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人間失格 第二のメモ

その頃自分に特別の好意を寄せている女が、三人いました。

ひとりは、自分の下宿している仙遊館の娘でした。

「ごめんなさい。下では、妹や弟がうるさくて、ゆっくり手紙もかけないのです」といって何やら自分の机に向かって一時間以上も書いているのです。

ウムと気合いをかけて腹這いになり、煙草を吸い、

「女から来たラヴ・レターで、風呂をわかしてはいった男があるそうですよ」

「あら、いやだ。あなたでしょう?」

「ミルクをわかして飲んだ事はあるんです」

「光栄だわ、飲んでよ」

へへののもへじでも書いているのに違いないんです。「見せてよ」

カルモチンを買ってきてくれない?「いいわよ、お金なんか」

下宿の娘から、短歌を五十も書きつらねた長い手紙が来ました。

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もうひとりは、女子高等学等師範の文科生のいわゆる「同志」でした。

「私を本当の姉だと思っていてくれていいわ」

そのキザに身震いしながら、自分は、

「そのつもりでいるんです」 イメージ図↓

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ツネ子  イメージ図↓

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大カフェの女給 「十円しかないんだからね、そのつもりで」と言いました。

「心配いりません」 どこかに関西の訛りがありました。

「こんなの、おすきか? 「お酒だけか?うちも飲もう」

ひどい歯痛に襲われてでもいうように、手で頰をおさえながら、お茶を飲みました。     完全に孤立している感じの女でした。イメージ図↓

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自分より二つ年上であること、故郷は広島、あたしには主人があるのよ、

いわゆる俗物の眼からみると、ツネ子は酔漢のキスにも価しない、ただ、みすぼらしい、貧乏くさい女だったのでした。

我を失うほど酔ったのも、その時がはじめてでした。眼が覚めたら、枕もとににツネ子が坐っていました

「金の切れめが縁の切れめ、なんておっしゃって、冗談かとおもうていたら、本気か。きてくれないのだもの。ややこしい切れめやな。うちが、かせいであげても、だめか」

「だめ」

それから、女も休んで、夜明けがた、女の口から「死」という言葉がはじめて出て、女も人間としての営みに疲れ切っていたようでしたし、また、自分も、世の中への恐怖、わずらわしさ、金、れいの運動、女、学業、考えると、とてもこの上こらえて生きて行けそうもなく、そのひとの提案に気軽に同意しました。
 けれども、その時にはまだ、実感としての「死のう」という覚悟は、出来ていなかったのです。どこかに「遊び」がひそんでいました。


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              名探偵コニャン

それから、女も休んで、 

そうか!一夜明けてから急にツネ子=女 になってる!そういう事だな  コニャン

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女の口から「死」という言葉がはじめて出て  そのひとの提案に気軽に同意しました。

そうか!うちが、かせいであげても、だめか  って言ってるのに急に死にたいは変! そういうことだなコニャン!

その日の午前、二人は浅草の六区をさまよっていました。喫茶店にはいり、牛乳を飲みました。
「あなた、払うて置いて」 自分がまごついているので、女も立って、自分のがま口をのぞいて、

「あら、たったそれだけ?」
 無心の声でしたが、これがまた、じんと骨身にこたえるほどに痛かったのです。はじめて自分が、恋したひとの声だけに、痛かったのです。それだけも、これだけもない、銅銭三枚は、どだいお金でありません。それは、自分が未だかつて味わった事の無い奇妙な屈辱でした。とても生きておられない屈辱でした。その時、自分は、みずからすすんでも死のうと、

実感として決意したのです。

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女のひとは、死にました。そうして、自分だけ助かりました。

動機  

「やめた!」「さすがのおれも、こんな貧乏くさい女には、・・・・・・」

本当に、いままでのひとの中で、あの貧乏くさいツネ子だけを、すきだったのですから。

そうか そういうことか!コニャン!




「ほんとうかい?」
 ものしずかな微笑でした。冷汗三斗、いいえ、いま思い出しても、きりきり舞いをしたくなります。

背後の高い窓から夕焼けの空が見え、鴎が、「女」という字みたいな形で飛んでいました。


第二の手記は 多分嘘がある 




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