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美術・アート系の本

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美術に関する新刊・近刊を中心にしたブックレビューです。
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2021年6月の記事一覧

美術の本 【アーティストになるための武器 番外】

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【美術・アート系のブックリスト】 籔内佐斗司監修『古典彫刻技法大全』求龍堂

籔内佐斗司が監修し、東京藝術大学 大学院美術研究科 文化財保存学専攻 保存修復彫刻研究室 が編集した技法の研究書。籔内氏の16年間の同大学院での研究の成果を、退任を機にまとめた。 実際に調査・研究した仏像を例に、材料、技法、最先端技術を用いた分析、修復の実際、模刻と復元を豊富な写真資料で解説する。アカデミックな内容が「です・ます」調で解説することでとても読みやすくなっている。 本書冒頭の玄関での履き物の揃え方の下りに、籔内氏の日本文化伝承の気概が集約されている。

【美術・アート系のブックリスト】滝沢恭司著『もっと知りたい川瀬巴水と新版画 』(アート・ビギナーズ・コレクション)東京美術

著者は町田市立国際版画美術館学芸員。江戸の浮世絵、明治の近代浮世絵を経て大正昭和に花開いた新版画を、画家の川瀬巴水を中心に図説する。版元の渡邉木版との共同作業、日本画の研究団体である郷土会の役割、アメリカでのブーム、自刻自刷りの「創作版画」との緊張関係などが立体的に分かる。 大きめの判型で、綺麗な図版が見やすく構成されている。そのかわり項目を整理してページ数を少なめにすることで安価に抑えてある。入門書としても概説書としても便利。

【美術・アート系のブックリスト】 増村 岳史 著『東京藝大美術学部 究極の思考』クロスメディア・パブリッシング

 東京芸術大学で行われている教育に一般では学べない思考方法を学ぼうという意図で書かれた本。学生、卒業生、元教授らの証言をもとに、論理とは別の考え方や観察の仕方に切り込むという内容。  第1章は入試。毎年全く違う内容と形式のため傾向がなく対策することのできない入試問題。それに受験生がどう立ち向かい合格したかの証言を集める。  第2章は在学中に学ぶこと。入試とは一転して受験で学んだ事を捨てる事が求められるとか、佐藤一郎さんが教える立場で何を伝えようとしたかが説明される。  第3章

【美術・アート系のブックリスト】みうらじゅん著『「ない仕事」の作り方 』文春文庫

 TBSラジオ「安住紳一郎の日曜天国」を聴いていたら、みうらじゅんがゲストとして登場した。2015年初出、18年に文庫化された本書が本屋大賞の「発掘部門/超発掘本!」を受賞したという。少しだけ話された内容を聴いて、興味をもった。  結論からいうと、感動的であった。  地方自治体のイベントで隅っこにいる着ぐるみに興味をもち、自分の足で出かけては写真を撮り、話を聞き、情報を収集し、雑誌に売り込み、イベントを仕掛けた。のちに「ゆるキャラ」とネーミングされて市民権を得て今日までその

【美術・アート系のブックリスト】福井安紀著『職業は専業画家』誠文堂新光社

 編集部のSが、アートソムリエの山本冬彦さん絶賛と聞きつけて取り寄せた一冊。  20年間、絵画を制作しその販売収益だけで生活してきた画家が、「専業の絵描き」という生き方ができるように後進のために書いた本。展示の仕方、値段のつけ方、販売、接客、芳名帳に名前と住所を書いてもらう方法、礼状の書き方までさまざまな方法を披露する稀有な本。サブタイトルに「無所属で全国的に活動している画家が、自立を目指す美術作家・アーティストに伝えたい、実践の記録と活動の方法」とある。  著者は20歳から

【美術・アート系のブックリスト】杉全美帆子著『イラストで読む ルネサンスの巨匠たち』河出書房新社

16世紀に書かれたジョルジョ・ヴァザーリ『芸術家列伝』は史上初の西洋美術の歴史本。ルネサンス初期のジョットからレオナルドやミケランジェロらの盛期ルネサンスの大家まで仕事ぶりやプライベートなエピソードが盛り込まれている。現代風にイラストと作品写真で、そうした逸話を紹介するのが本書。 小ネタというか蘊蓄がたくさん。特にミケランジェロのキャラが立っていて面白い。

【美術・アート系のブックリスト】渡邊晃一著『モナ・リザの教科書』日本文教出版

ご存知レオナルドのモナ・リザをあらゆる角度から分析、解体、考察している。謎、来歴、盗難、遠近法など美術史学的アプローチから、イボを医学的に診断したり、額縁にも一考察加えたり。後世への影響も、美術だけでなく文学、音楽、漫画、映像ととにかく詳しい。北原佐和子の「モナリザに誘惑」まで網羅してある。教科書というより資料集に近いかも。

【美術・アート系のブックリスト】東北芸術工科大学監修『TOHOKU CHANGE MAKERS 東北芸術工科大学美術科2020セレクション』左右社

 学内で卒業・修了制作展は公開日をかぎって来場自粛を要請。東京都美術館での東京展も中止となった東北芸術工科大学美術科。 その代替案であり、別の「関わり」を模索するのが本書。  伊藤百香さんの幅7メートルを超える大作の日本画をページの皮切りに、約70人の若き作家たちの作品を紹介する。時代へのメッセージと若さと不安とエネルギーで未来を開拓する姿勢が読み込める。  座談会「これから、アーティストとして向き合うこと」は出色の対話。  OGで海外で活躍するアーティスト皆藤齋さんのコ