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美術・アート系の本

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美術に関する新刊・近刊を中心にしたブックレビューです。
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2023年8月の記事一覧

【美術ブックリスト】『モーリス・ドニ イタリア絵画巡礼 芸術の主題をもとめて』モーリス・ドニ著

 1888年結成のナビ派の中心画家とされるフランス人画家ドニは、シチリア、ローマ、シエナ、フィレンツェ、ヴェネツィアなど各地をめぐり、その旅を記録する中で、美術のゆくえを見定めていった。ファシズム運動が不穏な高まりをみせていた百年前のイタリアの姿を、画家が独自の視点で映し出す。 ここまでが概要。 ここからが感想。 ナビ派の理論的支柱であった画家だけあって、文章が論理的で的確である。絵画巡礼というにふさわしく、キリスト教徒としてイタリアの街や風俗、美術品に触れてそこから作品の

【美術ブックリスト】『小作久美子詩集 私の「父帰る」』 小作久美子著 小作青史画

 戦争の渦中で少女期を迎えた著者が、実体験した戦争の悲哀を詩に綴る。思想犯として検挙された経済学者の父との再会、空襲の恐怖、戦後女性としての視点から家族、世相、自然の移ろいを刻んだ言葉など。挿画は夫で画家の小作青史が担当。ページをめくるたびに生きることの重さが伝わってくる。 ここまでが概要。 ここからが感想。 刊行元の社長から電話があった。版画家の小作先生が、奥様とコラボした詩と絵の本だという。 小作先生は多摩美大で長く教えられた版画の先生で、さまざまな版画技法を研究という

【美術ブックリスト】『虫めづる美術家たち』芸術新聞社監修

満田晴穂、佐藤正和重孝、 牟田陽日、福井敬貴など本誌でもおなじみの虫をモチーフに選んだ彫刻家・工芸家など美術家20名が大集結。昆虫とアートがクロスオーバーする現在の状況、昆虫学者の丸山宗利氏による解説、安村敏信氏の日本美術に描かれた虫たちの解説など「昆虫愛」に満ちた一冊。 ここまでが概要。 ここからが感想。 月刊美術では過去に「ムシとアートの相似形」という特集がある。パート2も企画されたほどの人気だった。これを企画・担当したのが同僚Sで、本書にも登場して昨今の虫アートの人気

【美術ブックリスト】『発掘された珠玉の名品少女たち』上薗四郎監修

「発掘された珠玉の名品 少女たちー夢と希望・そのはざまで 星野画廊コレクションより」展(開催中〜9月10日・京都文化博物館、のち福島、新潟、高知、広島、東京を巡回)の図録兼書籍。近代絵画史からこぼれ落ちた名品を紹介し続けてきた星野画廊が手元に残した121点を収録。 ここまでが概要。 ここからが感想。 星野画廊は星野桂三・万美子夫妻による共同経営の京都の画廊で、無名の画家でも多数コレクションし紹介してきたことで知られる。その50周年を記念した『星野画廊50年史』は50年間の展

【美術ブックリスト】『花房さくら 木彫作品集 毎日が猫の日』花房さくら著

猫たちの暮らしを覗くような、ユーモラスで愛らしい木彫を発表し続ける人気彫刻家・花房さくらの作品集。2014年の愛知県立芸術大学卒業制作から2023年の最新シリーズまで8年余りの作品をほぼ網羅。現在活動の拠点としている淡路島での制作の様子や、小説家・角田光代氏との特別対談も収録。いま注目を集める人気彫刻家の魅力をギュッと詰め込んだ。 高校卒業、自衛隊入隊、美大受験、台湾のアートフェアでの人気沸騰などアーティストとして成長するまでを振り返るエッセイを読むと、猫を作る喜びに満ちた

【美術ブックリスト】『現代陶芸論』外舘和子著

茨城県陶芸美術館主任学芸員などを経て多摩美術大学教授として陶芸について研究、発表を重ねる著者が、多様化する現代陶芸を再分類。創造性(創意)と実材表現(自身で制作)を現代陶芸の基準としたうえで、明晰な論理で4つに分類。カラー図版満載で鑑賞ガイドブックとしてもいい。 ここまでが概要。 ここからが感想。 冷静に考えると「創造性」と「自身で制作すること」が現代陶芸の基準であることは、当たり前といえば当たり前の話だ。しかしその当たり前であることを掘り下げて、そこから論理を展開すること

【美術ブックリスト】『超・色鉛筆アートの世界 神ワザ12人の彩りスタイル』 マール社編集部編

「超・色鉛筆アート展」(開催中〜9月3日・尾道市立美術館、9月9日〜11月5日・神戸ファッション美術館)の展覧会公式図録。身近な画材・色鉛筆の神ワザの使い手たちが描いた動物、風景、花、食べ物などを収録。制作風景や使用画材、紙、各作家の表現方法も紹介する。リアルな表現の極意を探れるかも。 ここまでが概要。 ここからが感想。 リアルだったり技巧的に優れてはいるのだけど、色鉛筆という素材の性質上、趣味の領域にとどまっていたアートが美術館でも閲覧できるのはいいことだと思う。今後の課

【美術ブックリスト】『世界の美しい美術館』パイ インターナショナル編

ヴェルサイユ宮殿美術館、オルセー美術館、ウフィツィ美術館、ヴァチカン美術館など豪華絢爛な宮殿や議事堂のような荘厳な建物、スタイリッシュなアート空間など世界の美しい美術館を84館を掲載する美しいビジュアルブック。作品と建物を巡る旅へと誘う。 ここまでが概要。 ここからが感想。 掌サイズのコンパクトな判型。写真がとてもクリアで綺麗なのは、すべて晴天下で撮影されたからだろうか。とにかく綺麗な写真が続くなあと思って、巻末の出展を確認したら、多くがアフロのものだった。納得。 パイ

【美術ブックリスト】『文化財学入門』今津節生ほか著

考古学、美術史学、保存科学、史料学、文化財防災、博物館学など文化財学のすべてが揃う奈良大学の文化財学科。その教授陣が研究内容を分かりやすく解説。文化財を通して歴史を正しく紹介し、文化財のこれからを助言する。3Dデータを活用した研究など最前線がわかる。 ここまでが概要。 ここからが感想。 「奈良大学の魅力はなんと言っても奈良に立地していることである」という冒頭の言葉通り、かつての都であり文化財が多数残る場所の大学として、文化財研究のメッカとしてのアイデンティティを掘り下げる本