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美術・アート系の本

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美術に関する新刊・近刊を中心にしたブックレビューです。
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#仏像

【美術ブックリスト】『マイ仏教』みうらじゅん

2011年の出版。 イラストレーターでタレントの著者が、「仏教が永遠のマイブーム」とばかりに幼少期の仏像への興味から始まった現在までの仏教体験や歴史観、地獄ブームから煩悩との付き合い方までを縦横に吐露する自伝的仏教入門。 「見仏」「後ろメタファー」「イマ寺院」「比較三原則」「空あります」「僕滅運動」など、ダジャレを利かせた独特の用語を用いて、楽しく仏教と戯れつつ、大乗仏教の真髄に触れていく。 ここまでが概要。 ここからが感想。 「美術ブックリスト」といいつつ、ここのところ美

【美術ブックリスト】 大塚幹也・ 田島整・大宮康男『静岡県で愉しむ仏像めぐり』

東は伊豆から西は浜松あたりまで静岡県の仏像をめぐる9つのコースと愛知県の豊橋市と豊川市の1コースを紹介するガイドブック。 図版やイラストが大きくて見やすい。具体的なお寺の個々の仏像について、ひとつひとつ意味や特徴を教えてくれる。寺の来歴にも触れている。美術館や郷土資料館所蔵の仏像のコースもある。ここまでが概要。 静岡の地元愛と仏像好きが折り重なってできた本であることがよくわかる。仏像を通してお寺をめぐり、ふるさとの歴史を発見することにつなげようということだろう。 ところ

【美術ブックリスト】 江里康慧『仏師から見た日本仏像史 一刀三礼、仏のかたち』

仏像の歴史はこれまで日本美術の美術史学の研究対象であった。つまり主に大学教授や美術館学芸員によって語られてきた。本書は現役の仏師が、制作者の視点から日本の仏像について、伝来から発展、衰退と復興といった歴史を解説する。フォルムつまり外見や構造つまり設計の変遷に終始するのではなく、制作技法が時代によって変化していった必然性や使用される素材が日本の風土に根ざしているという解説など、実際に制作するからこそ指摘できる見解が多い。 もともと悟りの境地は不可視であることからインドでは像は

【美術ブックリスト】君島彩子『観音像とは何か 平和モニュメントの近・現代 』

もともと一切衆生を救う菩薩であった観音は、「観音経」では状況に応じて三十三の姿に変化すると説かれ、「華厳経入法界品」では補陀落山に住むと言われ、「観無量寿経」では阿弥陀如来の脇侍として死者の魂の救済者となるなど、様々に解釈され意味づけされてきた。その威力を神格化するために千手観音や十一面観音の変化観音が生み出され、神仏習合では天照大神との習合も説かれた。 本書はそうした変化していく観音が、近代では仏像の域を超え、さらに宗教の域を超えた時代の要請に応える広い意味での「信仰」の

【美術・アート系のブックリスト】宮下真著『会いに行きたくなる! 日本の仏像図鑑』

仏像を基本から教えてくれるイラストとマンガ満載の楽しい本。如来、菩薩、明王、天といった分類から、衣裳、持物、作られ方など、素朴な仏像の疑問に答えてくれる。軍荼利明王、孔雀明王など初めて知るユニークな仏像も網羅してあります。 昨年、出版された籔内佐斗司さんの『仏の履歴書』に続く、このジャンルのいい入門書だと思いました。 160ページ、四六判、1320円、新星出版社 https://amzn.to/3G3nDQD

ペンブックス32『運慶と快慶。2人の男が仏像を変えた 』 CCCメディアハウス

雑誌「Pen 」2017年10/1号「特集 2人の男が仏像を変えた 運慶と快慶。」を大幅増補書籍化したもの。 Penはもともと阪急コミュニケーションズから出版されていたのですが、2014年に事業再編によりCCCメディアハウスつまりTSUTAYAのグループから出されています。 それはともかく、運慶と快慶の彫刻作品を解剖していくのが本書。ひとつひとつの解説文は雑誌的でなく、説明的です。迫力の運慶と繊細さの快慶と言われるようですが、そうした先入観にとらわれず一作一作を解説し、と

【美術・アート系のブックリスト】 籔内佐斗司監修『古典彫刻技法大全』求龍堂

籔内佐斗司が監修し、東京藝術大学 大学院美術研究科 文化財保存学専攻 保存修復彫刻研究室 が編集した技法の研究書。籔内氏の16年間の同大学院での研究の成果を、退任を機にまとめた。 実際に調査・研究した仏像を例に、材料、技法、最先端技術を用いた分析、修復の実際、模刻と復元を豊富な写真資料で解説する。アカデミックな内容が「です・ます」調で解説することでとても読みやすくなっている。 本書冒頭の玄関での履き物の揃え方の下りに、籔内氏の日本文化伝承の気概が集約されている。