2019.8.33

いつも上ばかり向いているのは愚か者でした。 夏の死骸を踏み割って、そうまでして得たい快楽はあったのかと、断罪を欲するようになる。私の背を割ってくれ。必要以上に殺してしまった夏の微笑が渇いた感触となって足の裏に張り付き痺れ出す。済まないことをした、嗚呼わたしはただ眩しかった、見下した彼ら彼女らの日々が、娯楽が、悪意のない汗が、眩しかっただけなのだ。

規則正しく夏を穿つ踏切 水中花は金魚に憧れて静かに死んでゆくだけなのですか。青く染まった舌で無邪気に笑う下駄の音に私はいつまでも泣いていた。夕方、空は伝線して、僅かな隙間から射す光に神様、と祈りを囁いた。沸き切った汽車のあぶくに揺れる蜃気楼の行く先を懐かしい歌と並んで眺めている。

この雨で沢山の花が咲き、沢山の蟲が死にゆきました。舛花の黄昏、泛かぶアバらの橙に頬ヤケル頃、薄羽に透ける夕焼けを千切っては捨てた。私が血塗れで作り上げた泥臭い夏は、秋も冬も知らないまま生まれた無垢で可愛い春に一瞬で奪われていく。知っていた、知っていた、悲しいくらいに知っていたことだから。白妙の脂汗を絞りながら、薄桃のランジェリーを遠く眺めている。

敢えて書かないことは、夏を野放しにして、ずっと留まらせることの出来る方法だと思っていた。赤銅の溶け落ちた道に青を伸ばして、あの人の墓へ行こう。固く盛り上がった白雲に、いつかのサイレンが絡まって、山を、田畑を、町を、歪ませている。誰からも相手にされず年をとった夏草が、同じように私を隠して、数えきれないほどの季節を殺し続けています。

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