マガジンのカバー画像

美術・アート系の本

367
美術に関する新刊・近刊を中心にしたブックレビューです。
運営しているクリエイター

2021年11月の記事一覧

【美術・アート系のブックリスト】 圀府寺司『ユダヤ人と近代美術』

広島市立大学の油絵専攻の学生を対象に、講義「絵画論」を依頼されました。そこで「絵画の意味論」と題して、絵画は描かれたイメージ以上の存在であり、さまざまな意味の担い手であるという内容を話すこととしました。 その中で、西洋ではカトリックとプロテスタント、東洋では儒教と道教の影響がそれぞれの時代の美術作品の前提になっていることを話しました。ユダヤ教も同様で、特に現代美術の世界では大きな意味をもっています。 講義では深く踏みいったことは話せなかったのですが、ユダヤ人が美術とどう向

【美術・アート系のブックリスト】 小針 由紀隆『サルヴァトール・ローザ—17世紀イタリアの美術家が追い求めた自由と名声』

サルヴァトール・ローザは、17世紀イタリアの風景画家。 こう書いても日本人にはあまりビンとこないかもしれないが、「風景画家」と呼ばれることは、当時の画家にとってはある意味屈辱的だったかもしれない。というのも、絵画ジャンルにはヒエラルキーがあり、神話画や歴史画といった上位ジャンルに対して、風景画や戦闘画は下位に置かれ、実際ローザは神話画なども描いていたにもかかわらず、風景画でしか評価されずに憤っていたとされる。  またパトロンに依存する伝統にも反発し、注文ではなく展覧会で発

【美術・アート系のブックリスト】高山百合「近代日本洋画史再考──「官展アカデミズム」の成立と展開」

官展とは、官設展覧会のことで、明治40年を第一回とする文展(文部省美術展覧会)を原点に、そののち帝展、新文展、日展と名称を変えていった日本特有の展覧会のこと。日展は昭和33年に完全に民営化されるので、厳密には日展も入るのだが、一般には戦前の日展以前の官展を指す。  本書はその成立と展開を追いながら、「官展アカデミズム」と呼ばれる穏健な写実表現の意義と評価の変遷についても言及していく。とはいえ厖大な展覧会の回数、厖大な画家、厖大な作品を対象とすることはできない。そこで著者は、