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【美術ブックリスト】《批評理論入門―『フランケンシュタイン』解剖講義》廣野由美子

メアリー・シェリー作『フランケンシュタイン』を素材にして、小説の技巧と批評理論を紹介する。

第一部で、『フランケンシュタイン』のあら筋をのべた後、プロット、語り手、時間、性格描写、間テクスト性、メタフィクションといった、この物語に込められた技法を解説する。

第二部では、さまざまな批評理論からどのような解釈が可能かを解説する。伝統的な批評では道徳や伝記として、ジャンル批評ではロマン主義やゴシック小説の成果として、脱構築批評では光と闇、生と死といった伝統的な二項対立が解体された物語として、精神分析批評ではエディプスコンプレックスの物語や集合心理の物語として、フェミニズム批評では産むという母性の物語として、ジェンダー批評では登場人物たちの同性愛の物語として、マルクス主義批評では革命的混乱のメタファーとして、解釈されるというもの。それぞれの理論による批評の実践例となっている。ここまでが概要。

ここからが感想。さまざまな批評理論、というかさまざまな視点から光をどう当てるかで、小説の解釈は変わるし読み取れる意味も変わることがよくわかる。問題はどれか一つの見方に限定すると一気につまらないものになってしまうこと。むしろ一つの見方に縛られず、多角的に捉えることで小説は豊かな意味の有機体になるのではないかと思う。

小説だけでなく、詩や随筆、さらに美術、音楽を含む芸術作品の解釈はいずれも多角的である方がいい。

美術の領域では、美術評論というものが力を失い、ほぼ絶滅しつつある。それは個人の一つの見方だけですべてを語ろうとする美術評論しか育たなかったことのつけが回ってきたのではないかと思う。

中公新書


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