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美術・アート系の本

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美術に関する新刊・近刊を中心にしたブックレビューです。
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#美術史

【美術ブックリスト】 『聖母の晩年―中世・ルネサンス期イタリアにおける図像の系譜―』桑原夏子著

【概要】 聖母マリアについて、聖書には、彼女がどのように生を終えたかについての記述がない。その一方で外典や伝承などにもとづき晩年伝の多様な図像が生み出されてきた。本書は地中海圏の聖堂壁画からジョットらの作品までを跡づけ、聖母の美術史をよみがえらせる。圧巻の研究成果。 【感想】 聖母マリアが登場する絵画といえば、「受胎告知」の場面と「被昇天」の場面が有名。本書は、マリアの晩年を描いた作例を追う一方、なぜそうした図像があるにもかかわらず「被昇天」へとイメージが固定していったのか

【美術ブックリスト】『イラストで読む 奇想の画家たち』 杉全美帆子著

「イラストで読む」シリーズの一冊として2014年に刊行された本の新装版。ボス、デューラー、カラヴァッジォ、ゴヤ、ブレイク、ルドン、ルソーといった美術史の鬼才たちの作品と生涯をイラストで解説する。 時代時代の主流とは離れた形で彼らが制作した作品の意義や、画家自身の数奇な人生や個人的トピックを解説している。 ここまでが概要。 ここからが感想。 いまでは類書がたくさんでているけども、画家たちについてちょこっと知るにはちょうどいいかも。 カラヴァッジォが通称で、本名はミケランジェ

【美術ブックリスト】『沖縄美術論 境界の表現 1872―2022』翁長直樹 著

著者は沖縄県立博物館・美術館の元副館長。琉球大学卒業後、中学、高校で教え、アメリカで美術館学を学んだ経験をもつ、地元の美術に精通した人物のよう。 第1部は美術史。 沖縄で展開された戦後美術を中心に論じているが、戦後活躍する画家の多くが戦前に美大などで学び活動もしていたことから、1872年の日本政府による琉球藩設置から終戦までを戦前期として1章あてている。2章は戦後の米軍統治時代から1972年の本土復帰、80年代のモダニズムとポストモダニズム、2000年代の美術館開館、沖縄県立

【美術ブックリスト】『366日の西洋美術 人物画編』瀧澤秀保監修

366日の教養シリーズの一冊。 西洋絵画の人物画を1日1作品ずつ鑑賞する日めくり的に読める。解説文は歴史、描かれた人物、物語、技法、人間関係、市井の人々、ファッションといった7つのテーマに沿っている 。 描かれた人物をさまざまな角度から掘り下げることで、自然と美術の見方がわかり、歴史も身に付く。 ここまでが概要。 ここからが感想。 誰もが見たことのある名画から、はじめて見るものまでいろいろあって飽きない。そのかわり数が多すぎて、どの作品のことだったか覚えていられない。よって

【美術ブックリスト】『世界史で読み解く名画の秘密』内藤博文著

ジョットとイタリア都市国家、ラファエロと教皇たち、ミケランジェロと反宗教改革、レンブラントとオランダ海上帝国など、誰もが知る画家と当時の歴史状況あるいは歴史上の人物との関係を解説していく。ルネサンスがほとんどだが、ゴーギャンと帝国主義、ピカソと世界大戦など近代までカバーしている。 ここまでが概要。 ここからが感想。著者は1961年生まれの歴史ライター。私より10歳ほど上の割には、言葉が古いというか、あまり使われない言葉が散見される。「奸雄」(かんゆう. 悪知恵を働かせて英雄

【美術ブックリスト】『物語で読む国宝の謎100』かみゆ歴史編集部

国宝といっても絵画、彫刻、工芸、歴史的資料、建造物など多岐にわたり、現在のところ1131件もの登録がある。という。その国宝にまつわるウンチクを100問のQ&A方式で解説したもの。第1章「知っておきたい国宝の基礎知識」は、重要文化財や重要美術品とどう違うか、国宝は誰が決めているのかなどの基本を教えてくれて勉強になる。第2章から個々の美術品や建造物についての、知っていると話しのネタにはなる小噺が続く。 ここまでが概要。 ここからが感想。 「物語で読む」「ドラマがある」という割に

【美術ブックリスト】『図説 セザンヌ「サント=ヴィクトワール山」の世界』工藤弘二著

セザンヌがライフワークとして終生描き続けた故郷の象徴《サント=ヴィクトワール山》。制作の歩みと背景、見どころを徹底解説。パリとプロヴァンスの風景画とも対比しつつ油彩画、水彩画など全83点を収録。いわば「まるごと一冊サント=ヴィクトワール山」ともいうべき永久保存版。 ここまでが概要。 ここからが感想。 文字と図版のバランスがいいので、見ていて楽しい。美術史を学ぶと、ある作品を論じるのに同じ画家の別作品を参照して比較する必要がある。こうして同じモチーフを網羅してあると、初学者に

【美術ブックリスト】 シルヴァン・バーネット『美術を書く』

1981年にアメリカで初版が刊行された「A Short Guide to Writing About Art」の2003年の第7版の邦訳。現在では11版が出ているというから、アメリカではよほど定番の文章読本になっているのだろう。 内容は、美術史を学ぶ学生が研究論文を書くための指南書である。作品の分析の方法、絵画や彫刻や写真といった媒体ごとの取り組み方や比較。肖像画、静物画、風景画といったジャンルごとのテーマの見つけ方。展覧会評の書き方、ジェンダー論や伝記的研究やイコノグラフ

【美術ブックリスト】らちまゆみ『大人の雑学 西洋画家事典 - 人柄がわかるエピソードで楽しく読める!』

著者はどうやらラジオでアートを語る番組のナビゲーターとのこと。美術や画家にまつわるエピソードを解説しているようです。Youtubeでも配信しているとのことで2本ほどみたのですが、美術系ユーチューバーには珍しい若い女性でした。 さて本書はラジオで語ってきた内容の書籍化。ボッティチェリ、カラヴァッジオ、ピカソなど有名どころの歴史上の画家を時代を追って解説していきます。美術的な内容よりも、人柄や生き様にフォーカスしているところが他との違いといえば違いです。35人の画家を紹介してい