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美術・アート系の本

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美術に関する新刊・近刊を中心にしたブックレビューです。
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#写真

【美術ブックリスト】『潜在景色』アーツ前橋

群馬県のアーツ前橋地下ギャラリーで開催中の同名の写真展(3/5まで)の公式図録。6名の写真作家の独自の視点から表現された作品によって、見過ごされているものや、場所が内包するものへと眼差しが向けられ、見慣れた自然や街、日常の風景の中に潜在的な景色が現れてくる。 B5判 144ページ 2500円+税

【美術ブックリスト】 岡部昌幸監修『戦慄の絵画史 西洋美術で味わう、知的恐怖の物語』

数年前にヒットした中野京子『怖い絵』シリーズを発端に、美しさではなくその裏に隠された犯罪、陰謀、不条理といった人間と社会の醜さで絵画を語ることが普通になった。この流れは山田五郎の『闇の西洋絵画史』シリーズまで続く現代の美術本のひとつの系譜になっている。 本書は、一言で言うと「むごい」絵を総覧していく。処刑、虐殺、殺人、解剖、戦争の殺戮など。 美女の水死体を描いたミレイの《オフィーリア》や霧シア神話の有名な場面を描いたモローの《オイディプスとスフィンクス》といった有名かつ美

【美術ブックリスト】大浦一志『雲仙普賢岳 被災民家跡を発掘する』

1990年11月長崎県島原半島の雲仙普賢岳が噴火。翌年6月には大火砕流が発生し43人の死者・行方不明者を出す大惨事となった。 このとき一人の新聞記者が遺した火砕流を間近から捉えた写真との出会いをきっかけに、武蔵野美大教授である著者は1992年から現地を訪れ、被災した家屋の玄関扉の風化や残骸となったトラックを掘り起こして道の駅に設置するなどの活動を続け、記録してきた。それはさらに被災民家を発掘するプロジェクトへと展開していった。 本書は25年にわたる著者の「噴火後の自然を実

【美術・アート系のブックリスト】 デイヴィッド・ホックニー、 マーティン・ゲイフォード著『絵画の歴史 』(増補普及版)青幻舎

 2016年にイギリスで発表され、翌17年に日本版が出た『絵画の歴史  洞窟壁画からiPadまで』の増補普及版。ここでいう絵画とはpictureの訳なので、美術品や作品ではなく、画像や図像や絵柄あるいは端的に「絵」といった方がいい。彫刻や映像と対比される美術ジャンルとしての絵画というより、言葉や音声と対比されるところの絵であり、写真や映画も含まれる。実際、英語では写真も映画もピクチャーである。現代の言葉では「表象」に近いかも

上野 達弘・前田哲男著『著作物の類似性判断: ビジュアルアート編』勁草書房

最近アートにまつわる法律の本も増えてきました。 これは著作権侵害をめぐる紛争でもっとも多い類似性の案件、つまり「盗作」「剽窃」「パクリ」の問題を、法学者と現場の弁護士が研究した本格的な研究書です。 何をもって似ているというのかの法的な考え方がよく分かります。 例えば、「魔法使いの少年が登場するファンタジー小説」という抽象的なアイデアだけでは、それが共通するからといって著作権侵害の議論にはなりません。それが「ハリーポッター」という表現になって初めて、著作権が発生し他の作品と類