人間失格 第五のメモ
ヨシちゃん イメージ図↓
けれども、その頃、自分に酒を止めよ、とすすめる処女がいました。
「いけないわ、毎日、お昼から、酔っていらっしゃる」
バアの向いの、小さい煙草屋の十七、八の娘でした。ヨシちゃんと言い、色の白い、八重歯のある子でした。自分が、煙草を買いに行くたびに、笑って忠告するのでした。
「なぜ、いけないんだ。どうして悪いんだ。あるだけの酒をのんで、人の子よ、憎悪を消せ消せ消せ、ってね、むかしペルシャのね、まあよそう、悲しみ疲れたるハートに希望を持ち来すは、ただ微醺《びくん》をもたらす玉杯なれ、ってね。わかるかい」
「わからない」
「この野郎。キスしてやるぞ」
「してよ」ちっとも悪びれず下唇を突き出すのです。
としが明けて厳寒の夜、自分は酔って煙草を買いに出て、その煙草屋の前のマンホールに落ちて、ヨシちゃん、たすけてくれえ、と叫び、ヨシちゃんに引き上げられ、右腕の傷の手当を、ヨシちゃんにしてもらい、その時ヨシちゃんは、しみじみ、
「飲みすぎますわよ」と笑わずに言いました。
「やめる。あしたから、一滴も飲まない」
「ほんとう?」
「きっと、やめる。やめたら、ヨシちゃん、僕のお嫁になってくれるかい?」
しかし、お嫁の件は冗談でした。
「モチよ」
「ヨシちゃん、ごめんね。飲んじゃった」
「あら、いやだ。酔った振りなんかして」
ハッとしました。酔いもさめた気持でした。
「いや、本当なんだ。本当に飲んだのだよ。酔った振りなんかしてるんじゃない」
「からかわないでよ。ひとがわるい」
てんで疑おうとしないのです。
「見ればわかりそうなものだ。きょうも、お昼から飲んだのだ。ゆるしてね」
「お芝居が、うまいのねえ」
「芝居じゃあないよ、馬鹿野郎。キスしてやるぞ」
「してよ」
「いや、僕には資格が無い。お嫁にもらうのもあきらめなくちゃならん。顔を見なさい、赤いだろう? 飲んだのだよ」
「それあ、夕陽が当っているからよ。かつごうたって、だめよ。きのう約束したんですもの。飲む筈が無いじゃないの。ゲンマンしたんですもの。飲んだなんて、ウソ、ウソ、ウソ」
薄暗い店の中に坐って微笑しているヨシちゃんの白い顔、ああ、よごれを知らぬヴァジニティは尊いものだ
そうして自分たちは、やがて結婚して、
じっさい、ヨシ子は、信頼の天才と言いたいくらい、
あの煙草屋のヨシ子を内縁の妻にする事が出来て、そうして築地、隅田川の近く、木造の二階建ての小さいアパートの階下の一室を借り、ふたりで住み、
自分が鎌倉で起した事件を知らせてやっても、ツネ子との間を疑わず、それは自分が嘘がうまいからというわけでは無く、時には、あからさまな言い方をする事さえあったのに、ヨシ子には、それがみな冗談としか聞きとれぬ様子でした。
自分の部屋の上の小窓があいていて、そこから部屋の中が見えます。電気がついたままで、二匹の動物がいました。
「なんにも、しないからって言って、……」
「いい。何も言うな。お前は、ひとを疑う事を知らなかったんだ。お坐り。豆を食べよう」
ゆるすも、ゆるさぬもありません。ヨシ子は信頼の天才なのです。ひとを疑う事を知らなかったのです。しかし、それゆえの悲惨。
神に問う。信頼は罪なりや。
ヨシ子が汚されたという事よりも、ヨシ子の信頼が汚されたという事が、自分にとってそののち永く、生きておられないほどの苦悩の種になりました
「おい」
と呼ぶと、ぴくっとして、もう眼のやり場に困っている様子です。
やたらに自分に敬語を遣うようになりました。
果して、無垢の信頼心は、罪の原泉なりや。
これは、てんで物語にも何もなりません。
いつも自分から視線をはずしておろおろしているヨシ子を見ると、こいつは全く警戒を知らぬ女だったから、あの商人といちどだけでは無かったのではなかろうか、また、堀木は? いや、或いは自分の知らない人とも? と疑惑は疑惑を生み、
可哀想に、あの子にはレッテルの洋字が読めないので、爪で半分掻きはがして、これで大丈夫と思っていたのでしょう。(お前に罪は無い)
ヨシ子は、何か、自分がヨシ子の身代りになって毒を飲んだとでも思い込んでいるらしく、以前よりも尚いっそう、自分に対して、おろおろして、
「痛くないんですか?」
ヨシ子は、おどおど自分にたずねます。
医師は、
「まあ、しばらくここで静養するんですね」
と、まるで、はにかむように微笑して言い、ヒラメと堀木とヨシ子は、自分ひとりを置いて帰ることになりましたが、ヨシ子は着換の衣類をいれてある風呂敷包を自分に手渡し、それから黙って帯の間から注射器と使い残りのあの薬品を差し出しました。やはり、強精剤だとばかり思っていたのでしょうか。
「いや、もう要らない」
実に、珍らしい事でした。すすめられて、それを拒否したのは、自分のそれまでの生涯に於いて、その時ただ一度、といっても過言でないくらいなのです。
、あれほど半狂乱になって求めていたモルヒネを、実に自然に拒否しました。ヨシ子の謂わば「神の如き無智」に撃たれたのでしょうか。自分は、あの瞬間、すでに中毒でなくなっていたのではないでしょうか。
ヨシ子 の話は 読者に色々考えさせるターン!
例えば処女?
堀木は何で小声で「見ろ!」ビックリ付いての「見ろ!」普通は「見ろ」だろう 堀木の役割は予言 教えてやってるんじゃないかな
「同情はするが、しかし、お前もこれで、少しは思い知ったろう。もう、おれは、二度とここへは来ないよ。まるで、地獄だ。……でも、ヨシちゃんは、ゆるしてやれ。お前だって、どうせ、ろくな奴じゃないんだから。失敬するぜ」
↑は違和感しかない ここは違和感だらけ
堀木は? いや、或いは自分の知らない人とも? と疑惑は疑惑を生み、(ゲス顔)
ヨシ子は信頼の天才 ヴァジニティ「神の如き無智」
じゃねえんじゃねえか?
って思うようになってるように見えるっていうレッテルを貼ったけど半分剥がして見るのが ヨシ子
第一こいつ狂人だし 漢字変換してない部分もわざとなんだろうねえ? ツネ子の対義語はヨシ子かも
とういうことで。処女のようにも遊女のようにも見える
白拍子 静御前
この頃の葉蔵は大分まともに見えるけどきっと違う
初代の浮気を処女に例えるの?女は怖いターンここはそういう感じで見る モチ話繋がらなくなるから部分的にしか見れないけど
太宰治の人間失格に関係ありそうなやつ↓
1930年(昭和5年・21歳)
初代、置屋から飛び出し太宰の元で同棲。このことと、非合法活動のせいで、実家と縁を切られる(分家除籍)
1930年(昭和5年・21歳)
カフェの女給・田部シメ子(=田辺あつみ)と在学中に入水自殺する。シメ子だけ死亡。太宰の心に暗い影を落とし、のちの創作活動にも影響する。その後、初代と仮祝言をあげる。
1937年(昭和12年28歳)
内縁の妻になった初代とカルモチン自殺未遂を起こす。
原因は、入院中の初代の浮気であった。相手が太宰の義弟でありショックする。
1940年頃(昭和15年・31歳)
歌人太田静子から日記告白文が届く。
太宰から連絡し静子来訪。静子の方から恋に落ちたとある。
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