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美術・アート系の本

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美術に関する新刊・近刊を中心にしたブックレビューです。
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2022年8月の記事一覧

【美術ブックリスト】『春はまた巡る』デイヴィッド・ホックニー

イギリスの著名画家ホックニーの現在のライフスタイルや発言を、美術評論家のマーティン・ゲイフォードがインタビューやメール、SNSでのやりとりを組み合わせてまとめたもの。副題は「芸術と人生とこれからを語る」。 プールのある情景などで知られる現代ポップアートの代表作家であり、古典絵画についても造詣が深い。2人の前著『絵画の歴史』は洞窟壁画からipadで描く絵画までを創作者の立場から解説して相当面白かったが、今回はいわばホックニー自身が生活の中でどう描いてきたか、何を考えてきたかを記

【美術ブックリスト】『 メディア論―人間の拡張の諸相』マクルーハン著

一時と比べると下火になった「メディア論」の古典中の古典。 テレビ、ラジオ、広告、自動車、活字といった多様なメディアの本質をさまざまな例を挙げることで語っていく。電気が時代の最先端技術となった頃に執筆されていて、かろうじてコンピュータやオートメーションまでも射程に入れている。 著者のハーバート・マーシャル・マクルーハンはカナダ人で、もともとニュー・クリティシズムを論じる英文学の教授だったが、メディア研究によって一躍話題の人となった。 「メディアはメッセージである」とは、伝えられ

【美術ブックリスト】『アートライティング1 アートを書く・文化を編む』上村博・大辻都著

発行元は「京都造形芸術大学 東北芸術工科大学 出版局 藝術学舎」。京都造形芸術大学の通信教育部で行われている「アート・ライティング」に即して作成された、と思われるテキストブック。 ここでいうアート・ライティングとは、美術に限らず音楽、建築、工芸といった芸術作品についての記述全般を意味する。 第1章では文化の記述の観点から、過去の例としてホメロス『イーリアス』に登場するヘパイストス作成の盾の装飾の描写や、ローマ時代に書かれたギリシアのパルテノン神殿の見聞録、中国の画賛などが挙げ

【美術ブックリスト】『開かれた社会―開かれた宇宙』カール・R・ポパー

 ポパーはオーストリア生まれの20世紀イギリスで活動した哲学者。科学哲学の分野で、科学的研究の方法そのものの概念を根底から問い直した哲学者として知られる。あらゆる法則あらゆる定理といったものは、反証が見出され、新しい法則が発見されるまでの暫定的なものでしかないこと。様々な具体例をもとに帰納的に法則を証明することはできないこと。科学は発展的に進化するとはいうのは誤謬であり、したがってヘーゲルやマルクスの発展史観も誤謬であることなど、社会科学や政治哲学の分野でも主張を展開した。批