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美術・アート系の本

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美術に関する新刊・近刊を中心にしたブックレビューです。
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2023年12月の記事一覧

【西村の勝手にアートブック・オブ・ザ・イヤー2023】

今年出版された美術系の書籍のなかから、西村が勝手にベスト1を決定します。月刊美術の新刊情報コーナーで今年紹介したおよそ130冊の候補から選びました。リンクはnoteに書いた私の紹介文です。 ■日本のアートブック部門 ベスト1■ 残念ながら該当なし ■日本のアートブック部門 次点(2冊)■ 『沖縄美術論 境界の表現 1872―2022』 翁長直樹 著(314ページ 四六判 2700円+税 沖縄タイムス社) 1872年の日本政府による琉球藩設置から現在までの沖縄の美術の通史と作

【美術ブックリスト】 『世界のユートピア 理想郷を求めた人類の野望と夢』オフェリー・シャバロシュほか著、神奈川夏子訳

トマス・モアのユートピア島に始まり、政治的挑戦や科学的開発など夢想に終わったものから実現したプロジェクトまで理想の世界を作る人類の挑戦の歴史全83話を網羅。無尽蔵の黄金、人道主義の労働者住宅、不落の要塞、社会主義農園、未来の食材、廃棄物ゼロの都市など発見もいろいろ。 ここまでが概要。 ここからが感想。 ビジュアルアトラスのシリーズの一冊だけあって、ユートピアというワンテーマで、これでもかというほど事例をあげて写真と図版で解説していく。 正直、ユートピアというにはこじつけでは

【美術ブックリスト】『企業ミュージアムへようこそ PR資産としての魅力と可能性 (上巻)』株式会社電通PRコンサルティング著

資生堂企業資料館、印刷博物館、クロネコヤマトミュージアムなど企業が手掛けミュージアムの役割や機能、可能性を紹介。企業のルーツと産業そのものの魅力や社会的意義のPRが、経営者と従業員や従業員同士の心をつなぎ、ユーザーとの触れ合いを生むなど、さまざまに貢献する姿がよくわかる。 ここまでが概要。 ここからが感想。 印刷博物館とパナソニックミュージアム以外は、存在を初めて知った。企業が自社の歴史とともに、その産業の発展の歴史を展示するのがたいていの企業ミュージアム。社会見学の行き先

【美術ブックリスト】 「沖縄画 8人の美術家による、現代沖縄の美術の諸相』土屋誠一、富澤ケイ愛理子、町田恵美編 

2023年8月に沖縄県立芸術大学で開催された同名展の記録。 作品と作家紹介に加えトークイベント「『沖縄画』展をめぐって」の白熱した議論も収録。素材もジャンルもことなり、もともと多様な沖縄の作家たちの作品をあえて地名でくくることへの賛 否がほぼそのまま記載されている。ここまでが概要。 ここからが感想。 作品を見る限り、沖縄に関わりのある画家8人とはいえ、なにか共通する特質があるわけではない。日本とは別の歴史と文化をもった沖縄には、「日本画」とは別の「沖縄画」というものが成立し

【美術ブックリスト】 『イタリア・ルネサンス 古典復興の萌芽から終焉まで』池上英洋

「キリスト教中心の考え方から脱した人間中心の文化現象」というステレオタイプの理解を根底から問い直し、美術史と社会史の両面からルネサンスを萌芽から終焉までを解説。なぜイタリアで始まったのか、なぜ衰退したのかなど美術の本質に迫る。創元美術史ライブラリーの一冊。 ここまでが概要。 ここからが感想。 まず政治、それから経済、そして宗教を含む文化という視点から、歴史的変遷を追い、それらがどのようにルネサンスといわれる文化状況へと結びついたかを説明している。したがって、なかなか美術に