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【美術ブックリスト】『小作久美子詩集 私の「父帰る」』 小作久美子著 小作青史画

 戦争の渦中で少女期を迎えた著者が、実体験した戦争の悲哀を詩に綴る。思想犯として検挙された経済学者の父との再会、空襲の恐怖、戦後女性としての視点から家族、世相、自然の移ろいを刻んだ言葉など。挿画は夫で画家の小作青史が担当。ページをめくるたびに生きることの重さが伝わってくる。
ここまでが概要。

ここからが感想。
刊行元の社長から電話があった。版画家の小作先生が、奥様とコラボした詩と絵の本だという。
小作先生は多摩美大で長く教えられた版画の先生で、さまざまな版画技法を研究というか開発した人だ。リトグラフというもともと石版だった技術を木版に応用した「木リト」のほか、爪楊枝を束ねて作ったバレンなどいくつも発明品がある。作品の知名度よりも、研究家としての知名度の方が高い稀有な作家である。そんな先生が、人生を振り返ったとき、奥様への感謝として本の出版を薦めたらしい。硬派でニッチな美術書ばかり作ってきた玲風書房から、詩の本が出版されるのにはそんないきさつがあったらしい。
本というの内容を伝えればいいのではなくて、様々な人の思いを載せることがあるけども、これもそんな一冊となっている。


玲風書房 A4変 81ページ 1818円

【主な掲載詩】

第一章 私の「父帰る」 

・椰子の実
・もともと 空だった
・大空襲の夜の月
・三月十日
・二つの太陽
・奈落の底
・原爆被災者名簿
・玉音放送を聴いて
・「八月十五日」
・「シゲルズ ランチボックス」
・水の骨
・るり色の皿  

第二章 大欅  

・春の雨
・何の花
・柿若葉
・酷暑を越えて
・晩秋
・少しだけ泣いて
・寒の雨
・断末魔の声
・泣いてはいない
・別居
・お互い 自画自賛
・三十五年間も

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