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美術・アート系の本

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美術に関する新刊・近刊を中心にしたブックレビューです。
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【美術・アート系のブックリスト】とに〜著『名画たちのホンネ: あの美術品が「秘密」を語りだしたら…… 』三笠書房(王様文庫)

とに〜さんは元吉本興業の芸人さんで、「アートテラー」として活躍。アート系のイベントの司会やレポーターとしても美術業界でもよく知られています。昨年は、美術館を紹介する『東京のレトロ美術館』も出版されました。 本書は、有名絵画の絵の中の人物(風景や建物の場合も)が語るというユニークなアート本。史実に基づきながらも妄想の限りを尽くして語っています。俵屋宗達の「風神雷神」がサンドイッチマン風の漫才になっていたり、デュシャンの『泉』がヒロシ風に「便器です。・・・出品を拒否されたとです

【美術・アート系のブックリスト】中野明著『日本美術の冒険者 チャールズ・ラング・フリーアの生涯』日本経済新聞出版

チャールズ・ラング・フリーアとは、アメリカ・ワシントンDCのスミソニアン博物館群の中にある日本とアジア美術を集めたフリーア美術館の作品寄贈者。南北戦争後、空前の鉄道建設ブームに乗って巨万の富を築いた実業家であり、45歳の若さでビジネスを引退してからはホイッスラー作品を熱心にコレクションする一方、世界漫遊旅行で日本を訪れ、日本美術の蒐集に没頭した。 日清・日露戦争から第一次世界大戦の間という、日本が近代化を成し遂げる時代に約2000点を収集したとされる。その中身は葛飾北斎をは

【美術・アート系のブックリスト】 五味文彦著『『一遍聖絵』の世界』吉川弘文館

中学高校では『一遍上人絵伝』と習った。国宝指定名称も「絹本著色一遍上人絵伝」となっているがいまでは一般に『一遍聖絵』と呼ばれているらしい。著者は日本の中世史研究者。同姓同名の有名写実画家とは別人。 内容は『一遍聖絵』を第1巻から淡々と解説していく。場面、背景、登場人物、場面、構図を一つ一つ正確に記述する。まるで細かな事実を積み上げることで全体を捉えようとするよう。美術的、宗教的な説明ではない。一遍が立ち寄った場所(奥州から九州まで)を史実と照らしながら時期を特定したり、遺さ

【美術・アート系のブックリスト】 籔内佐斗司監修『古典彫刻技法大全』求龍堂

籔内佐斗司が監修し、東京藝術大学 大学院美術研究科 文化財保存学専攻 保存修復彫刻研究室 が編集した技法の研究書。籔内氏の16年間の同大学院での研究の成果を、退任を機にまとめた。 実際に調査・研究した仏像を例に、材料、技法、最先端技術を用いた分析、修復の実際、模刻と復元を豊富な写真資料で解説する。アカデミックな内容が「です・ます」調で解説することでとても読みやすくなっている。 本書冒頭の玄関での履き物の揃え方の下りに、籔内氏の日本文化伝承の気概が集約されている。

【美術・アート系のブックリスト】滝沢恭司著『もっと知りたい川瀬巴水と新版画 』(アート・ビギナーズ・コレクション)東京美術

著者は町田市立国際版画美術館学芸員。江戸の浮世絵、明治の近代浮世絵を経て大正昭和に花開いた新版画を、画家の川瀬巴水を中心に図説する。版元の渡邉木版との共同作業、日本画の研究団体である郷土会の役割、アメリカでのブーム、自刻自刷りの「創作版画」との緊張関係などが立体的に分かる。 大きめの判型で、綺麗な図版が見やすく構成されている。そのかわり項目を整理してページ数を少なめにすることで安価に抑えてある。入門書としても概説書としても便利。