デルタ株はやばい

2021/08/11 奈佐原顕郎

(本記事の中で, 基本再生産数の定義が, 一般的な疫学のそれとはやや違うようです。具体的には, 本稿では行動変容は基本再生産数を変えず, 実効再生産数を変えるとしていますが, 疫学では行動変容は基本再生産数を変えるように定義されています。用語の定義がそのようにズレていることにご注意ください(それは私が素人故に起きたミスです)。ただし結論は同じになると思います。)

 コロナ(COVID-19)のデルタ株が本当にやばい。どういうことかというと, デルタ株は我々の社会のこれまでのやりかたでは抑えられず, 感染対策のレベルを以前より上げなければならないのだ。にもかかわらず, 現状はむしろ緩んでおり, 実にやばい状態であるように私には思えるのだ。

 本稿は, それがどういうことか, 私の理解した範囲で説明する。私は感染症の専門家ではないが, 科学の研究者・教育者なので, 今回の危機において, 専門家と一般人を「橋渡し」したいと思っている。橋渡しとは, 一般人が「専門家の話をもとに自分で考える」ことのきっかけやヒントを提供するということである。本稿は一般人といっても, 理系の大学1年生程度の科学・数学の考え方や読解力を身につけた人を読者として想定する。繰り返すが, 専門家が書いたものではないので, 厳密さやエビデンスに欠けていたり, 誤認・誤解もあるかもしれない。それを粗さがしするつもりで読んで頂くことで, 結果的に「自分で考える」ことになるのではと思う。

 まず基本的な用語を定義する。当たり前だが, 感染症が1人から複数の人に感染するとき, 感染者数はねずみ算式に(つまり等比数列で)増える。このとき, 「1人の感染者が平均的に何人に伝染(うつ)すか」が, 感染の広がり方を決定づける大事な量である。これを「再生産数」という。特に, 何も対策をしない普通の日常社会で, しかも周囲の人が免疫を持っていない状況での再生産数を「基本再生産数」という(これは感染症の種類や性質によって決まる)。ところが, 感染症が広がりつつある社会では, 既に感染した人は免疫を持つことで再感染しにくくなるし, 人々は多少は警戒してマスクや手洗いや外出自粛などの行動変容する可能性がある。つまり, 実際の社会での再生産数は基本再生産数と一致するとは限らない(むしろそれより小さいことが多いだろう)。そこで, 実際の社会での再生産数を実効再生産数という。要するに, 全く無防備な状況での再生産数が基本再生産数であり, それなりに対策や免疫がありえる状況の再生産数が実効再生産数である。

 さて, 社会で感染がどう広がるかを考えよう。基本的な考え方は, 1人の感染者が「実効再生産数」人に伝染すというものだ。これを使うと, 新規感染者数は, 一定期間ごとに「実効再生産数」倍になる(言い換えると, 実効再生産数は等比数列の公比である)。たとえばもし実効再生産数が2ならば(2021年8月上旬現在の日本でのCOVID-19はそれに近い), 一定期間ごとに, 新規感染者数は倍々で増える。

 その「一定期間」はどのくらいか? それは感染した人が別の人に感染させやすい期間の概ね平均だろう。COVID-19の場合は, 西浦教授によると5日ほどだそうだ[1]。また, 最近のCOVID-19新規感染者数はおよそ1週間で倍増しているので, 1週間ほどかもしれない。ここでは1週間としよう。すると, 実効再生産数がもし2の状況が2ヶ月=8週間続けば, (2^8=256だから)新規感染者数は256倍にもなる。これが感染爆発である。感染爆発は実効再生産数が1を上回る状況が続くことで発生する。

 ここまでの話でわかるように, 実効再生産数がとても大切な概念である。この値をできるだけ下げること, 特に1を切るまで下げることが, 感染症対策の最大の目標だ。というのも, 1を切ると, 新規感染者数が減っていき, いずれ0になるのだ。たとえば実効再生産数が0.5の場合は, 新規感染者数が半分, 半分, と減っていく。

 というわけで, 実効再生産数についてさらに考えよう。実効再生産数は, 大雑把に言えば, 次のように表すことができるだろう:

式(1):  実効再生産数 = 基本再生産数 × 免疫非保持者の割合 × 行動変容による倍率

これは難しい式ではないから恐れずに丁寧に理解しよう。まず右辺の「免疫非保持者の割合」は0以上1以下の値であり, 免疫を持っていない人の割合である。ここでいう免疫とは, 感染症を防ぐ体内の能力である(それは過去に感染した経験や, ワクチンを接種することで得られる)。感染しそうな状況に置かれたときに実際感染するのは免疫を持っていない人だけである。それが式(1)の右辺に「免疫非保持者の割合」が入っている理由である。また, 式(1)右辺の「行動変容による倍率」も0以上1以下の値であり, 行動変容が効果を発揮するほど, 0に近づく。ここでいう行動変容とは,  感染を防ぐために生活や行動を変えることであり, たとえば外出自粛やマスク着用, 手洗いなどである(要するに「我慢のしどころ」のことである)。

 ここでちょっと話が逸れるが, この式(1)を理解するために, 例題を考えてみよう。これは新型コロナウィルスとは別の仮想的な例である。感染者1人が平均的に5人に感染させるような感染症があったとする(つまり基本再生産数が5の状況)。既に感染して免疫を獲得した人が人口の3割いて, それとは別にワクチン接種で免疫を獲得した人が人口の4割いたとしよう。すると, 免疫保持者の割合は0.3+0.4=0.7であり, 免疫非保持者の割合は1-0.7=0.3である。また, 社会の各構成員が, 日常的に会う人の数(頻度)を2割減らしており(0.8倍), さらにマスクや手洗いや換気によって感染しやすさを半減させている(0.5倍)状況だとすると, 「行動変容による倍率」=0.8 x 0.5 = 0.4になる。この例では, 式(1)によると,

 実効再生産数 = 5 × 0.3 × 0.4 = 0.6

となる。つまり, 新規感染者数は0.6倍, 0.6倍, ...となり, どんどん減っていくだろう。

 ちなみに式(1)では, 誰も免疫を持っていない, つまり全員が免疫非保持者(非保持者の割合が1)であり, しかも行動変容を全くしなければ(行動変容による倍率=1), 実効再生産数=基本再生産数である。つまり, 全く無防備な時は実効再生産数は基本再生産数と一致する。これは前述したことと整合的である。

 さて話を戻す。基本再生産数は感染症の性質が変わらない限り変わらないので, 実効再生産数を減らすには「免疫非保持者の割合」 か 「行動変容による倍率」, もしくはその両方を減らすしかない。基本再生産数が大きい感染症ほど, 我々はここを頑張らねばならないのである。では, どれくらい頑張らねばならないか? 前述のように, 目標は実効再生産数を1未満にすることだ。従って, 式(1)の右辺<1という条件から,

式(2): 基本再生産数 × 免疫非保持者の割合 × 行動変容による倍率 < 1

あるいは同じことだが,

式(3): 行動変容による倍率 < 1/(基本再生産数 × 免疫非保持者の割合)

が目標となる。式(3)で考えよう。

 まず, 従来株に対する, 昨年の闘いを振り返ろう。昨年, 免疫保持者がほとんどいなかった頃は,「免疫非保持者の割合」 ≒1だったとしてよいだろう。また, 従来株は基本再生産数が2.3程度だそうだ(ダイヤモンド・プリンセス号の事例から, [2])。従って, 式(3)の右辺は1/(2.3 × 1)=0.43である。つまり, 「行動変容による倍率」< 0.43, つまり, 人との接触を減らしたりマスク手洗いなどの行動変容で, 感染のしやすさを5割~6割減らすことが必要だった(5~6割という数値は1-0.43=0.57≒5~6割から出したもの。以下同様)。といってもスレスレの値だと減少はゆっくりだから我慢の時間が長くなってしまうし, 基本再生産数がまだよくわかっていなかったので, それらも勘案して昨年は西浦先生は「8割減らそう!」と言ったのだろう。実際に8割減ったかどうかは私はわからないが, とりあえずGOTOキャンペーンができる程度までは抑え込むことができた。しかし根絶には至らず, かわりに何回かの波が繰り返されたのは, その都度, 途中で対策を緩めてしまったからだろう。

 では現在はどうか? 現在はワクチン接種が進んでおり, 日本全国で1回以上接種した人は58 %, 2回めを接種した人は33 %いる。1回しか接種していない人の免疫はゼロではないだろうけど中途半端だろうから, 免疫保持者は33 %と58 %の間をとって, ざっくりと人口の4割としよう(既に感染した人も免疫をそれなりに持っているが, 既に感染した人はまだ人口の1 %程度であり, ここでは無視する)。すると免疫非保持者は6割, つまり「免疫非保持者の割合」 ≒0.6である。

 もしもデルタ株(やアルファ株などの変異株)が来ていなかったとすると, 従来株を仮定して(基本再生産数=2.3)式(3)に入れると,

 行動変容による倍率 < 1/(2.3 × 0.6)=0.72

従って, 行動変容による倍率は0.72未満にする, つまり行動変容で感染のしやすさを3割ほど(1-072=0.28≒0.3)減らせばよかったということになる。昨年(5~6割減が必要)に比べると, ワクチンのおかげで行動変容を半分程度まで緩めることもできたはずなのだ。オリンピックも観客有りで開催できたかもしれない。

 ところが実際はここでデルタ株が出現した。デルタ株は, なんと, 基本再生産数が5~9もあるらしいのだ[1]。従来株の倍以上である。これを式(3)に入れてみよう。西浦先生の記事[1]を参考に, 基本再生産数を5とすると,

  行動変容による倍率 < 1/(5 × 0.6) = 0.33

となり, 行動変容による倍率は0.33未満にすべし, つまり, 行動変容で感染しやすさを6~7割減にする(1-0.33=0.67≒0.6~0.7)ことが必要だ。これは去年の5~6割減よりも厳しい。つまり, ワクチン接種がだいぶ進んだ現状であっても, 昨年以上の行動変容をしないと, 感染爆発を抑えられないのだ。

 切り札はやはりワクチンだ。現在, 1日あたり約120万回のワクチン接種が進んでいる。1人あたり2回の接種で免疫ができると見れば, 平均して約60万人/日が免疫保持者の増加速度だ。日本の総人口を1.2億人とすれば, 人口比では0.5 %/日だ。このペースでとりあえず2ヶ月後, 10月初旬にどうなっているか考えてみよう。その頃はワクチン接種のおかげで免疫保持者の割合は現在の40 %からさらに30ポイント増えて, 70 %に達しているだろう。つまり

 免疫非保持者の割合 ≒ 1 – 0.7 = 0.3

になる。そのとき, 式(3)は,

 行動変容による倍率 < 1/(5 × 0.3) = 0.66

となる。つまり, ワクチン接種者が7割に達しても, まだ行動変容で3~4割程度(1-0.66=0.33)減らすことが感染爆発回避には必要ということだ。「コロナ前の生活」に戻るのはまだ早い。それどころか前述した「デルタ株前の生活」(行動変容で3割減)にも戻ってないのだ。従って, ワクチン接種率5割〜7割程度なのにマスクや社会的距離などの行動変容を撤廃してしまった欧米各国の政策は, 私は危険だと思う(実際, 各国で政策の揺り戻しが来ている)。

 では人口のどれだけがワクチン接種すれば「コロナ前の生活」に戻れるのだろうか? 式(2)に戻って考えよう。「コロナ前の生活」では感染対策が無い。つまり「行動変容による倍率」=1である。つまり式(2)は

式(4): 基本再生産数 x 免疫非保持者の割合 < 1

となる。この両辺を基本再生産数で割ると,

式(5): 免疫非保持者の割合 < 1/基本再生産数

となる。これが「コロナ前の生活」に戻れる条件だ。ここで先程のようにデルタ株の基本再生産数=5を代入すると, 「免疫非保持者の割合」は1/5=0.2未満, つまり, 免疫保持者が80 %以上にならねばダメだとわかる。

 人口の8割が免疫獲得というのは大変に困難なミッションである。というのも, 現在のワクチンは12歳未満の人には打てない(12歳以上でもアレルギーのために打てない人もいる)。この人口が全体の1割くらいいる。つまり, 打てる人の9割(ほぼ全員!)が打って, ようやく「8割」が視界に入るのだ(ついでに言えば, 打てる人が打つことが, これらの「打てない人」を守ることになる。ワクチンを打つことは社会貢献でもあるのだ)。

 ところがまだ恐ろしいことがある。ワクチンは2回打っても, 発症予防効果は95 %程度である。感染しても発症しないことがあるから, 感染予防効果はさらに低く, もしかしたら90 %程度かもしれない。ワクチン接種で獲得した免疫自体も, 接種後に時間と共に徐々に落ちていくこともありえる。ということは, 打てない人を含めた人口の8割がワクチン接種しても(打てる人はほぼみんな打った状態), 免疫保持者の割合は7割程度になり, 目標に届かない可能性がある。そう考えると, 人口の8割が免疫を維持することは簡単ではないだろう。

 ただし, ワクチン接種しない人も, コロナに感染することで, 免疫を獲得する。従って, 感染者が増えれば増えるほど, ワクチン接種率のハードルは下がる可能性がある。しかし, 感染爆発は医療崩壊の引き金になりかねないので社会としては避けたい。とすれば, 現状の1日1万人という新規感染者数がギリギリの許容範囲だとしても, 1日あたりのワクチン接種回数120万回に比べて微々たるものであり, 新規感染による免疫獲得に期待するのはやはり危険だろう(実効再生産数を1程度になるような最低限の行動変容を維持しつつ時間を稼ぎ, その時間を使ってワクチン接種を急いで進めていくというのが現実的な作戦だろう)。

[一問一答]

○ デルタ株ってなんでそんなにやばいのですか?
... 基本再生産数がレベチでやばいです。従来株の倍以上です。デルタ株の感染者は従来株の1000倍ものウィルス量を持っている可能性があるそうです(Nature記事, [3])。従来だったらほぼ影響の無かった飛沫の量でも, デルタ株だと十分に感染しうるのです。

○ そんなにやばいなら, なんでオリンピックとかやっちゃったんですか?
... わかりませんが, オリンピックはそれなりに対策して, 我々の日常社会とはできるだけ隔離した形で行われたのではないかと私は思っています。賛否両論あると思いますが, それは本稿のトピックではありません。大事なことはこれからどうするかだと思います。

○ でも, オリンピックのせいで, 自粛の意識が緩んだ人もいたのではないでしょうか?
... その賛否もここでは議論しません。むしろ, 「他の人もやっているから」とか「他の人もこう言ってるから」という理由ではなく, 自分の頭で考えるということが本質的に大事だと思います。それが本稿のメッセージです。

○ 自分の頭で考えることが大事だと言うなら, なぜあなたは専門家でもないのにこんな文を書いてるのですか?
... 考えるきっかけ・材料にしてほしいのです。専門家ではないからこれまでほぼ黙っていました。でも, 今はほんとにヤバイのです。10年前に東北の海岸の各所で「逃げろ」と叫んだのは津波防災の専門家だけではなく, 「これはヤバイ」と考えたり感じたりした「一般の人々」だったのではないでしょうか。私は専門家ではないから, データソースが弱いし, 間違ったことを書いてる可能性は高いです。でも専門家だって時には間違えます(コロナ禍の初期は米国CDCや日本の専門家の一部もマスクは非科学的, と言っていました)。だから専門家のメッセージを吟味しつつ, 自分で考えるしかないというのが私の考えです。私は専門家ではないからこそ, 「自分で考える」とはどういうことかを例示できると考えたのです。具体的に言うと, 数学を恐れないで少し使ってみることで, 自分で確認したり納得できるよ, ということです。

○ 要するにワクチンではデルタ株は退治できないということですか?
... それに近いです。でも悲観しすぎる必要はないと思います。まず, より効くワクチンが開発されたり, ワクチンの複数回接種などで効果が上がれば, 少しは事態はましになるでしょう。それより効果的なのは, やはり行動変容の継続です。ワクチン接種率が80 %に届かなくても, 行動変容で補えば, 新規感染者数は減ります。十分減ったところで, 軽い適度な行動変容を継続すれば, 実効再生産数をほぼ1に維持でき, 新規感染者数を許容範囲内でコントロールできるでしょう。具体的には, 「人と会って話すときは必ずマスク着用がエチケット」みたいな習慣や, 屋内換気施設を増強する(特に飲食店)とかでしょうか。それが「新しい生活様式」ということだと思います。昔の生活に比べれば不便だったりコスト増ですが, 季節性インフルエンザなどの感染症にも効く生活様式ですから, トータルでは生活の質は上がるかもしれません。そういうポジティブな発想が求められると思います。

○ ワクチン2回打ったら自由にしていいんですか?
... いずれはそうなるかもしれないけど今はダメでしょう。ワクチン接種者も感染リスクがあります。ワクチンの「効果」は従来株にはなんとかなったでしょうけど, デルタ株は感染力が強く, ギリギリな感じです。

○ ワクチン2回打ったら感染しても重症化しにくいそうだから, いいんじゃないですか?
... 自分はよいかもしれないけど, 人に伝染す可能性がありますよ。つまり, ワクチンを打った人がウィルスの運び屋となってしまうのです。そうなると社会からコロナを退治できません。前問で「ギリギリ」といったのはそのリスクです。

○ ということは, 個人としては大丈夫ってことですね?
... でも, 結局はコロナを退治できない社会状態が続くことになります。

○ 自分1人くらい自由にしたって, 社会には大きな影響はありませんしね。
... そう考えてしまうことが問題なのです。そのような考え方の人がたくさんいると, 社会はうまくいかないのです。

○ ワクチンを打っても行動変容を続けなきゃいけないなら, ワクチンを打つ意味って何ですか?
... 上の式をもういちど考えてみて下さい。デルタ株を退治するには, ワクチンと行動変容の「両方」が必要なのです。ワクチンを打たなければ, ものすごい厳しいロックダウンとかが必要でしょう。また, 個人としても, かかりにくくなるのは確実だし, かかっても重症化をしにくいという効果ももちろんありがたいです。

○ ワクチン打ちたくないです。副反応や副作用が怖いです。
... そのような方々に考えて頂くために上の文章を書きました。私はそれ以上のことは言えません。ご自分で考えて決めて下さい。

○ 治療法が進歩し, ワクチン接種もそこそこ進めば, 感染者がたくさん出ても重傷者数・死亡者数は深刻にはならないのでは?
… 専門家でないのでわかりません。もしそうならいいんですけどね。本稿はあくまで「感染爆発ヤバイ」という筋で書きました。それは, 感染者数が急激に増えて, 医療崩壊したり, 無視できない人数が重症化・死亡, あるいは後遺症を持つかもしれないというリスクを重視した話です。そのリスクを十分に下げることができれば, どこかの時点で個人も社会もコロナの存在を許容するでしょう。そうすればコロナを根絶する必要はありません。それが現実的な「解決」なのかもしれません。

○ 実効再生産数が1未満ならいずれ0になるとのことですが, 公比rが0<r<1のとき, r^nはnがどんなに大きくなっても0にはならないんじゃないですか?
... 数学的にはそうです。でも, 新規感染者数は「人数」ですから, 0以上の整数です。r^nが1を下回った時点で「0」です。ただし, そこまで行く前に安心してしまって対策をやめたらまた復活してしまいます。根絶は簡単ではないと思います。

○ 実効再生産数は時と共に変わるから, 新規感染者数は等比数列にはならないんじゃないですか? また, 若い人は若い人で付き合うことが多いので, 感染の広がりやすさに年齢による違いなども考えるべきではないですか?
... もちろん, そういう細かいことを考えることもできるでしょう。一般に, 自然や社会の現象は, 細かく考えればどんどん複雑なことが出てきます。でもそれらを加味して検討するには, もっとデータや根拠が必要であり, 話も長く複雑になります。だから, 最も効く本質的な要因を選び出して, 単純化して表すということが必要なのです。それをモデル化といいます。もちろんモデル化された話は現実と完璧には一致しません。必ず誤差があります。しかしその誤差から大きく逸脱しない話であればよいのです。

○ あなたの話がそうなっているという保証は?
... ありません(笑)。私は専門家ではありませんから。ただ, こういうモデル化をするとこうなる, という話の枠組みは大きくは間違っていないと思います。それをどれだけ信じるかはあなた次第です。

○ こんな長くてしかも数式が入っているような文章, 一般人は読まないと思いますよ。もっと短くわかりやすく書くほうがよいのでは?
... そうかもしれませんね(笑)。でも, 一般人にもいろんな人がいると思います。「短いわかりやすいメッセージ」では満足できず, かといって専門家の話はよくわからない, というような人がいるのではないかと思います。そういう人たちの理解(特に数式を使った考え方)をサポートするを示すことが目的だったのです。

付記: これを書いた後に, 今日の日経新聞3面に, ほぼ同じような内容の記事を見つけました[4]。ただし, 本稿はそれをぱくったものではありません(笑)。世間に出ているデータや情報を「自分の頭で考えた」結果, 私と日経新聞記者は同じようなことを考えたということで, むしろ意を強くする思いです。ただし, 日経新聞には, 「感染力」(基本再生産数)からどのようにして「集団免疫の目安」を求めるか, その方法が書かれていなかったので, ここで説明します。といってもそれは式(5)を使うだけです。「集団免疫の目安」は, 本稿でいえば行動変容が無い状況で実効再生産数を1にするような免疫保持者の割合(言い換えれば1-免疫非保持者の割合)です。従って式(5)より,

 式(6): 日経新聞でいう集団免疫の目安 = 1-1/日経新聞でいう感染力

です。簡単に計算できるので, やってみてください。

引用:
[1] https://gendai.ismedia.jp/articles/-/85823?page=4
[2] https://www.niid.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/2536-related-articles/related-articles-492/10177-492r02.html
[3] https://www.nature.com/articles/d41586-021-01986-w
[4] 「接種7割では集団免疫困難」日経新聞3面, 2021/08/11

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