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美術・アート系の本

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美術に関する新刊・近刊を中心にしたブックレビューです。
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#原田マハ

【美術ブックリスト】『原田マハ、アートの達人に会いにいく』原田マハ著

「芸術新潮」の連載をまとめたもの。 美術館館長、文学者、建築家、映画監督、詩人、ピアニスト、漫画家、コレクターなどが登場する。 対談のなかでは、アートに関心をもったきっかけや初めて買った作品など、アートへの入り口から現在の活動までを聞いていく。 ここまでが概要。 ここからが感想。 画家、美術家が登場しないのには何か理由があるのだろうか? それはともかく対談というよりは、原田が聴き手になったインタビュー集になっている。原田は自身が小説家だが、本書のなかでは素人に近い立場を貫い

【美術ブックリスト】『本日は、お日柄もよく』原田マハ

2008年から徳間書店のPR 誌「本とも」に連載され、2010年8月に刊行された小説。製菓会社のOLである主人公が、幼馴染の結婚式で聞いたスピーチに感動し、スピーチライターへと成長していく物語。「師匠」にスピーチの極意を叩き込まれた主人公が、自身が頼まれた女友達の結婚式のスピーチを皮切りに、社長の挨拶、選挙の新人候補の街頭演説を任されていく。一人の女性の生き方が変わっていく姿とともに、企業間の競争や与党と野党のせめぎ合いの中で言葉が大きな役割を担っていることが、「師匠」が考え

【美術ブックリスト】『常設展示室』原田マハ

美術にまつわる史実をもとにしたフィクション小説を得意とする原田の短編集。モチーフとして一方に美術館の常設作品があり、もう一方にすべて女性の主人公の生き方がある。両者が交錯するところに物語が紡がれる。 その交錯する場所が、作品が収蔵・展示されている美術館の常設展示室といった具合。 列挙すると ・ピカソ「盲人の食事」 NY・メトロポリタン美術館 同館のスタッフ ・フェルメール「デルフトの眺望」 オランダ・マウリッツハイス王立美術館 現代系ギャラリーの営業職 ・ラファエロ「大公の

【美術ブックリスト】『妄想美術館』 原田マハ,ヤマザキマリ

今年の一月に出版された本。 美術にまつわる物語で知られる小説家の原田マハと、イタリア在住の漫画家のヤマザキマリによるアートにまつわる対談。それぞれが好きな美術館、美術家、作品を自由に語り合う。レオナルドの《モナリザ》への見解を話の糸口に、徐々に原田は主に19世紀から20世紀の印象派、ヤマザキは15世紀イタリア・ルネサンスに偏愛ぶりを披露。最後は、もしも自分が美術館の館長になったらどんな美術館、どんな展覧会を開くかという妄想で終わる。 ここまでが概要。 ここからが感想。 原田

【美術ブックリスト】『ジヴェルニーの食卓』原田マハ

2009年から13年に「すばる」に発表された4編の短編集。 主人公はいずれも女性。家政婦がマティスの思い出を語る独白、自身も画家だったメアリー・カサットのドガの彫刻についての証言、ゴッホの人物画のモチーフにもなった画材屋のタンギー爺さんの娘がセザンヌに向けて書いた手紙、モネの制作と生活を支える娘の日常描写といった具合。 著者の出世作『楽園のカンヴァス』と同時期に書かれた模様。 ここまでが概要。 ここからが感想。 印象派以降の画家にまつわる史実をもとにしたフィクションを得意と

【美術ブックリスト】原田マハ『太陽の棘』

初出は『別冊文芸春秋』2012年1月号から2014年1月号の連載。その後単行本化され、現在は文庫で読める。 実話に基づく物語。戦後アメリカ占領下の沖縄に赴任した精神科の軍医が、ドライブ中に偶然、地元の画家たちの村に迷い込んだことから物語は始まる。ギリギリの暮らしの中で情熱を失わなかった才能ある画家たちを描く。と同時にアメリカ人しかも軍関係者との複雑な関係も良く分かる。美術作品をモチーフにしてその背後の隠された物語を紡ぐ原田マハの小説の中でも、異色の作品。芸術家が抱える切なさ