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美術・アート系の本

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美術に関する新刊・近刊を中心にしたブックレビューです。
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#日本画

【美術ブックリスト】 『古家野雄紀 ーDOUBLE HELIXー』古家野雄紀著

【概要】 日本画と現代アートを行き交う次世代注目アーティスト、古家野雄紀の初画集。小さな可愛いキャラクターたちが、群像となって宇宙の渦を形成したり大波のなか舟を漕いだりするポップで楽しいアートが満載。中島千波、玉井伸弥とのざっくばらんな鼎談も楽しい。 【感想】 画家にとって画集の出版はひとつの区切りであり、画業のステップの1つ。その意味でこれまでを振り返るとともに、新しい展開への布石にもなる。今後に注目したい。 求龍堂 A4変 176ページ 3800円

【美術ブックリスト】『速水御舟随筆集 梯子を登り返す勇気』速水御舟著

【概要】 大正・昭和初期に活躍した日本画家が制作について記した随筆や語録を集める。タイトルは「梯子の頂上に登る勇気は貴い、更にそこから降りて来て、再び登り返す勇気を持つ者は更に貴い」から。日本画の安田靱彦、洋画の岸田劉生といった同時代人の随筆も収録。 【感想】 昔の人の文章には、芯のようなものがあって、文学者であろうが画家であろうが簡潔で言葉に実がある。この人も、いずれの文も簡潔で美しい。 平凡社ライブラリー 200ページ 1700円

【美術ブックリスト】藤木晶子『竹内栖鳳 水墨風景画にみる画境』

東の大観、西の栖鳳と呼ばれた近代日本画壇の巨匠・竹内栖鳳(一八六四~一九四二)。これまで竹内の評価と研究は前半生に集中していたという。本書は、後半生に進展を見せた水墨風景画について論じる。水墨の技法、題材、取材、表現、当時の画壇の動向など、多角的な観点から分析し、栖鳳晩年の水墨風景画を近代日本美術史に位置付ける。ここまでが概要。 ここからが感想。 非常に綿密な研究書というのが率直な感想。特に水墨風景画の一つの典型として茨城県の水郷潮来に取材した作品を取り上げた第三章が出色。

上野 達弘・前田哲男著『著作物の類似性判断: ビジュアルアート編』勁草書房

最近アートにまつわる法律の本も増えてきました。 これは著作権侵害をめぐる紛争でもっとも多い類似性の案件、つまり「盗作」「剽窃」「パクリ」の問題を、法学者と現場の弁護士が研究した本格的な研究書です。 何をもって似ているというのかの法的な考え方がよく分かります。 例えば、「魔法使いの少年が登場するファンタジー小説」という抽象的なアイデアだけでは、それが共通するからといって著作権侵害の議論にはなりません。それが「ハリーポッター」という表現になって初めて、著作権が発生し他の作品と類

【美術・アート系のブックリスト】中村順一著『日本の感性と東洋の叡智』淡交社

東大を出たあと外務省に入り、本省勤務と外交官としての海外赴任の経験から、日本の文化の特徴を述べていきます。 移ろい、儚さ、余白、わびとさびといった日本文化の特質と言われるものを分析・整理しつつ、西洋と対比していきます。日本特有のものと東アジア全体で共通するものを分けて現象を整理しているのですが、淵源にたどってその意味を掘り起こしたり、西洋文化に対する優位性を具体的に述べることはありません。 ある意味教科書的な整理ともいえます。また、海外の人に、無や空といった禅の説明をする

【美術・アート系のブックリスト】 大久保喬樹著『岡倉天心と思想』 (日本の伝記 知のパイオニア) 玉川大学出版部

日本画を学ぶ人はもちろん、将来国際社会で生きていかなければならないすべての大学生に『茶の本』を読んでおいてほしいと私は以前から思っていましたが、これはその格好の入門書になります。 近代日本の文化政策の大元を創っただけでなく、日本画を自覚的に1つのジャンルとして確立し、世界に向かって自然と一体となったアジア的な思考方法を発信した思想家・岡倉天心の生涯をわかりやすく解説した「伝記」。 普通の伝記と違うのは、天心が一人称で語るところ。読者対象も小・中学生なので振りがなが多用され