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美術・アート系の本

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美術に関する新刊・近刊を中心にしたブックレビューです。
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#アーティスト

【美術ブックリスト】『How to Collect Art』 Magnus Resch著

【概要】 これまで『画廊経営(Management of Art Gallery)』『アーティストで成功する方法(How to become a successful Artist)』といった、アート業界の担い手になる指南書を続けて刊行してきた著者による「アートコレクションの方法」についての指南書。  アートを買うことでもたらされる喜びを概説したあと、美術品は金銭的な投資には向かないことが早々に語られる。アートコレクションは楽しい。では、どこで、どの作家の作品を買うのがいいか

【美術ブックリスト】 『アーティストになる基礎知識』(BT BOOKS)

ネットの古い記事を見ていたら、美術手帖で以前「アーティストになる基礎知識」という特集を何度かやっていたと知った。 これはその2回分を合わせて再編集したらしい。 ざっと内容はというと、村上隆とカイカイキキに取材して、そこでどんな「修業」をしているか、初個展までに何をしているかを解説。次に小山富美夫さんがアーティストの自己プロデュースの必要性を説く。プレゼンの道具としてポートフォリオとDMを簡単に解説。コンクールやコンペの受賞者に受賞理由を聞く。審査の様子をレポート。小沢剛、曽

【美術ブックリスト】『抽象の力』岡崎乾二郎著

著者がこれまでに発表したいくつかの評論をまとめたもの。表題にもなっている第1部「抽象の力 本論」と第2部「抽象の力 補論」がメイン。白井晟一と磯崎新に関する第3部「メタボリズム」と具体に関する第4部「具体の批評」が続く。 第1章が総論であり本論。 著者によれば、抽象芸術の本質は視覚的な追究ではない。またデザインでもない。またその対照となるはずの「具体」という言葉も日本の具体美術協会によって誤用されたため、抽象の概念もねじまげられたという。 では抽象とは何かというと、それは芸

【美術ブックリスト】『The Art World Demystified』Brainard Carey 著

タイトルを訳すと『アートの世界の謎を解く』。 副題は「How Artists Define and Achieve Their Goals(アーティストはいかにして目標を設定し達成するか)」。 著者自身が現代アーティストであり、これまでにもアーティスト向けに『アートの世界で成功する』『SNSでうまくいく』『ネットで売ろう』といった指南書を執筆している(全部英語)。 本書は、謎めいたアートの世界を解き明かすのがテーマ。著者自身の体験と考察に加え、さまざまなインタビューで構成

【美術ブックリスト】佐藤公一 『ゴッホを考えるヒント―小林秀雄「ゴッホの手紙」にならって』

画家のゴッホは数多くの手紙を残していて、日本では『ファン・ゴッホ書簡全集』全六巻(みすず書房)にまとめられている。またこの手紙について、文芸評論家の小林秀雄は『ゴッホの手紙』を書いた。いまでも新潮文庫で読める。 本書は小林秀雄がしたように、ゴッホが残した手紙からその生活や思考を推測、推論したもの。ここまでが概要。 ここから感想。おそらくゴッホが書き残した言葉から、彼のさまざまな側面を、画家としてだけでなく兄として、家庭人として、生活破綻者としてといった具合に光を当てたいの

【美術ブックリスト】 小田原のどか『近代を彫刻/超克する 」

著者は彫刻家であり、彫刻に関する研究家でもあり、評論も執筆する。『彫刻1』所収の「空の台座──公共空間の女性裸体像をめぐって」という論文などで、全国にあまたとある街角の女性裸体彫刻が日本に特有のものであり、しかもそれは戦後日本の平和という概念の流布とともに広がっていった特殊なものであることを論じて注目された。 本書は同じ問題意識のもと、日本の近現代史を彫刻というもっとも公共性をもった芸術形式から読み解く。 第1章は先述の女性裸体像がどのような経緯で多数つくられ設置されてい

【美術ブックリスト】 梶岡秀一・岸田夏子『京都国立近代美術館のコレクションでたどる 岸田劉生のあゆみ』

没後90年の近代洋画の巨匠、岸田劉生の初期から晩年までの常用コレクションが、2021年に京都国立近代美術館に収蔵された。29点は購入、13点は寄贈の全42点。もともとあった作品と合わせて、50点の大コレクションとなった。 そのお披露目が現在開催中の「新収蔵記念:岸田劉生と森村・松方コレクション」で、本書はその公式カタログ。 活躍した時代を「銀座時代」「代々木・玉川時代」「鵠沼時代」「京都時代」「鎌倉時代」にわけて、制作の変遷を生活基盤の変遷と共にたどっていく。特に京都時代

【美術ブックリスト】 岡部昌幸監修『戦慄の絵画史 西洋美術で味わう、知的恐怖の物語』

数年前にヒットした中野京子『怖い絵』シリーズを発端に、美しさではなくその裏に隠された犯罪、陰謀、不条理といった人間と社会の醜さで絵画を語ることが普通になった。この流れは山田五郎の『闇の西洋絵画史』シリーズまで続く現代の美術本のひとつの系譜になっている。 本書は、一言で言うと「むごい」絵を総覧していく。処刑、虐殺、殺人、解剖、戦争の殺戮など。 美女の水死体を描いたミレイの《オフィーリア》や霧シア神話の有名な場面を描いたモローの《オイディプスとスフィンクス》といった有名かつ美

【美術・アート系のブックリスト】堀文子,中島良成著『人生の達人・堀文子の生き方』

2019年に百歳で亡くなった画家・堀文子さんの言葉と思い出を、長年プロデュースしてきたナカジマアートのオーナーが綴る。 自分が興味のあるものしか描かず、過去は振り返らずモチーフと作風をどんどん変えていった画家。ブルーポピー、ミジンコ、名もなき草花などには、自然、宇宙、人類といった世界への壮大な関心があったことが収録されたエピソードから伝わってくる。 「群れる、慣れる、頼る」ことを嫌い画壇では孤高を貫く一方、美術以外の人物とは幅広い交友関係があり、特に女優の黒柳徹子さんとの

【美術・アート系のブックリスト】 圀府寺司『ユダヤ人と近代美術』

広島市立大学の油絵専攻の学生を対象に、講義「絵画論」を依頼されました。そこで「絵画の意味論」と題して、絵画は描かれたイメージ以上の存在であり、さまざまな意味の担い手であるという内容を話すこととしました。 その中で、西洋ではカトリックとプロテスタント、東洋では儒教と道教の影響がそれぞれの時代の美術作品の前提になっていることを話しました。ユダヤ教も同様で、特に現代美術の世界では大きな意味をもっています。 講義では深く踏みいったことは話せなかったのですが、ユダヤ人が美術とどう向

アルベルティ著 『絵画論』 中央公論美術出版

古典中の古典である『絵画論』を図書館で借りてきて読みました。 レオン・バッティスタ アルベルティは1404年イタリア・ジェノヴァに生まれたルネサンス初期の人文学者。 絵画論のほか、建築論も書き残しています。理論家であり、同時に実作者であったとされますが、残念ながら絵画作品は残っていません。 この絵画論によって遠近法が定式化され西洋絵画が確立されたと言われます。またレオナルド・ダ・ヴィンチが教科書にしたことでも知られています。 中身は3巻にわかれます。第1巻では点、線、面

【美術・アート系のブックリスト】 増村 岳史 著『東京藝大美術学部 究極の思考』クロスメディア・パブリッシング

 東京芸術大学で行われている教育に一般では学べない思考方法を学ぼうという意図で書かれた本。学生、卒業生、元教授らの証言をもとに、論理とは別の考え方や観察の仕方に切り込むという内容。  第1章は入試。毎年全く違う内容と形式のため傾向がなく対策することのできない入試問題。それに受験生がどう立ち向かい合格したかの証言を集める。  第2章は在学中に学ぶこと。入試とは一転して受験で学んだ事を捨てる事が求められるとか、佐藤一郎さんが教える立場で何を伝えようとしたかが説明される。  第3章

【美術・アート系のブックリスト】みうらじゅん著『「ない仕事」の作り方 』文春文庫

 TBSラジオ「安住紳一郎の日曜天国」を聴いていたら、みうらじゅんがゲストとして登場した。2015年初出、18年に文庫化された本書が本屋大賞の「発掘部門/超発掘本!」を受賞したという。少しだけ話された内容を聴いて、興味をもった。  結論からいうと、感動的であった。  地方自治体のイベントで隅っこにいる着ぐるみに興味をもち、自分の足で出かけては写真を撮り、話を聞き、情報を収集し、雑誌に売り込み、イベントを仕掛けた。のちに「ゆるキャラ」とネーミングされて市民権を得て今日までその

【美術・アート系のブックリスト】福井安紀著『職業は専業画家』誠文堂新光社

 編集部のSが、アートソムリエの山本冬彦さん絶賛と聞きつけて取り寄せた一冊。  20年間、絵画を制作しその販売収益だけで生活してきた画家が、「専業の絵描き」という生き方ができるように後進のために書いた本。展示の仕方、値段のつけ方、販売、接客、芳名帳に名前と住所を書いてもらう方法、礼状の書き方までさまざまな方法を披露する稀有な本。サブタイトルに「無所属で全国的に活動している画家が、自立を目指す美術作家・アーティストに伝えたい、実践の記録と活動の方法」とある。  著者は20歳から