルは戦闘不能で見守っているという極限状況に。舞人はタクマに、B×B×Bに勝たなければならない。
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このように《舞人が最強の男を目指す物語》というのは、素人からはじめて空手を鍛錬し、選手選考のための強化合宿(K計画)に参加し、代表選手としてK-1ジュニアGPに出場してライバルC4と優勝をかけて戦う、という流れだ。
「G・G(ガトリング・ガンキックス)」「アルティメット・マイト・ザ・グレート」という必殺技の体得で技術の向上が伺え、技量が試される局面の戦いにおいて倒し超えるべき存在として悪に手を染めている親友や心変わりしてしまった先輩(※ 元の文で地雷を「親友」、下瀬を「空手の大先輩」と呼称している)といった舞人にとって近しい人物の配置がドラマを盛り上げている。
目標であるC4との対決における邪魔者としてその兄・ニトロの存在が序盤から影を落としていたが、予告されたとおりK-1ジュニアGPの舞台でC4とニトロが対決することになる。舞人が主導して解決できない問題に阻まれて、目標達成を挫かれる危機だ。
ここで登場する「殺人格闘集団ビースト」により、いよいよ急展開。ビーストにC4がさらわれてしまう。舞人の具体的な達成目標(=大会のチャンピオン)が奪われ、《舞人が最強の男を目指す物語》はとん挫してしまう。
そして、とって変わるように突然現れた人物・タクマとB×B×Bの復活が話題に浮上。
ーータクマ誰だ? B×B×B ってなんだ?
よくわからないけれど殺人格闘集団に関わることだから、いかにも危険。それでも打ち破りC4を救出しなければ舞人がC4と戦うことは永遠に叶わない。『K-1ダイナマイト』は本来の《舞人が最強の男を目指す物語》に物語の軌道を戻すための戦いが最後に展開されることになる。
● 「出版社内容情報」にあらわれる物語の特徴
「出版社内容情報」はその性質上、限られた文字数で単行本を紹介し購買者の興味を惹くために最低限の情報で詳細を省いた描写がされている。これがミスリードを誘い、実際の内容との間に齟齬が生じる場合もある。ここでは記載されている情報について単行本の内容と比較しながら、「出版社内容情報」で特徴的といえる点を指摘していきたい。
前項で全巻を通した流れと読み取れる情報をまとめた。これに補足するかたちで以下に述べる。
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〔1.ビースト登場のタイミング〕
際立った特徴としては、ビーストに関わる情報が7巻まで明かされないところだ。仮面の男との関連も言われないため、地雷が個人的に悪事を働いていたかのようだ。
ビーストという大悪は終盤になって付け足された設定に読める。仲間を全滅させるほど強いタクマなる人物がいきなり登場するし、「復活し」たとされるB×B×Bが奥義の名とわかるようには書かれていない。最終巻はこれまでの《舞人が最強の男を目指す物語》から逸脱する急転直下の展開とあって、輪をかけて荒唐無稽な結末であったのでは? と憶測するところである。
実際は、1巻からその正体がビーストのタクマが正道会館の門下生として登場(この時点ではシルエットのみ)しており、物語の筋に絡んできている。「K計画」の真の目的こそがビーストとの闘いに備えたものだった。
B×B×Bもまた、おそらくは、舞人のアルティメット・マイト・ザ・グレート(=天魔)の対として当初から構想上あったものではなかったか。2巻の「四天王、現る!!」でタクマが披露した空中での高速の足さばきはB×B×Bを一連の動きとして成立させる要の技術である。
しかし、この作品が初期構想から大幅な改修を余儀なくされただろうことは読者からも想像に難くない大事件が起こった。既読者は知ってのとおり連載中に舞人の師匠役で本人として登場していたアンディ・フグが病気で亡くなった。
月刊連載作品のエピソードが完成してから雑誌に掲載されるまでの時間差がどれぐらいあるのか不明だが、アンディの死は5巻収録の「最強の格闘技」が掲載されたあたりだった。展開が見直されたのはその数話先からだろう。
アンディが本来絡むはずだったことを考えるとビーストの決戦に至るまでのエピソードは違うものだったと思われるが、それでもB×B×Bおよびビーストとの対決は当初の構想から予定されていたに違いない。たしかに急転直下ではあるものの「出版社内容情報」ほど物語を露骨に転じる構成ではない。
〔2.キックボクサー〕
アンディの死による影響を感じさせるのはキックボクサーの作品での扱いだろう。
作品序盤では、キックボクシングをとりたてて悪と関連づける描写がある(翔矢の父親の因縁の相手など)。一方で、正体を隠されているがピーター・アーツらしき人物がC4とニトロの師匠として登場しており、作品上でのキックボクサーの性格付けの奥行きが感じられた。
3巻の「出版社内容情報」でも、悪役として登場した仮面の男を"仮面をかぶった謎のキックボクサー"として紹介し、4巻では引き続き仮面の男の攻撃を"空手とはちがう、キックボクサーのキックの軌道に苦戦"と言って異質さを際立てている。
しかし、終盤ではこれらはなかったことになっており、仮にアンディ、アーツらを絡めた描写を予定していたとすれば、アンディの死がそれを不可能にしたため中止したのではないかと推測する。
ひとまず、「出版社内容情報」においてキックボクシングに引き続き、下瀬がその使い手として詠春拳が紹介されたことで、K-1が異種格闘試合であるという特徴をいうことに一役買っているといえるだろう。(ただし当時K-1に詠春拳での参戦はなくフィクションである)
……なお、「出版社内容情報」ではC4とニトロがキックボクサーということには一言も言及されていない。地雷だけがキックボクサーだったかのようである。
〔3.話題転換の役目を担うニトロ、敵役としての位置づけ〕
はじめに言及したとおり「出版社内容情報」においてビーストは終盤になってはじめて登場する構成だ。ニトロは7巻でその一員として再登場したことでビーストの存在を知らしめた。彼は、2巻でもK-1ジュニアGPの情報を舞人に知らせる役割を担っており、話題の転換点において次の話題で重要な情報をもたらす存在であることがわかる。
また、当初想定される位置づけは舞人とC4の関係に割ってはいる敵役であり、ビーストとして再登場することでその印象が増強されるものの、タクマの登場によりその位置づけは揺らぐ。これは敵役の背後にさらなる大ボスが控えているという定石による展開といえる。
しかし、作中においてはタクマは1巻からK計画について訳知りであり、2巻以降でビーストとして破壊工作を繰り広げていく。その目的は詳細不明のままだが、関係性に割って入るニトロとは別の性質をもった敵役だ。ニトロのビースト入りは性質の違う敵役同士が共謀する事態として描かれていた。そして、いよいよビーストの野望が明らかになる…という、やはり「出版社内容情報」より込み入った展開をしている。
〔4.地雷〕
作中では複雑な立ち位置にあって最後までその心理描写を丁寧にされる地雷だが、「出版社内容情報」では以上で確認したとおりである。すなわち、舞人の親友だったが、個人的に仮面の男として悪事をはたらいていたキックボクサー、という悪党である。
● まとめ
「出版社内容情報」はビーストの登場と関連する情報を終盤まで伏せたことで物語の構造を本来より単純化している。これを読む限りでは、地雷は合宿中のエピソードで悪事を暴かれた舞人の親友といわれるのみで、当初からの敵役と思われたニトロの背後に控える存在としてビーストは登場した。そして、突如現れたビーストによる急展開の幕引きだったように紹介される。
作品の構造は実際はもっと複雑で、地雷とタクマひいてはビーストとの関係であったり、C4のニトロへの感情的な問題、ここでは一切触れられていないタクマが抱えている人間関係の問題など、舞人以外の登場人物の物語も展開に絡んでいる。(ニトロの怨嗟への言及はこの物語の構造の複雑さの一端を示しているともとれる)
とはいえ、舞人の〈世界最強の男を目指し、空手を鍛錬して、K-1ジュニアGPの舞台でライバル・C4と優勝をかけて闘う〉という物語が最終的にビーストに挫かれて〈舞人の物語〉本来の筋へ軌道修正を迫られるという大枠は変わらない。
文字数や単行本各巻で紹介すべきエピソードなどの制約を踏まえつつ筋を単純化することは、内容を平易に理解させるための工夫だ。実際手に取れば本来の複雑な物語が読めるのだから。
おわりに
内容との比較がかなり大雑把だけれど、ここは「出版社内容情報」から読み取れる物語の把握が目的!! ということでご勘弁ください。単行本での該当箇所を明確にするなど信頼度を高めた考察記事は別に書きたいや。ブログ記事としては文字数が多くなりすぎてしまい、ごちゃつきを嫌いました。
――はたして、最後まで読んでくれた人はいるかな?
ではでは、また今度 ノシ
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