2020.3.31 天使みたいな子がいた

今の職場では2度目の別れの季節となった。卒園と共に職場のこどもたちとはお別れになる。昨年は別の仕事を任されていたので、玄関には一瞬顔を出す程度であまりお別れらしいお別れをしていない。今年は私が保護者対応をしなければならなかったため、必然的にお別れらしいお別れをすることになってしまった。

正直こどもはめちゃくちゃ嫌いだ、Twitterにも度々書いているけど、本当にこどもが嫌いなので今の職場には希望もクソもない。泣きてえのはこっちの方だよ、なんでもかんでも褒められて羨ましいな等、ガキを前にすると捻くれたことばかり感じてしまうから、できればガキなんか1秒たりとも見ていたくない。しかしまあこの仕事にしか採用されなかったので、仕方なく、仕方なく仕事を仕事としてこなしていた。ただそれだけで、これを書いている今も、それだけだと、そう思っている。

お別れが本当に本当にかなしかった!

こどもではなく人として大好きだった。人として尊敬できる子たちばかりだった。毎日、泣いたり、笑ったり、怒ったりを、全力でやっていた。通したい思いを堪えて、暴れていた。そして次第に暴れなくなっていった。あの熱量はどこいったん、隠しとんか、どこに、小さい身体の中に、と思うと、しんどくて堪らなくなり、しんどいのは実際彼らでしかないのに、自分勝手に不安になったりする。


天使みたいな子がいた。

でもその子は人間で、だから出会えて、目を合わすことができた。嫌だった。つらかった。天使みたいなのに、人間として、人間なんかと、人間なんかと一緒くたになって、この子は、これから途方もない時間を過ごしていくのかと思うと、本当に嫌だった。目が合うと大きな黒目にブサイクなババアがうつった。こんなもん見なくていいのに。

その子はまだ年中さんだから、本当ならあと一年成長を近くで見ることができたんだけど、急に決まったお引っ越しで、遠くに行ってしまうことになった。急なお別れのお知らせだった。

「もう会えなくなっちゃう、おわかれだよ」「なみだでてる?  マスクとメガネ外してみて」「先生なんでないてる?  かなしい?  おわかれさみしい?」

限界だった!

個別療育で課題をやっている最中だったが、大泣きしてしまった。もっともっと一緒におりたかった、なんで遠くに行ってしまうんか、お勉強終わりたくないけんもうできん、と即クビになるようなことを平気で言ってしまったが、もうこれ以外に何も言うことはできなかった。「なかないで、まだプレイルームであそべるよ」

遊べんのや、今日はまだ沢山個別療育のお仕事がある、でも嬉しくて、そうならいいなと思って、そうだね、そうだよね、頑張らんといけんな、ごめんなと言った。本当はそんなこと1ミリも思っていないし、頑張りたくもなかった。でも、「しのみや先生のかっこいいとこ、みーせーて!」と、いつも大人に言われてきたのであろう励ましの言葉をその子がかけてくれるもんだから、かっこいいとこを見せなきゃいけなくなった。ぐちゃぐちゃでかっこわるい顔面のまま、できるだけかっこよく、いつも通りに気持ちを持ち直して、個別療育を終わらせた。えらかったね、なんてよ、本当に偉いのはあんた自身だよ、人にがんばろーって思わせることなんて、誰にでもできることじゃないんだぞ。

知っとる、この子らは、褒めてくれる大人なら誰でも良くて、別に懐いているとかそういうわけではなくて、ただここにあるとても小さな世界で、自分より大きな人間を大人だと認識して、慕っているだけだ。私は個を出すべきではなくて、ただこの子らの心を安らかにすることができる“かもしれない”言葉や行動を選んで、仕事として、差し出すだけだ。それだけの関係、たったそれだけ。たったそれだけ。忘れて、なんて言わなくても、きっと一瞬で消えてしまえることが、本当に有り難い。よかった、本当によかった。

よかった、よかったと思いながら、玄関では、わあわあ言って泣いてしまって、本当に辛くて辛くて、ずっと泣いていた。

その子は天使みたいに笑って、

「かなしまないで、げんきでがんばって!」と言う。

かなしまないで、げんきでがんばろうと思う。

「またね!」

天使みたいに消えちゃった。人間の男の子がいた。あるはずのない「またね」が嘘みたいに可愛くて可愛くて、信じそうになる。また、なんてのは、どんなにお願いしたって、もうないけど、それでいいと心から思う。どうか誰からも虐げられることなく、すきなことを目一杯して、のびのびと大きくなっていってほしい。無責任に思う。頑張り屋さんだったね。難しかった紐通し、すごく得意になったよね。冗談を言ってくれるようになったよね。なんで、どうして、どうなる、たくさん不思議を共有してくれたよね。血が出たら笑っていたね。何度も何度も同じ話をしたよね。その度、何度も何度も同じように可愛いなって思ったよ。関係ないよね。関係ないよね。お仕事だから関係ないよね。関係ない、わたしは友達じゃない、お母さんじゃない、なんでもないただのお仕事の人だから、記録を取って、終わりです。

かなしまないで、げんきにがんばろうと思います。



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